ウェブサイトの狙い

1) 本ページの趣旨と留意点[地域精神保健・法制度研究部]

精神科医療や精神保健に関心のある人なら、「リカバリー」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。リカバリーという言葉には多様な意味があり、そこには様々な思いが込められていることもあります。しかし、多くの意味があるがゆえに、「リカバリー」に対する理解も人によって様々です。そこで、このウェブサイトは、主に支援者や研究者を対象として、「リカバリー」の意味を学術的に整理し、さらに当事者の視点から見たリカバリーの意味を併せて伝えることを目的として作成されました。

本ウェブページにはいくつかの留意点があります。

リカバリーの意味は一つではありません。

リカバリーについてはたくさんの解釈がされてきました。本ウェブサイトでの説明が唯一の正解ではありません。したがって、このウェブサイトとは異なる解釈を否定するものではありません。むしろこのウェブサイトは、リカバリーに関する多様な理解があることを知る機会になると考えています。

リカバリーの意味は流動的です。

リカバリーの意味は時代とともに変化してきました。そのため、その意味は今後も更新されていくと予想されます。

リカバリーの主体は当事者です。

リカバリーのプロセスを進めるのは、当事者自身であり、個々人のリカバリーの内容を決めるのも当事者自身です。

学術的理解と当事者の声は異なることもあります。

学術的に整理されたリカバリーの理解は、当事者や当事者団体が考えるリカバリーとは異なる場合もあります。

いくつかの留意点がありますが、本ウェブサイトでは、当事者の声を含め多様な見解を紹介しておりますので、リカバリーの多様な理解につながることを願っております。なお、適切な引用ルールを用いていただければ、本ウェブページの情報や図は自由にご利用いただけます。以下は引用時の記載例となります。

地域精神保健・法制度研究部リカバリーウェブサイトチーム:リカバリー(Recovery):第5回改定版. 国立精神・神経医療研究センター, 小平, 2026. URL: https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/recovery/

2) 主たる対象

本ウェブサイトは、主に支援者や研究者(まとめて「専門職」)を対象として作成されました。ただし、当事者(精神疾患を経験した人)やそのご家族にも内容を理解していただけるよう、専門用語を避け、可能な限り平易な言葉で各章を記述しています。

3) 作成方法

本ウェブサイトで紹介する内容は、国立精神・神経医療研究センター地域精神保健・法制度研究部の研究員と、11名の当事者が共同で決めました。具体的には、2024年6月から2025年7月までの間に約10回のミーティングを通して、「リカバリーについて、私たちが何を伝えたいのか?」について議論を深めながら、目次や記載内容、分担執筆箇所を決めました。その後、2025年12月までを原稿の執筆期間とし、2026年5月までお互いの原稿を確認しながら、公開される運びとなりました。

私たちが当事者と共にリカバリーに関するウェブページを作成したいと考えた経緯には、「リカバリー」という言葉の浸透に関する日本に特有の背景があります。米国や英国では、当事者による草の根的な活動(ボトムアップ)と、その後の当事者と専門職の相互作用によって、リカバリーという概念が広がりました。一方、日本では専門職主導(トップダウン)で広まってきた側面が強く、その結果、リカバリーという言葉が専門用語となってしまっている可能性があります1)。このため、当事者の視点を確実に含めた「リカバリー」の全体像(概説)をまとめることが必要だと考え、今回の共同制作に至りました。

1. 当事者のリカバリーに対する思い

リカバリーには多様な意味があり、立場や経験によっても意味付けが異なります。そこで、第1章では、リカバリーについて概説する前に、今回の更新に携わったメンバーのリカバリーに対する思いを紹介します。それぞれの経験に根差した、精神疾患や精神障害との向き合い方、そしてリカバリーへの思いが込められた言葉に触れる中で、ウェブサイト更新のメンバーが考える「リカバリー」の多様性の片鱗を感じとることができます。

