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プレスリリース詳細

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2018年6月15日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

亜硫酸に神経保護作用があることが判明
~硫化水素やポリサルファイドに匹敵する効果と精神・神経疾患治療等応用に期待~

  

 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)神経研究所(所長:和田圭司)の木村英雄らのグループは、ワインなどの酸化防止剤として使われる亜硫酸に神経保護作用があることを明らかにしました。亜硫酸は、生体内シグナル分子として注目を浴びている硫化水素(H2S)やポリサルファイド(H2Sn)が代謝されてできる内在性物質です(図1)。神経回路機能を担う伝達物質グルタミン酸は、脳梗塞等で神経細胞が死滅すると大量に放出され、近隣の神経細胞に強い毒性を示します。このグルタミン酸の酸化毒性に対して、硫化水素やポリサルファイドが保護的に働くことはこれまでの研究でわかっていました。本研究では、亜硫酸が硫化水素やポリサルファイドに匹敵する神経細胞保護作用を示すことを明らかにしました(図2)。具体的には、亜硫酸は血液等細胞外液中のシスチンを還元型システインに変換することにより、その細胞内取り込みを亢進します。しかも、硫化水素やポリサルファイドと比べて約3倍の変換効率が確認できました(図3)。そして、システインを基質とする細胞内主要抗酸化物質グルタチオン合成促進し、細胞を酸化ストレスから保護することが分かりました(図4)。
 食品に抗酸化物質や保存剤として含まれる亜硫酸ですが、生体内でも生合成(図1)されシステイン・シスチンのバランスを維持し、グルタチオン合成を促進して神経細胞を酸化ストレスから保護することが明らかになりました(図2)。しかし、感受性の高い個人には、重篤なアレルギーを発症することが知られているため、アレルギーを回避する方法の確立により脳梗塞をはじめとする酸化ストレスによる神経疾患治療応用に役立つことが期待されます。

 本研究成果は、科学誌「British Journal of Pharmacology」誌オンライン版に日本時間2018年5月29日に公開されました。   


■硫化水素(H2S)の研究経緯について
 木村英雄らは、これまでに体内で生成される硫化水素H2Sが神経伝達調節因子として機能していることを1996年に世界で初めて報告し、その後、硫化水素が血管弛緩を誘導すること及び神経細胞を酸化ストレスから保護する機能を発見、続いて、脳と腎臓内でH2Sが効率よく生合成される経路を発見、硫化水素が結合したポリサルファイド(H2Sn)が脳内のシナプスによる神経伝達を活性化させる仕組みを発見、硫化水素からも生成される生理活性物質のトリサルファイド(H2S3)が主なポリサルファイドであること、H2SとNOからH2Snができ、これがH2SとNOとの相乗効果の実態であることを発見しています。また生体内での酸化還元環境維持を担っていることが注目されているシステインやグルタチオンの過硫化体が3-mercaptopyruvate sulfurtransferase (3MST)によって生合成されることを示すなど、生合成経路や仕組みを次々と明らかにしてきています。    


■研究の背景
 本研究グループは、上記の硫化水素(H2S)のこれまでの研究経緯で説明した通り、硫化水素の神経細胞保護作用を、世界に先駆け発表し(1)、心筋をはじめとする様々な組織・臓器保護作用の発見につながりました(2,3)。そのメカニズムは、シスチンやシステインのトランスポーターやグルタチオン合成律速酵素の活性亢進により、酸化ストレスから細胞を保護するというものです(1,4)。また、ポリサルファイドは、Keap1/Nrf2転写因子活性化により、抗酸化遺伝子群の転写活性上昇を惹起し、細胞を酸化ストレスから保護することが分かっていました(5,6)。
 一方、本研究テーマである亜硫酸は、ビタミンK前駆体メナジオンの副作用から肝細胞を保護し、高ビリルビン血症を抑えること(7)や、アミロイドーシスの原因タンパクとして知られているトランスサイレチンのアミロイド形成を阻止すること(8)が報告されていました。また、硫化水素の酸化代謝物中に、虚血による神経細胞死を抑える物質としてチオ硫酸が提案されていました(9)が、先行研究においては、チオ硫酸の前駆物質である亜硫酸については検討がなされていませんでした。そこで、本研究では、チオ硫酸ではなく、亜硫酸に神経保護作用がある可能性について着目しました。
(1) Kimura, Y. and Kimura, H. (2004) Hydrogen sulfide protects neurons from oxidative stress. FASEB J. 18, 1165-1167.
(2) Elrod et al. (2007) Hydrogen sulfide attenuates myocardial ischemia-reperfusion injury by preservation of mitochondrial function. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 104, 11560-11565.
(3) Wallace and Wang (2015) Hydrogen sulfide-based therapeutics: expoiting a unique but ubiquitous gasotransmitter. Nature Rev. Drug Discovery 14, 329-345.
(4) Kimura et al. (2010) Hydrogen sulfide increases glutathione production and suppresses oxidative stress in mitochondria. Antioxid. Redox Signal. 12, 1-13, 2010.
(5) Koike et al. (2013) Polysulfide exerts a protective effect against cytotosxicity caused by t-buthylhydroperoxide through Nrf2 signaling in neuroblastoma cells. FEBS Lett. 587, 3548-3555.
(6) Kimura et al. (2015) Identification of H2S3 and H2S produced by 3-mercaptopyruvate sulfurtransferase in the brain. Sci. Rep. 5:14774.
(7) Sun et al. (1990) The protective effect of sulfite on menadione- and diquat-induced cytotoxicity in isolated rat hepatocytes. Pharmacol. Toxicol. 66, 393-398.
(8) Gales et al. (2007) Structural basis for the protective role of sulfite against transthyretin amyloid formation. Biochim. Biophys. Acta. 1774, 59-64.
(9) Marutani et al. (2015) Thiosulfate mediates cytoprotective effects of hydrogen sulfide against neurnal ischemia. J. Am. Heart Assoc. 4: e002125.
  

