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プレスリリース詳細

2015年12月24日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)
難病「封入体筋炎」とC型肝炎ウイルスの関連を証明
~全国調査をもとに世界に先駆けて報告~
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:樋口輝彦)神経研究所(所長:武田伸一)疾病研究第一部の西野一三部長、漆葉章典研究員らの研究グループは、厚生労働省指定難病の一つである、封入体筋炎の発症にC型肝炎ウイルス感染が関与することを明らかにしました。
封入体筋炎は主に50代以上の高齢者に発症する筋疾患で、手指や下肢の筋力が低下し、発症後平均7年で歩行不能となります。原因は不明で、確立された治療法はありません。近年、本邦では封入体筋炎の患者数は急増しており、病態解明、治療法開発が急がれます。
研究グループは、封入体筋炎の発症に関わる因子を調べるために全国調査を行い、封入体筋炎患者の28%にC型肝炎ウイルス感染が伴うことを発見しました。この感染率は他の筋疾患同齢患者や同世代の一般人口より有意に高く、C型肝炎ウイルスが発症に関与していることが強く示唆されました。
C型肝炎ウイルスはいくつかの自己免疫疾患の発症に関わることが知られていますが、封入体筋炎にはそうしたC型肝炎ウイルス関連疾患と共通する疾患メカニズムが存在すると考えられます。この研究成果は、今後の病態解明に大きく貢献するものと期待されます。
この研究内容は、日本時間2015年12月19日午前6時に米国神経学アカデミー学会誌Neurologyオンライン版に掲載されました。またこの論文は同号のEditorialで注目論文として取り上げられています。
本成果は以下の研究助成によるものです。
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(26-8、23-5)
科学研究費助成事業基盤研究(B)「先天性筋ジストロフィーに対する画期的治療法開発」
科学研究費助成事業基盤研究(C)「自己貪食空胞性ミオパチーにおけるオートファジー分子機構の病態関与の解明」
科学研究費助成事業若手研究(B)「インフラマソームに着目した封入体筋炎の病態解明と治療法開発」
■研究の背景
封入体筋炎は炎症性筋疾患の一つで、50歳以上の年齢層に発症するものでは最も頻度が高い疾患です。手指や下肢の筋力が低下し、発症後平均7年で歩行不能となります。原因は不明で、確立された治療法はなく、厚生労働省の指定難病の一つに挙げられています。近年、本邦では封入体筋炎患者が急増しており、2003年時点での有病率は1991年時点の8倍に達したと報告されています(Suzuki N, et al. Journal of Neurology 2012)。現在、本邦の患者数は1,000~1,500人と推計されていますが、今後の高齢者人口の増加と相まって、患者数はますます増えると予想され、病態解明、治療法開発が急がれます。
研究グループは、この疾患の病態解明・治療法開発の手掛かりをつかむために、まず患者実態を詳細に把握する必要があると考えました。事前に過去の論文報告等を精査する中で、C型肝炎ウイルス合併例の報告がいくつか見られましたが、それが病態に真に関連するものか、あるいは単なる偶発的なものかは分かりませんでした。そこで研究グループは特にC型肝炎ウイルス感染に焦点をあてた全国調査を行うことにしました。
■研究の内容
2002年から2012年に当センターで筋病理診断を受けた5099名の患者から、封入体筋炎と診断された患者138名を抽出しました。その主治医に対してアンケートを行い、症状の経過やC型肝炎ウイルスを含む各種ウイルス感染の有無などを調査しました。また比較対照として、同時期の多発筋炎同齢患者54名についても同様に調査しました。未回答例などを除き、最終的に封入体筋炎患者114名、多発筋炎患者44名が解析対象となりました。
その結果、封入体筋炎患者の28%にC型肝炎ウイルス感染が伴っていたことがわかりました。一方、多発筋炎同齢患者の感染率は4.5%、同世代一般人口の感染率は3.4%であり、封入体筋炎患者ではC型肝炎ウイルス感染率が統計学的に有意に高いことが示されました(図1)。
図1 C型肝炎ウイルス抗体陽性率
封入体筋炎患者では多発筋炎同齢患者より有意に高い。オッズ比8.2(95%信頼区間: 1.9 - 36)。