コラム①:わたしにとってのリカバリー体験

山田悠平(一般社団法人精神障害当事者会ポルケ)

今から20年前、統合失調症と診断されたときによく言われたのは、「あなたは一生、服薬治療を続ける必要があります」という言葉でした。私は長い間、薬を「きちんと飲むこと」が自分の責任であり、回復への道だと信じていました。主治医の指示に従い、多くの薬を服用することが当然だと思い込んでいたのです。しかし次第に、副作用で体が重く、感情も鈍くなり、何をしても喜びを感じられなくなっていきました。それでも「これが自分の病気だから仕方ない」と思いこまされていました。

転機は、同じ経験を持つ仲間との出会いでした。薬との付き合い方を自分で考えていいのだと知り、信頼のおける主治医と出会い、話し合いながら減薬に取り組みました。「幻聴があっても生きていけるよ」という仲間の言葉に勇気づけられました。「リカバリー」とは誰かに治してもらうことではなく、自分のペースで生き方を取り戻していくことだと感じています。

コラム②:不自然な事柄をなくしたい~リカバリーへの想い~

宇田川健(認定NPO地域精神保健福祉機構・コンボ)

当事者にとって、リカバリーとは「自分で考え、自分で決め、チャレンジをし、語り、自分で責任をとる」という、本来であればだれにとってもあたりまえのことでしかありません。

精神疾患のない人たちが何かにチャレンジしたり自分で決めたりする過程を「リカバリー」とは呼ばないではないですか。その不自然な状態があるからこそ、「リカバリー」などという不自然な言葉が必要になっているのです。 したがって、当事者の究極の目標は、リカバリーという概念が必要なくなる社会が実現することです。

私は、リカバリーというキラキラした通じない言葉が流通するのに20年以上かかった現状を踏まえ、リカバリーもいいけれど、精神疾患は回復するものだ、それはわざわざリカバリーなどという言葉を使う必要のない世の中を目指します。

コラム③:わたしのリカバリーに対する思い

桐原尚之(全国「精神病」者集団)

リカバリーについては、様々な説明が与えられています。そのため、「リカバリーとは◯◯である」と一様に定義することには躊躇いがあります。それでも様々な説明には、共通していることも少なくありません。その内容を要約すると、①自分で自分のリカバリーを定義できること、②障害を持って生きることに肯定的な意味を持たせること、③精神医学とは異なる規範であることなどになります。すなわち、リカバリーとは、誰かから「あなたはリカバリーしている」とか「リカバリーしていない」とかと判断されるものではなく、精神医学の価値規範と異なるものであって、病気のある生き方に対して肯定的な意味を持たせるものであるということになります。そうなると、臨床的リカバリー、社会的リカバリー、パーソナル・リカバリーという分類は、これらの要素を内包できず、結果としてリカバリーの意味をわかりにくくしているきらいが否めません。近い将来、精神障害当事者たちは、リカバリーの再定義に踏み切っていく必要があるでしょう。

コラム④:わたしのリカバリーに対する思い

鈴木みずめ(フリーランス)

歩みが止まった時、それはリカバリーとしてどうなのか?

リカバリーは、自分らしく自分のペースで回復していくということを意味していると考えています。大変なときも多いですが、リカバリーをしていくと、その過程で、しんどい状況からいくらか自分が過ごしやすい状況へと、いつの間にか変わっていることに気付くことでしょう。このように書くと、物事が前進していることがリカバリーだ、と思えても不思議ではありません。

ところが、実は、私には、歩みが止まった時に自分のリカバリーを強く感じた時がありました。病気発症後、社会復帰のために福祉施設(就労移行支援事業所)に通所していたのですが、通えなくなって辞めたのです。最初は落ち込みました。「社会復帰の準備すら上手くできないなんて私は終わっている」そう思いました。しかし、しばらくしてから、もしかしたら辞めたことは良かったのかも・・・と思い始めました。それは、私はずっと社会復帰のために根詰めて頑張っていたことに対して、「いったん辞めて休む」という決断を自ら下すことができたからです!そのとき、私は、自分でしっかり自分の人生を生きている手応えを感じました。

みなさんは、立ち止まってしまった時、リカバリーだと感じますか?

