新型コロナウイルス感染症流行下で居住地域がメンタルヘルスに与える影響を明らかに:日本全国大規模インターネット調査より

新型コロナウイルス感染症流行下で居住地域がメンタルヘルスに与える影響を明らかに:日本全国大規模インターネット調査より

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2020年3月26日
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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新型コロナウイルス感染症流行下で居住地域がメンタルヘルス
に与える影響を明らかに:日本全国大規模インターネット調査より

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)トランスレーショナル・メディカルセンター大久保亮室長、ならびに東京大学大学院総合文化研究科池澤聰特任准教授、東北大学大学院環境科学研究科中谷友樹教授・埴淵知哉准教授、大阪国際がん研究センター田淵貴大副部長らの研究グループは、居住地の特性(人口密度の度合い*1・地域の貧困の度合い*2・地域の新型コロナウイルス感染者数*3)と新型コロナウイルス感染症流行下におけるメンタルヘルスの関連を評価するために、2020 年 9月に全国すべての都道府県から2万8000人が参加する大規模インターネット調査を実施し、下記の知見を明らかにしました。

  1. 人口密度が高い地域(都市部)、貧困の度合いが高い地域に住んでいる程メンタルヘルスが悪化している割合が高かった。
  2. 新型コロナウイルス感染症流行後に出現した自殺念慮に関しては、最も人口密度が高い地域(都市部)で1.83倍、貧困の度合いが最も高い地域で1.35倍割合が高かった。
  3. 新型コロナウイルス感染者が多い地域に住んでいることとメンタルヘルスの悪化に関連はなかった。


 これらの知見は、新型コロナウイルス感染症流行下において居住地域が心理的苦痛・自殺念慮に与える影響を示した初めての研究です。本研究の結果は、メンタルヘルスの悪化が、新型コロナウイルス感染症患者発生の有無に関わらず全国的な問題であり、特に人口密度が高い地域、貧困の度合いが高い地域であるほど、深刻であることを示しています。人口知能技術や遠隔診療のような広範に届けられる技術を活用し、居住地域によってアクセスが制限されない方法でメンタルヘルスの支援を行うことが、精神疾患罹患・自殺予防には重要であると考えられます。
 この研究成果は、日本時間2021年3月24日午後8時に国際精神医学誌「Journal of Affective Disorders」オンライン版に掲載されました。

研究の背景と方法

日本全国すべての都道府県から28,000人が参加した大規模なインターネット調査を実施

図1 COVID-19新規報告数(日毎)と自殺者数(月毎)の推移

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現在、現在全世界的な公衆衛生上の問題ですが、日本では感染そのものの影響に加えて、自殺者の増加が注目を集めています。特に2020年8月以降は自殺者数が前年度を上回って推移しています(図1)。

 COVID-19流行によるメンタルヘルスの悪化は全世界的な課題であり、日本でも研究が進められています。これまで、若年・女性・経済的な問題・呼吸器疾患の合併などがメンタルヘルス悪化の危険因子として指摘されています。しかしながら、これまでの研究で報告されているのはほとんど個人の要因であり、居住地域の特性とCOVID-19流行下のメンタルヘルス悪化について検討した研究はこれまでありませんでした。

 そこで、インターネット調査を用いて日本全国の様々な地域から合計28,000人が参加した大規模な調査を実施しました。インターネット調査の限界を克服するため傾向スコアによる重みづけ*4を用い、2016年に厚生労働省で行われた国民生活基礎調査の参加者と性別・年齢・社会経済状況などの分布が同様になるようにデータを調整しました。

 参加者から聴取した郵便番号に基づいて3つの居住地の特性(①人口密度の度合い、②地域の貧困の度合い、③地域のCOVID-19感染者)を数値化し、メンタルヘルス悪化(心理的苦痛(K6)・調査時点の自殺念慮・新型コロナウイルス流行後に出現した自殺念慮)の割合との関連を調べました。分析にあたって、年齢・性別・収入・婚姻状況・単身生活・要介護者の有無・職業・教育歴・喫煙歴・飲酒歴・併存疾患・COVID-19による就労環境の悪化の影響をできるだけ取り除きました。

研究結果の概要

都市部と貧困の度合いが高い地域に住んでいる方は、新型コロナウイルス感染症流行後に出現した自殺念慮の割合が高かった

 不正回答や不十分な回答した方を除いた24,819人のデータを用いて以下の検討を行いました。研究参加者の9.2%が重度の心理的苦痛を自覚していました。これは2016年の国民生活基礎調査で示された6.7%の1.4倍であり、新型コロナウイルス感染症流行によるメンタルヘルスの悪化が確認されました。

