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プレスリリース詳細

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2018年4月3日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(広報係)
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
Tel:03-6870-2245(企画・広報グループ)

NCNPの医師・研究者らが新たな神経難病 “NINJA” の概念を提唱
リンパ球解析と拡散テンソル解析により、身体表現性障害とされてきた一群から、多発性硬化症に類似した免疫介在性神経疾患を同定

  

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:水澤英洋)神経研究所(所長:和田圭司)免疫研究部の竹脇大貴 研究生(前・病院 神経内科レジデント)、山村隆 神経研究所特任研究部長・多発性硬化症センター長、病院 神経内科の林幼偉医師、病院 放射線診療部の佐藤典子部長らの研究グループは、多発性硬化症(MS; multiple sclerosis)に類似する臨床経過があり、多くの症例で血液浄化療法が有効でありながら、通常撮像法の脳・脊髄MRIで異常を認めないために、診断が未確定であった11例を詳細に解析しました。その結果、末梢血液中のB細胞に異常を認め、広範囲の脳白質において微細な構造変化を示唆するMRI拡散テンソル画像の異常が確認できました。これらの特徴は、神経難病MSとは一線を画すことから、この一群を新たに “Normal-appearing Imaging-associated, Neuroimmunologically Justified, Autoimmune encephalomyelitis”(NINJA)と名づけました。
 NINJAでは運動麻痺や感覚障害、視力障害などのMSに類似する慢性再発性の中枢神経脱落症状を認めるにも関わらず、MRIで異常を認めないことから身体表現性障害や詐病と誤って判断されることがあります。本研究は身体表現性障害と誤って判断されやすいMRI正常・MS類似の脳脊髄炎という病態を世界に先駆けて報告したものです。診断が難しい慢性経過の脳神経内科疾患の診療に役立つことが期待されます。
 この研究成果は、日本時間2018年4月3日午前5時(報道解禁日時:米国東部夏時間4月2日午後4時)に、米国の神経科学誌のNeurology Neuroimmunology & Neuroinflammationオンライン版に掲載されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
・厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「エビデンスに基づいた神経免疫疾患の早期診断基準・重症度分類・治療アルゴリズムの確立」
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業「多発性硬化症に対する新規免疫修飾薬の実用化に関する研究」


■研究の背景
 脳神経内科の代表的な難病である多発性硬化症(MS)は多様な病態を示し、現在でも診断に苦慮するケースがあります。NCNP多発性硬化症センターでは、先端的な技術を応用して診断の精度をあげる研究を進めてきました。MSは中枢神経(脳や脊髄)の様々な部位において炎症に伴う脱髄や神経障害が生じる自己免疫疾患であり、再発と寛解(症状の悪化と改善)を繰り返しながら徐々に障害が蓄積していきます。MRI画像検査はMSの診断や重症度の評価において有用ですが、一部のMS患者においては、症状が重症の割に、MRIの異常所見が軽度であることもあり、症状・診察所見とMRI所見との間に大きな乖離があります。世界中で一般的に用いられているMcDonald診断基準では、時間的・空間的に多発する客観的臨床的証拠(中枢神経の障害を示唆する神経学的異常所見)を認め、かつ他疾患に該当しなければMSの範疇に含まれます✳1。しかし脳・脊髄のMRIが正常な場合、多くの医師は「脱髄」は存在しないと判断するため、診断保留となるばかりか、ときには身体表現性障害や詐病と診断されることがあります。我々はMSに類似する臨床経過がありながらも脳・脊髄MRIで異常を認めないこれらの症例の特徴を明らかにし、適切な治療に結びつけることを目的に本研究を開始しました。
 

■研究の内容
 MS/視神経脊髄炎類縁疾患(NMOSD)の診断または疑いで2016年に国立精神・神経医療研究センター病院を受診した550症例のうち、MSにおける2010年McDonald診断基準を客観的臨床的証拠で満たし、通常撮像法の脳・脊髄3 tesla-MRIで異常を認めない11症例を対象としました。はじめにこれらの症例の臨床的特徴を調べました。重症度を示す指標であるexpanded disability status scale score(EDSS)の中央値は6.0と高値で、機能的に高度の障害を認めました。MSで陽性率が高い髄液オリゴクローナルバンドは測定した9例全てで陰性でした。多くの症例でステロイドパルス療法や血液浄化療法が有効であり、治療に伴う臨床所見の改善を認めました。3例で過去にインターフェロンβが使用されていましたが、いずれの症例においても有効性を認めませんでした。以上より本研究対象群はMcDonald診断基準に該当する一方で、通常のMSとは異なる臨床的特徴を持つことがわかりました。我々はMSとは異なるということを明示するために、この一群を新たに “画像所見は一見正常であるけれども、神経免疫学的に明らかとなった、自己免疫性脳脊髄炎” として、英語表記 “Normal-appearing Imaging-associated, Neuroimmunologically Justified, Autoimmune encephalomyelitis” の頭文字をとり、NINJAと命名しました。