2. リカバリーとは?

2.1. 色々な意味を持つ言葉「リカバリー」

「リカバリー」は、文脈によって多様な意味を持つ言葉です。医学領域では、「病気を治すこと」として理解されることが多いかもしれません。しかし、オンライン辞書などを参照すると、リカバリーは「(仕事の遅れなどを)取り戻すこと」や、「(起動しなくなったパソコンを)回復・復旧すること」、「アメリカンフットボールで、グラウンドに転がっているボールを確保すること」など、幅広い意味で紹介されています2)。このように、「リカバリー」は、その言葉が使われる場面によって、その意味が大きく変わる言葉です。

2.2. リカバリーの語源と医学領域における考え方

リカバリーという言葉の起源は、古代ラテン語あるいは英仏語にあるとされています。たとえば、11世紀の古フランス語の動詞「recovrer(リクブレ)」は、「戻る」「帰る」「健康を取り戻す」「再び手に入れる、得る」といった意味がありました3)。さらに、英語の「recovery(リカバリー)」という名詞は、14世紀半ばには「病気や怪我、不運からの回復」を意味するようになったとされています4)。このように、リカバリーという言葉は、古くから病気からの回復という意味合いを含んでおり、医学領域で広く使われてきた歴史があります。しかし、リカバリーという言葉が持つ多義性は、医学の分野の中でも時として理解の混乱を招くことがあります。そのため、最近では、「治す」「癒す」「社会参加」という3つの文脈で理解することが提案されることもあります(図1)5)

本文中の図

図1 医学領域におけるリカバリーの視点と分類

出典:Friedman et al (2023)から作成5)

2.3. 精神保健領域におけるリカバリーの定義

過去半世紀、精神保健の分野では「リカバリー」に関して多くの議論が交わされてきました。この背景には、当事者や当事者団体による草の根的な活動があります。彼らが中心となって、リカバリーという概念を捉え直し、発信していった流れは「リカバリームーブメント(運動)」と呼ばれています6)。この運動の中で、「リカバリー」について多様な定義が提案されてきました。本ウェブページでは、国際的にしばしば紹介される4つの定義を表1にまとめました7-10)

表1 リカバリーに関する代表的定義

提案者(発表年)定義内容
Anthony
(1993)7)
態度、価値、感情、目標、技術、そして役割が変化していく、個々の特性ある過程(プロセス)である。リカバリーは病気による制限がありながらも、満足で、希望にあふれた生活や充実した生活を送る生き方である。また、精神疾患の深刻な影響の中で、人生の新しい意味や目的を見いだすことでもある。精神疾患からのリカバリーは、単に疾患自体からの回復する以上のことである。
米国政府の委員会
(2001)8)
人々が生活し、働き、学び、地域社会に参加できるようになる過程を指す。ある個人にとっては、障害があっても充実的で生産的な生活を送ることかもしれないし、また他の人にとっては、症状の軽減や寛解を意味するかもしれない。希望を持つことはリカバリーにとって重要である。
米国薬物乱用精神保健管理局
(2006)9)
癒しと変容の旅であり、精神障害当事者が、自らの選んだ地域(コミュニティ)において意義ある人生を送りながら、自らの可能性を最大限に発揮しようとする試みを可能にすることである。
米国薬物乱用精神保健管理局
(2012)10)
個人が健康とウェルネスを改善し、主体的な人生を送り、自らの可能性を最大限に発揮しようと努める変容のプロセス

これらの定義に共通する点として、以下の4点があげられます。

  • ①リカバリーは、人生の旅路(プロセス)であること
  • ②充実した生活を送れていると感じること
  • ③個人によってその内容は異なること
  • ④精神症状の改善とは異なること