図2 新型コロナウイルス感染症流行後に出現した自殺念慮の有病割合比

 また、人口密度の度合い、地域の貧困の度合い、地域のCOVID-19患者数のそれぞれについて値の大きさから4つのグループを作成し、グループ間でのメンタルヘルス悪化(重度の心理的苦痛と自殺念慮)の割合の違いを評価しました。その結果、人口密度の高い地域、貧困の度合いが高い地域に住んでいる人ほど、メンタルヘルスの悪化の割合が高いとの結果でした。特に新型コロナウイルス感染症流行後に出現した自殺念慮の割合では、その傾向が顕著でした(図2)。これは世界で初めての報告です。

 このような傾向が生じる理由として、人口密度の高い地域では、居住スペースが狭く、かつ住民が個人主義的なライフスタイルを好むことが挙げられます。新型コロナウイルス感染症流行下では在宅勤務や休校によって自宅で過ごすことが増え、居住スペースが狭い傾向になる人口密度の高い地域では大きな負担となったことが考えられます。また都市の個人主義的なライフスタイルは、外出やマスク着用などの感染拡大防止策をめぐり、異なった考えや行動の違いを鮮明化させ、そうした考えや行動の異なる他者とかかわりを持つことが多い都市部の方が、メンタルヘルスに悪影響を及ぼした可能性が考えられました。

 また、貧困の度合いが高い地域では、健康的な食事や身体活動を高く保つことを可能にする環境、医療保健施設、地域の対人交流などが乏しいことが指摘されています。そうしたメンタルヘルスに良好に働く要因の乏しさが、新型コロナウイルス感染症流行という環境変化に対する脆弱さに結びつき、自殺念慮が増えていることが考えられます。

 この研究では、都道府県ごとの新型コロナウイルス感染者数とメンタルヘルスの関連は認められませんでした。しかしながら、より細かい区域で感染者数とメンタルヘルスの悪化について検討した場合には、関連が認められた可能性はあります。

 本研究の結果は、メンタルヘルスの悪化が、新型コロナウイルス感染症患者発生の有無にかかわらず全国的な問題であり、特に人口密度が高い地域、貧困の度合いが高い地域であるほど、深刻であることを示しています。人口知能技術や遠隔診療のような広範に届けられる技術を活用し、居住地域によってアクセスが制限されない方法でメンタルヘルスの支援を行うことが、精神疾患罹患・自殺予防には重要であると考えられます。

用語の説明

*1 人口密度の度合い
2015年の国勢調査をもとに定義された人口集中地区(人口密度が4000人/㎞2以上の地区が隣接して人口が5000人以上となる地区)を利用しました。さらに、人口集中地区を人口密度が高い、中程度、低いと3区分に分け、人口集中地区でない地域と合わせて4区分としました。

*2 地域の貧困の度合い
2010年の国勢調査をもとに、地域の高齢世帯の割合、ひとり親世帯の割合、賃貸住宅の割合、一次産業従事者の割合、失業率などから地域の貧困の水準を指標化したもの(地理的剥奪指標)を作成し、地域の貧困の度合いについて4区分に分けました。

*3 地域のCOVID-19感染者数
2020年1月から9月の厚生労働省が公表している都道府県ごとの感染者数について、人口10万人当たりの感染者数を算出し、少ない地域から多い地域に4区分に分けました。この数値は郵便番号単位ではなく、都道府県単位で算出しています。

*4 傾向スコアによる重みづけ
インターネット調査では研究参加者が特定の属性(性別・年齢・社会経済状況など)に偏ること(選択バイアス)が懸念されます。その選択バイアスを軽減するため、2016年に厚生労働省で行われた国民生活基礎調査のデータから傾向スコアを算出し、インターネットから得られた研究参加者それぞれに対して傾向スコアの逆数を用いた重みをつけること(逆確率重みづけ推定法)で、研究参加者の性別・年齢・社会経済状況などの分布が国民生活基礎調査の参加者の分布と同様になるようにデータを調整しました。

原著論文情報

・論文名:Urbanization level and neighborhood deprivation, not COVID-19 case numbers by residence area, are associated with severe psychological distress and new-onset suicidal ideation during the COVID-19 pandemic
・著者:Ryo Okubo , Takashi Yoshioka , Tomoki Nakaya , Tomoya Hanibuchi , Hiroki Okano , Satoru Ikezawa , Kanami Tsuno , Hiroshi Murayama , Takahiro Tabuchi
・掲載誌: Journal of Affective Disorders
・doi: 10.1016/j.jad.2021.03.028
・https: https://doi.org/10.1016/j.jad.2021.03.028

研究経費

 本研究結果は、以下の日本学術振興会・科学研究費補助金の支援を受けて行われました。Grant Nos. 18H03107, 18H03062, 20H00040, 17H00947, 19K22788, 19K20171, 19K19439

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 
トランスレーショナル・メディカルセンター情報管理解析部臨床研究計画・解析室長
大久保亮
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711(在宅勤務のため下記メールアドレスまでご連絡下さい)
Email: ryo-okubo(a)ncnp.go.jp


【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター総務課 広報係
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