 次に脳MRI拡散テンソル画像を用いた統計画像解析を行いました。通常撮像法のMRIでは正常に見える脳白質の異方性比率を、NINJA群9例と健常者群24例との間で比較したところ、NINJA群では広範囲の脳白質における異方性比率が低下していました(図1)。拡散テンソル画像における異方性比率の低下は、神経線維の規則的な配列における構造的な乱れを反映しており、NINJA群における広範な脳白質障害を示唆する結果でした。

図1:MRI拡散テンソル画像における異方性比率の変化
有意に異方性比率が低下している領域を赤色や黄色で、変化していない領域を緑色で示す。
NINJA群では健常者群と比較して広範囲の脳白質において異方性比率が低下していた。


 さらにフローサイトメトリーを用いた末梢血リンパ球解析を行いました。末梢血液中のB細胞全体に対するB細胞亜分画の頻度を、NINJA群11例と健常者群17例との間で比較したところ、NINJA群においてプラズマブラストの頻度が有意に増加していました(図2)。プラズマブラストはNMOSD患者の末梢血液中で増加し、病原性自己抗体である抗アクアポリン4抗体の産生能を持つことが報告されています✳2。NINJA群における末梢血でのプラズマブラスト頻度の増加は、自己抗体介在性の病態を示唆する結果でした。
 

図2
図2:B細胞亜分画の頻度
NINJA群では健常者群と比較してプラズマブラスト頻度とメモリーB細胞頻度の有意な増加、ナイーブB細胞頻度の有意な減少を認めた。(★p < 0.05, ★★p < 0.01)


 以上より、NINJA群における神経障害は拡散テンソル画像解析で明らかとなった広範な脳白質障害に起因する可能性があり、一方で血液浄化療法に伴う臨床所見の改善と、末梢血リンパ球解析でのB細胞系の異常は、自己免疫介在性の病態を示唆する結果でした。


■研究の意義・今後期待される展開
 我々は、身体表現性障害と誤って判断されやすいMRI正常・MS類似の脳脊髄炎という病態を世界に先駆けて報告しました。これまで診断不能とされてきた一群に潜む免疫介在性神経疾患を明らかにし、適切な治療に結びつけるという点において、本調査研究の独自性と意義があると考えます。また、今回の研究対象患者群の他にも、身体表現性障害と考えられてきた症例の中に、免疫介在性神経疾患が潜んでいる可能性があります。神経症状と精神症状を明確に区別できない症例も多く、神経内科領域と精神科領域の垣根を越えた免疫学が今後さらに発展していくことで、新たな治療法の開発に繋がる可能性があります。 


■用語解説
・多発性硬化症
中枢神経(脳や脊髄)に炎症が生じ、運動・感覚・視力などの様々な身体機能が障害される自己免疫疾患です。脳・脊髄MRIで描出される脱髄病変が診断の大きな手がかりとなります。若年で発症し、再発と寛解を繰り返しながら生涯にわたり徐々に障害が蓄積していきます。

・身体表現性障害
転換性障害、疼痛性障害、心気症などを総称した症候群です。一般身体疾患を示唆する身体症状が存在しますが、一般身体疾患や他の精神疾患によって完全には説明されません。詐病と異なり意図的ではなく、その症状は著しい苦痛や機能の障害を引き起こします。

・MRI拡散テンソル画像
組織内部の水分子の微小な動きである「拡散」の三次元的な方向性を定量的に評価するためのMRIの撮像法の一つです。脳白質においては、神経線維と同じ方向へは水分子が自由に動くことができますが、その他の方向へは神経線維やグリア細胞などの構造物が障害となり、水分子の運動が制限されます。この性質を利用して白質路の画像化や白質障害の定量的な評価に応用されています。

・異方性比率
MRI拡散テンソル画像における異方性の強さを定量的に評価するための指標です。0から1までの値をとり、脳脊髄液のように水が自由に拡散できる部位では0に、白質のように拡散が制限される部位では1に近付きます。脳白質における異方性比率の低下は、同部位において何らかの構造的な変化が生じていることを意味します。

・脱髄
脳や脊髄を構成する神経は有髄神経とよばれ、神経線維の周りには髄鞘(ミエリン)と呼ばれる構造物が取り巻いており、正常な神経伝導を可能にしています。髄鞘が脱落することを脱髄といい、神経伝導速度が低下し正常な神経機能が障害され、さまざまな神経症状が引き起こされます。
 

■論文情報
論文名:“Normal brain imaging accompanies neuroimmunologically justified, autoimmune encephalomyelitis”
著 者:Daiki Takewaki, Youwei Lin, Wakiro Sato, Hirohiko Ono, Masakazu Nakamura, Manabu Araki, Tomoko Okamoto, Yuji Takahashi, Yukio Kimura, Miho Ota, Noriko Sato, Takashi Yamamura
掲 載 誌: Neurology Neuroimmunology & Neuroinflammationオンライン版/2018.4.2.
DOI:10.1212/NXI.0000000000000456
URL:http://dx.doi.org/10.1212/NXI.0000000000000456
 

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所
免疫研究部特任研究部長 山村 隆(やまむら たかし)
〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-11
TEL:042-341-2711(代表) FAX: 042-346-1753


【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人
国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel:042-341-2711(代表)Fax: 042-344-6745
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