アメリカの当事者であるディーガン氏は、前述の①~④の定義の共通点に加え、リカバリーが直線的なプロセスではないこと、希望を持つことを土台にしていること、そして(社会や周囲が規定する)普通(ノーマル)になることではないことを強調しています11, 12)。リカバリーに関するこれまでの議論を総合すると、リカバリーとは、それぞれの当事者が自身の望む生活や人生に向かって、自らの足で歩んでいく、その人だけの物語と言えるかもしれません(図2)。

本文中の図

図2 リカバリーの本質と理解

2.4. 精神保健領域におけるリカバリーと分類

当事者の活動から始まったリカバリームーブメントは、時間とともに世界中の専門職(支援者や研究者)にも広がり始めました。しかし、専門職の間にリカバリーという言葉が浸透する中で、症状の減少や機能の向上の意味で使われるリカバリーと混同されてしまうことがありました。先に述べたように(2.1.& 2.2.参照)、リカバリーという言葉自体は多様な意味を持つため、どちらかの意味が正しい、間違っているというものではありません。そこで、専門職の間でリカバリーへの理解を深めるために、最近ではリカバリーを①パーソナル・リカバリー (Personal Recovery)、②臨床的リカバリー (Clinical Recovery)、③社会的リカバリー (Social Recovery)の3カテゴリーに分けて理解することが提案されています(図3)13-16)

本文中の図

図3 リカバリーに内包される3つの意味

臨床的リカバリーは、病気の症状が軽くなることや、機能が改善することを意味します。一方、社会的リカバリーは、安全な住居の確保や、就労、あるいは教育の機会の確保といった、社会生活に関わる側面の回復を指します。また、パーソナル・リカバリーは、当事者自身の経験・視点・価値観、その声や生の語りなどを基にした概念であり、自身が決めた希望する生活に向けた過程や旅路を意味します17)。このパーソナル・リカバリーの独立性については、以下の当事者の言葉が、その本質を最も端的に表現しているかもしれません。

「臨床的リカバリーや社会的リカバリーは、医療や社会が求める価値規範(標準的なルールや期待)に従うことを避けられないのに対して、パーソナル・リカバリーは従来の価値規範に左右されず、自分に合った新しい価値規範の下で生活していくことを含み得るのではないかと思います。」(桐原, 私信, 2024)

これまでさまざまな、それぞれのリカバリーの関係について研究がなされてきましたが、それらの研究によって「パーソナル・リカバリー」と「臨床的リカバリー」との間に一定の相関関係があるとされています。また、「パーソナル・リカバリー」と「社会的リカバリー」にも関連性があることが指摘されています18-21)。 また、当事者の中には、パーソナル・リカバリーを中心的な要素に据えながらも、実生活においてはそれぞれのリカバリーが互いに影響し合っていると考えている人もいます。一方で、パーソナル・リカバリーの内容は、個人によって大きく異なるので、人によっては各リカバリーが全く関係のない場合もあります。

コラム⑤:リカバリーの分類に関する図の変遷

本ウェブサイトでは、過去約10年に渡って、リカバリーの分類について視覚的に理解できるように図を用いてきました。今回の改定では図の形が変わったので、その経緯を紹介したいと思います(図4)。

本文中の図

図4 リカバリーの分類に関する図の変遷

2017年に本ウェブサイトで初めてリカバリーの分類を紹介した際は、「臨床的リカバリー」と「パーソナル・リカバリー」の2つだけでした。その後、2021年の改訂では国際的な議論に基づき「社会的リカバリー」が追加されました。今回の改訂では、当事者の方々との対話から得られた気づきを反映し、図のデザインを一新しています。

