腸と免疫

動物は消化管を囲む管である、といってもいいほど腸管は大切な臓器です。消化管は栄養を吸収するだけではなく、ホルモンをだしたり、消化酵素をだしたりとさまざまな働きをします。

免疫反応は、無顎魚類から有顎魚類へと進化し、硬骨魚類が出現するとともに発達してきました。顎ができることによって、固いものを食べられるようになり、それに伴い消化管が傷ついて感染の危険が高まったからではないかという推測もされているほど、腸管と免疫とのの関連は深いのです。

ヒトでは、腸の表面積はテニスコートの1.5倍といわれており、最大の免疫組織としてリンパ球の半分以上が存在しています。腸管は、常に食物の摂取などを通して外来抗原に接するうえに、500種以上100兆個にも達する細菌(腸内細菌)と接していることも特徴のひとつです。また消化管には、交換神経、副交感神経に次ぐ第三の自律神経とされる腸管壁内神経系のネットワークがあり、中枢神経系からの調節を受けつつ独自の調節機能を発揮します。腸管は生体の三大制御システムである神経系、免疫系、内分泌系がクロストークしながら、自らの恒常性を維持するとともに、生体防御の最前線を担っています。

赤痢菌やコレラ菌、そして最近販売禁止になった生レバーなどの食中毒の原因としても知られる病原性大腸菌など、病気を起こす細菌は研究されてきましたが、通常に存在する腸内細菌は、培養が難しい菌種も多く、これまでその全貌は明らかになっていませんでした。しかし最近、遺伝子配列解析の技術が進歩したことにより、腸内細菌の全貌を把握しようという研究が始まっています。腸内細菌による免疫調節は、動物モデルでは炎症や自己免疫に関係すると考えられているIL-17を産生するT細胞の生存に重要な細菌や、免疫を抑制するT細胞を調節する腸内細菌が見つかり、注目されています。

実際に病気との関連でも、炎症性腸炎や特発性血小板減少症などは、腸内細菌と病態が関連することが知られています。また腸内細菌は肥満などにも関係するという研究結果もあり、その研究はこれから大きく発展していくでしょう。腸内細菌叢研究が進むと、食事などによって病気を予防したり治療したりすることができるのではないかと期待されています。機能性食品として様々なヨーグルトが販売されていますが、善玉の腸内細菌のことがわかってくると、単なる整腸剤としてではなく、免疫機能をはじめいろいろな生体機能の調節が可能になるかもしれません。



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