C型肝炎ウイルス感染の有無は、疾患進行速度や筋病理所見には影響していないこともわかりました。またC型肝炎ウイルスは筋細胞内には検出されませんでした(図2)。こうしたことから、C型肝炎ウイルスは筋肉に直接感染して封入体筋炎を発症させるというより、何らかの免疫学的な異常をきたして発症に関与しているものと推察されました。
図2 C型肝炎ウイルス粒子
C型肝炎ウイルス粒子(黄色)は筋細胞の外で観察され(矢印)、そのほとんどはマクロファージ(赤色)と共局在していた。
■研究の意義・今後の展望
C型肝炎ウイルスは慢性肝炎や肝硬変、肝がんを起こす他に、肝臓以外の臓器・組織の自己免疫疾患の発症に関わることが知られています。この研究成果は、封入体筋炎にそうしたC型肝炎ウイルス関連疾患と共通する発症メカニズムが存在することを示唆しています。こうした新たな視点が、封入体筋炎の病態解明に大きく貢献するものと期待されます。
■用語の説明
1) 封入体筋炎
炎症性筋疾患の一つで、50歳以上の年齢層に発症するものでは最も頻度が高い。手指や下肢の筋力が低下し、ペットボトルの開栓のしにくさや立ち上がりにくさがしばしば訴えられる。発症後平均7年で歩行不能となり、やがて筋力低下は全身に及ぶ。多くの炎症性筋疾患ではステロイドや免疫抑制剤などの抗炎症治療・免疫修飾治療が有効であるが、本疾患では有効性は実証されていない。アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患で脳に沈着することが知られているアミロイドβなどの異常蛋白質が、封入体筋炎患者の筋肉に蓄積することが知られている。こうした筋細胞自体の病的変化(変性)が関与しているとされる。炎症と変性のどちらが病態形成の上流にあるのかは議論のあるところである。
かつて封入体筋炎は欧米に多く、本邦では極めて稀な疾患とされていた。しかし近年、本邦の封入体筋炎患者数は急増し、2003年の有病率は1991年時点の8倍になり、欧米諸国と同水準に達した(Suzuki N, et al. Journal of Neurology 2012)。食生活の欧米化などの影響が指摘されているが、要因は明らかではない。現在、本邦での患者数は1,000~1,500人と推計されているが、今後の高齢者人口の増加と相まって、患者数はますます増えると予想されている。
2) C型肝炎ウイルス
フラビウイルス科ヘパシウイルス属に分類される1本鎖RNAウイルスで、慢性肝炎、肝硬変、肝がんの原因となる。本邦では約200万人、世界では1億7千万人以上が感染しているとされる。
3) 多発筋炎
炎症性筋疾患の一つ。封入体筋炎とは異なり、若年成人から高齢者まで幅広い年齢層で見られ、ステロイドや免疫抑制剤などの治療への反応は比較的良好であることが多い。
4) 筋病理診断
患者さんから採取された筋肉を染色し顕微鏡で観察して診断すること。筋疾患の診断ではしばしば必要となるが、高い専門性が求められるため、国立精神・神経医療研究センターは全国の医療機関に筋病理診断サービスを提供している。年間600~800件程度の診断依頼を受け、これまでの診断件数は累計約15,000件である。これは世界有数の診断実績である。
■原論文情報
論文名:“Hepatitis C virus infection in inclusion body myositis: A case-control study”
著者:漆葉章典、野口悟、林由起子、圓谷理恵、米川貴博、埜中征哉、西野一三
掲載誌:Neurology(米国神経学アカデミー学会誌)オンライン版(日本時間2015年12月19日、米国時間18日)
DOI:10.1212/WNL.0000000000002291
URL: http://neurology.org/lookup/doi/10.1212/WNL.0000000000002291
■お問い合わせ先
【研究に関すること】
西野一三(にしの いちぞう)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 疾病研究第一部長
メディカル・ゲノムセンター(MGC) ゲノム診療開発部長(併任)
TEL: 042-341-2711(代表) FAX:042-346-1742
E-mail:
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
【報道に関すること】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
TEL: 042-341-2711(代表)
本リリースは、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブに配布しております。
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