以前の図には、「3つのリカバリーが分断されていて重なりが見えにくい」「リカバリーが持つ多様な意味(多義性)が伝わりにくい」という課題がありました。最近では、リカバリーには多様な意味があることを前提とした表現がよく使われます。具体的には、単に枕詞として「臨床」「パーソナル」をつけ両者を区別するのではなく、それぞれを「臨床的意味でのリカバリー (clinical meaning of recovery)」や「個人で意味付けるリカバリー (personal meaning of recovery)」といった形で呼ぶこともあります22)。また、以前の図では、当事者にとっての「パーソナル・リカバリー」の重要性が十分に表現しきれていないという指摘もありました。そこで今回の改訂では、リカバリーという言葉の中に3つの種類が包含されていること、それぞれのリカバリーが互いに重なり合っていること、パーソナル・リカバリーの円をやや大きめに描き、当事者にとっての意味づけの大きさを強調しました。また、臨床的リカバリーや社会的リカバリーは専門職の価値観が反映されていることから円形に近い形とした反面、パーソナル・リカバリーは個々の当事者によって異なることから円形にしない表現としました。また、今後もそれぞれのリカバリーの意味や分類が更新されうること、そしてまだ見ぬリカバリーの意味や別の分類の可能性を残したいという思いから、余白部分を設けました。

ウェブサイトの改訂ごとに修正を重ねてきたリカバリーの分類図ですが、リカバリーの捉え方と同様に、思い描く分類図も人それぞれです(図5)。そもそも分類自体も、専門職による解釈の一つともいえるでしょう。実際、100人に「リカバリーの種別を図で表現してみて」とお願いすれば、きっと100通りのユニークで独創的な図ができあがるでしょう。また一個人の中でも、その時の立場や関心などで見えるリカバリーが異なるかもしれません。自分のリカバリーがどのような形をしているのか、一度自分でイラストを描いて考えてみるのも面白いかもしれません。

本文中の図

図5 リカバリーに関する多様な捉え方の一例

2.5. 精神保健領域におけるリカバリーの分類と留意点

パーソナル・リカバリー、臨床的リカバリー、社会的リカバリーという分類を理解する上で、以下の4つの重要な留意点があります。

1) 分類は専門職の理解のための整理であること

リカバリーの分類は、多様な意味を持つリカバリーという用語を専門職が整理して理解するために作られた枠組みです。したがって、この分類は個々の当事者のリアルな体験にとっては、必ずしも意味をなさないかもしれません。

2) パーソナル・リカバリーの予測が難しいこと

たとえ臨床的リカバリーや社会的リカバリーが統計的にパーソナル・リカバリーと関連性を持っていたとしても、前者の改善をもってパーソナル・リカバリーを予測することは難しいとされています。例えば、就労している人が自身のパーソナル・リカバリーを感じるかどうかは、その人自身の内的な価値観にかかっています。実際、近年の研究レビューでも、パーソナル・リカバリーの変化は、臨床的リカバリーや社会的リカバリーとは独立して起こる現象であると指摘されています23)

3) パーソナル・リカバリーの測定が難しいこと

パーソナル・リカバリーは、測定が非常に困難です。その理由は、パーソナル・リカバリーが一時点の状態ではなく、個々の人生の過程・旅路・物語、あるいは内的な価値の変化の過程であるため、その内容が個人によって大きく異なるからです24)。パーソナル・リカバリーの定義からも読み取れる通り(2.3.参照)、パーソナル・リカバリーは数値化が難しい現象であり、仮に数値化できたとしても、その平均点の算出や他者との比較はさらに困難になると予想されます。

4) リカバリーの順序性は人によって異なること

リカバリーの順序性についても注意が必要です。臨床的リカバリーから社会的リカバリー、最後にパーソナル・リカバリーという段階を経ると提案されることもありますが、実際にはその順序は人によって異なり、決まったものではありません(図6)。むしろ、リカバリーの最初の一歩は「希望を持つこと」から始まるとも言われています10)。たとえば、将来への深い絶望感を抱く当事者は、治療に積極的になれない場合があります。もし、その人が将来への小さな希望や、日常生活でちょっとした幸せを感じる機会があれば、それが治療や症状の改善に取り組む自身の状況変化につながる第一歩となることもあります。また、初期統合失調症の研究では、就職に対する希望を持ち、実際に働くことが、後に陰性症状の改善と関係することが明らかになっています25)。リカバリーの多様な順序性については、国内外の当事者が声を上げており26, 27)、リカバリーを応援する支援を再考する上で役立つ知見となります。

