自己免疫疾患の病態研究と新しい治療法の開発、
神経と免疫のクロストークを2大テーマとして研究を行っています。
免疫は、微生物などの外界からの侵入者から身を守るための防御機構です。
しかしこの機能が暴走すると、アレルギーや自己免疫といった病気になります。
私たちの研究室では、神経に対する免疫異常によっておこる病態を中心に、自己免疫について基礎的研究から臨床検体を使う臨床研究まで幅広く行っています。
自己抗原に対する免疫応答は通常抑制されており、この状態を自己抗原に対する免疫寛容といいます。この免疫寛容が何らかの原因で十分にはたらかないと自己免疫病がおこります。免疫寛容の機序のひとつとして、免疫制御細胞など免疫抑制作用をもつリンパ球による自己免疫応答の抑制が知られています。私達は免疫制御細胞の中でも、特に、自然リンパ球に注目して研究しています。自然リンパ球とは、自然免疫のエフェクター機能を発揮するリンパ球と捉えられ、Natural Killer (NK) 細胞や、遺伝子再構成を伴う抗原受容体を有しながらも自然免疫担当細胞に類似した抗原認識、迅速な応答様式を持つinvariant Natural Killer T (iNKT) 細胞、Mucosal Associated Invariant T(MAIT) 細胞、gamma delta T(γδT) 細胞などを含み,自然免疫と獲得免疫を橋渡しする重要な役割を果たしています。
iNKT細胞については、iNKT細胞を特異的に刺激し自己免疫病態を抑制するサイトカインを選択的に産生させる新しい糖脂質抗原OCHを合成し、治療薬としての開発をめざしています(Nature 2001, J Clin Inv 2004 etc.)。また、MAIT細胞については、生体における機能について初めて報告をしました(Nature Immunol 2006)。現在、マウスおよびヒトにおける正常、病態下における機能についての解析を行っています。
免疫が自己成分を攻撃しない機序として、上記のような免疫制御細胞が重要な働きをするとともに、リンパ球自身が抗原に対して反応しなくなるアナジーという状態があります。アナジーの分子機序はまだ不明な点が多いですが、様々なユビキチンE3リガーゼが関与していることがわかってきました。これまで我々は、E3リガーゼであるcbl遺伝子の機能を明らかにしてきました(PNAS 1998, MCB 1997, JBC 1996,1998,1999, 2000, PNAS 2002, etc.)。現在はGRAIL分子に注目し、ノックアウトマウスや2次元電気泳動などの蛋白分析を組み合せた解析により、アナジーの分子機序の解明をめざしています。
自己免疫疾患は、その原因がいまだ明らかではなく、画期的な治療法の開発が望まれています。現在開発中のOCHは、新規治療薬としての可能性を期待していますが、消化管ホルモンGhrelin(J Immunol 2009)やCOX-2阻害剤(Brain 2007)など、既存薬剤や新規治療薬についても研究を行っています。
免疫系と神経系は、ネットワーク機能を有する2大高次機能システムとして、多細胞生物の発達とともに互いに影響を与えながら飛躍的に発展してきました。たとえば、ストレスがかかると免疫機能が変化するというのもその一例です。この2大高次機能のクロストークについて、これまで神経ぺプチドYと免疫機能(J Immunol 2003)、グレリンと免疫機能の関係(J Immunol 2009) などについて研究を行ってきました。また、現在では血球由来細胞と考えられるグリア細胞であるミクログリアについて、分化や機能解析を行っています。