■研究内容
 本研究では、生体内においても生合成される亜硫酸が(図1)、硫化水素やポリサルファイドとは異なるメカニズムで、これらに匹敵する神経細胞保護作用を示すことを明らかにしました(図2)。血液等細胞外シスチンを、硫化水素やポリサルファイドに比較して3倍以上の効率でグルタチオン生合成基質システインに変換します(図3)。これによって、システインの細胞内取り込みを亢進し、グルタチオン合成を促進します。
 先行研究で、H2Sの代謝産物チオ硫酸が虚血再灌流障害から神経細胞を保護することが報告されていました。しかし、このグループは亜硫酸については検討を行っておりませんでした。そのため本研究では、チオ硫酸やさらに代謝された硫酸には神経細胞保護作用が認められないことも明らかにしました。また、亜硫酸は、タンパクのシステイン残基を過硫化しないことがわかり、ポリサルファイドのようにKeap1/Nrf2転写因子活性を行い、抗酸化遺伝子群の転写活性亢進することはないこともわかりました。亜硫酸によるシスチンからシステイン変換時に、S-システインスルフィンが発生します。しかし、抗酸化有効亜硫酸濃度から発生するS-システインスルフィン酸は、NMDA受容体を活性化する濃度に達しないと考えられます(図4)。

  

■今後の展望
 亜硫酸が、生体内でも生合成され、酸化ストレスや虚血再灌流障害から神経細胞を保護することが分かりました。このことから今後、亜硫酸に敏感な人に対してもアレルギーを回避する方法を確立することにより、脳梗塞をはじめとした酸化ストレスによる神経疾患に対して治療に役立つことが期待されます。   


■用語解説
・亜硫酸: 生体内に存在するイオウ化合物で、ワインの酸化防止剤、防腐剤、保存料として添加されている。ドライフルーツ、甘納豆、などの様々な食品の漂白剤としても使われている。 

・ポリサルファイド(H2Sn):  H2SよりもSの数が多い化合物。常温ではH2Sのようなガスとしては存在しない。ポリサルファイドが脳内でも微量に生成されていることが分かっている。ポリサルファイドはH2Sが酸素によって酸化されても生成される(2nH2S + 1/2(2n-1)O2 → H2S2n + (2n-1)H2O )。この経路も3MSTによって触媒される。また、ニューロンを取り囲むアストロサイトのカルシウムイオンチャネルを活性化して、カルシウム流入を促進させ、神経伝達物質を生成することで神経伝達活性化を調整している。
アストロサイトを活性化するポリサルファイドはSが2個から7個まで直鎖状に繋がったもの。この状態で水溶性であるが、8個つながると環状になり不溶性になり機能しないと考えられる。

HS- ↔ HSS- ↔ HSSS- ↔…..↔ HS7- → S8


・Nrf2:  転写因子。Keap1と複合体を形成し細胞質に存在するが、刺激により、Keap1から離れて核内に移行し、抗酸化遺伝子群の転写亢進を誘導する。

・3MST:  細胞質およびミトコンドリアに存在し、3MPを基質としてH2SやH2Snを合成する酵素。tRNA合成にも関与している。


■挿入図と解説

(図1)脳内亜硫酸濃度
図1
脳内には、遊離型亜硫酸と約15倍量の結合型亜硫酸が存在する。
 

(図2) グルタミン酸酸化毒性に対する亜硫酸による保護作用と硫化水素及びポリサルファイドによる保護作用との比較
図2

グルタミン酸の酸化ストレスにより、脳細胞が死亡し、LDHが放出される(縦軸の値が高くなる)。これを亜硫酸等が抑制する(縦軸の値が低くなる)。すなわち細胞を保護していることを示す。亜硫酸の保護作用は、硫化水素やパーサルファイドの保護作用に匹敵する。
 

(図3) シスチンから還元型システインへの変換効率の比較
図3

亜硫酸によるシスチンをシステインに変換する効率は、硫化水素やポリサルファイドに比べて約3倍の効果がある。それぞれ10 μMの亜硫酸、パーサルファイド、トリサルファイド、硫化水素をMEM細胞培養液(無細胞)に加えた。
 

(図4) 亜硫酸、硫化水素、ポリサルファイドによる神経細胞保護メカニズム
図1

亜硫酸は、細胞外液中のシスチンをシステインに還元し、細胞が取り込みやすくする。一方、硫化水素は、シスチンとシステインのトランスポーター活性を亢進するとともに、グルタチオン合成律速酵素(GCL)の活性を亢進し、グルタチオン量を増加する。また、ポリサルファイドは抗酸化ストレス遺伝子群の転写活性を亢進し、グルタチオン量を増加する。


<原論文情報>
論文名: Sulfite protects neurons from oxidative stress
著者: Yuka Kimura, Norihiro Shibuya, Hideo Kimura.
掲載誌: British Journal of Pharmacology
DOI: 10.1111/bph.14373
URL: https://doi.org/10.1111/bph.14373


<助成金>
本研究は、木村英雄:JPSP科研費(26460115, 17K08331)、AMED、上原記念生命科学財団助成金、渋谷典広:JPSP科研費(16K15123)、木村由佳:JPSP科研費(26460352, 17k08613)、AMEDの助成を受けて行われました。
 

■お問い合わせ先:
【研究に関するお問い合わせ】

木村英雄(きむら ひでお)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
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