本文中の図

図6 リカバリーの分類と順序性

これらの留意点は、臨床的・社会的リカバリーの改善の重要性を否定するものではありません。過程性や高い個別性を特徴とするパーソナル・リカバリーを深く理解する中で、臨床的リカバリーや社会的リカバリーの位置付けを都度考えることが重要となります。

2.6. パーソナル・リカバリーの構成要素

パーソナル・リカバリーは、当事者の経験、視点、価値観などを基にしながら、その概念を具体的に捉えるための構成要素や指針が提案されています。たとえば、パーソナル・リカバリーに関する調査結果をまとめたレビューは、①他者とのつながり、②将来への希望と楽観、③アイデンティティ・自分らしさ、④生活の意義・人生の意味、⑤エンパワメントという5つの要素を、パーソナル・リカバリーの主要な構成要素(CHIMEフレームワーク)として提案しています(図7)28)。最近では、現在困難に直面している当事者が、肯定的側面(ポジティブな要素)だけを強調することに違和感を持つ可能性があるという議論から29)、⑥生活のしづらさ・生きづらさへの対応という要素もあると提案されています(CHIME+Dフレームワーク)30)

本文中の図

図7 パーソナル・リカバリーの構成概念:CHIME+Dフレームワーク

出典:Leamy et al (2011) & van Weeghel et al (2019)から作成28, 30)

パーソナル・リカバリーのためには、専門職からの支援を必要とする場合と必要としない場合がありますが7)、これは単に医療や福祉サービスから「卒業した」という意味ではないことが度々指摘されています17, 31)。また、他者に頼らず完全に生活できる「自立(independent)」と同義でもないとされています17)。パーソナル・リカバリーの道のりを妨げるものとして、スティグマ(偏見や烙印)あるいは薬物治療や福祉サービスに関する否定的な経験などが指摘されています30)。 加えて、最近では、スピリチュアリティ(精神的活動)や主体性、ソーシャルサポートがパーソナル・リカバリーを促進するものとして認識されています30)

米国薬物乱用精神保健管理局(SAMHSA)が当事者と一緒に作成したパンフレットには、「当事者主導」や「多様な生き方」など、当事者自身がパーソナル・リカバリーの旅路を歩むことに関連する10の指針が紹介されています(図8)10)。当事者の視点から見ると、その旅路の過程は必ずしも右肩上がりの直線ではないかもしれませんし、その内容やペース、目標の在り方は十人十色です7, 32, 33)。すなわち、パーソナル・リカバリーにおいては、主役(意思決定をする人)は常に当事者本人であり、その内容は当事者自身が価値をおく主体的かつ有意義な人生の軌跡そのものと言えるでしょう(2.3.参照)。

本文中の図

図8 パーソナル・リカバリーと10指針

出典:SAMHSA (2012)から作成 10)

コラム⑥:パーソナル・リカバリーを測ろうとすること

山田裕貴(所沢市保健センター健康管理課こころの健康支援室)

「測る」という言葉には「数量を調べて知る」34)といった意味合いがあり、量などを数値として表すといったニュアンスになります。では、この「パーソナル・リカバリー」を測ろうとすること、すなわち、数値として表すことは可能なのでしょうか?あるいは、「パーソナル・リカバリー」とは数値として表すことが適当な考え方なのでしょうか?

結論からいうと、これは不適当、もしくは相当の工夫を凝らしたうえで表すべきものだと考えられます。相当の工夫とは、例えば、実施したパーソナル・リカバリーに関する調査の回答者からの答えをシンプルに数値としてのみとらえるのではなく、生活や暮らしぶりのほかの側面から多角的に見つめるなど、いわゆる質的・量的な分析を組み合わせたうえで、数値として表すこと(量的に表すこと)の限界に自覚的に研究に取り組んでいるという姿勢があって初めて、パーソナル・リカバリーを測ろうとする研究として誠実なものとなるのではないでしょうか?

このように、パーソナル・リカバリーの評価や分析は、単純に数値として示すのは要注意といえます。測ろうとするにしても、数値では測れない側面、暮らしぶりや思いなど、数値で表せない語りや思いにも、丁寧に、耳を傾けることでその相手のパーソナル・リカバリーの様相が見えてくると考えます。

コラム⑦:定義と分類の限界

桐原尚之(全国「精神病」者集団)

自分のリカバリーは、基本的に自分で決めることができます。このような説明をしてきたからこそではありますが、個別具体的なリカバリー像をイメージするためには、多様なリカバリーストーリーを集積し、分類するような手法がとられてきました。しかし、定義不在のまま漫然と語られていく個々のリカバリーストーリーの中には、精神医学の価値規範を内面化したものも混入していきます。これによって精神医学の価値規範との線引きが不安定なものまでがリカバリーの一形態と見做されてしまいます。

例えば、臨床的リカバリーという分類は、精神医学の価値規範との差異が認められず、リカバリー固有の価値をわかりにくくしている点で問題があります。ともすれば、臨床的リカバリーができたら社会的リカバリーが可能となり、社会的リカバリーができればパーソナル・リカバリーが可能となるというような段階論として捉え得る側面も否めません。リカバリーは、「自己定義すべきもの」だけでは説明として不十分であり、より踏み込んだ価値に基づく方向付けが求められているといえるでしょう。

コラム:リカバリーは、リカバリー!《その人が、語るもの。》

準備中

3. リカバリーの文脈

3.1. リカバリーの歴史

1) リカバリーの起源

精神保健領域におけるリカバリーの起源については、複数の説があります(図8)。たとえば、アルコール依存症の文脈では、リカバリーに関する議論は1700年代まで遡ることもありますが、リカバリーの議論に関する出発点としてしばしば紹介されるのは1840年代に米国で広まった隔離施設における当事者活動です35)。その後、1930年代のアルコホーリクス・アノニマスの活動で、仲間とのつながりの重要性、飲酒しないことをもってリカバリーを定義するには不十分であること、そしてリカバリーの過程は満たされた生活に向けた旅路であることなどが強調されるようになっています35)。これらは、現在のパーソナル・リカバリーの議論に通じていると考えられます。

統合失調症やうつ病、双極症などの精神疾患に目を向けると、現存する資料としてしばしば紹介されるのは、イギリスの当事者、パーシバル氏です。1830年代に綴られた彼の手記には、当時不治の病と考えられていた精神疾患からの回復の可能性、尊厳と敬意ある治療が自身の変化に繋がったこと、仲間や治療環境の重要性が示されています36, 37)。なお、彼と仲間が結成した当事者サークル(Alleged Lunatics' Friend Society)は、精神科医療の改善を訴える先駆的な当事者団体活動の一つとして認められています37-39)。パーシバル氏の手記や活動は、現代のパーソナル・リカバリーの理解につながる点が多いことから、その起源の一つとして言及されることがあります。ただし、彼と同様の思いを持ちながらも、文字に残せなかった当事者はより古くから存在していたとも考えられます。したがって、リカバリーの起源を正確に特定することは難しいでしょう。

2) リカバリーの捉え直しの起源

リカバリーに関する議論が活発になったのは、1960年代から1980年代にかけてのことです。1960年代から、欧米では精神科病院の閉鎖と地域ケアの発展に伴い、地域に住む当事者が増えました。また、1960年代から1970年代は、人権に基づいたケアや地域における権利擁護に大きな注目が集まった時期でもあります40)。精神科ケアの改善を訴える草の根的な当事者運動が活発化する中で、自身にとってのリカバリーが病気を治すことだけにはとどまらないことを訴える当事者が増え始め、徐々に従来のリカバリーの捉え直しの芽が生まれてきました41)。1980年代に入ると、米国や英国の当事者を中心に、自身の体験に根差すリカバリーを専門職に向けて発信する機会も見られるようになりました42)。すなわち、リカバリーの捉え直しの源流には、当事者による草の根的な社会活動が存在します。

3) 国際的な広がりと現代の課題

当事者主導のリカバリーの捉え直しは、当事者運動(リカバリームーブメント)として1990年代から全米・全英で次第に広まり、2000年代以降は国際的な潮流となりました43)。2010年代・2020年代においては、これらの流れを受けた専門職がリカバリー志向型の実践を模索したり17)、当事者とともに実践を考える共同創造に関心を向けたりするようになっています44)。また、これまで専門職を中心に築いてきたケアの価値観と当事者視点のリカバリーとの融合や独立性をどのように保つかについての議論も始まっています6, 45)

4) リカバリーに込められた意味

リカバリーの歴史を振り返ると、草の根的な当事者活動によって、リカバリーという言葉や概念が広がったことがわかります。当事者活動は、個々の当事者の生活の向上だけでなく、当事者全体の権利の向上や集団的エンパワメントも目指していました46)。あるいは、当事者中心の実践への転換(パラダイムシフト)に関する思いも込められています6, 47)。過去30年間でリカバリー (あるいはパーソナル・リカバリー)という言葉が広く普及した反面、当事者と比較し、専門職はリカバリーに込められた権利向上の意識が薄いことも明らかにされています22, 48)。リカバリーの歴史を振り返ると、その言葉には、個人的文脈と集団的文脈が内包されていることがわかります。

本文中の図

図9 リカバリーに関する歴史

3.2. 社会的文脈におけるリカバリーと当事者運動

もともと、リカバリーは、セルフヘルプグループの中で(再)発展してきた概念です。精神医学者であるアブラハム・ローは、セルフヘルプグループが実践してきたリカバリーに着目し、精神医学的な治療のアフターケアとして活用するための研究と臨床実践をおこないました49)。そして、1937年にはリカバリー・イン・コーポレーション(Recovery. Inc)を設立し、その後の米国リカバリームーブメントに大きな影響を与えました50)。1952年のクロルプロマジン(抗精神病薬)が発見されてから、向精神薬の開発が進んだことで精神科医療は投薬治療が基本となりましたが、近年では、その限界が指摘されています。1990年代になると、そんな精神医療の限界を脱却する一筋の希望として再びリカバリーが脚光を浴びるようになりました。しかし、米国リカバリームーブメントの影響で「精神障害者を社会に適応させる」という医学的文脈を内包しながら語られることが多かったので、結局のところ、セルフヘルプグループの実践としてのリカバリーは影を潜めることになりました。

1991年、精神障害者の世界組織である世界精神医療ユーザー連盟が結成され、初代議長にはニュージーランドのメアリー・オーヘイガンが就任しました。オーヘイガンは、ニュージーランド政府の精神保健基本計画の指針作成に携わり、そこでリカバリーを「社会への適応」から「社会改革を含むもの」へと再定義しました51)。2006年には、精神障害者の世界組織の参画のもと、障害者の権利に関する条約が国連総会で採択されました。同条約においてもリカバリーは、親和性の高いものであると考えられています。なぜなら、精神障害者が障害をもったそのままの状態で尊重されるようにしていくためには、社会の側に変更を求めなければならない部分が出てくるからです。2017年の国連人権理事会による「すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者のレポート」では、生物主義的精神医学のオルタナティブを伴うものとしてリカバリーが紹介されました52)

現在、日本では、専門職が海外の文献から紹介したリカバリーと、セルフヘルプグループの実践としてのリカバリーが区別されることなく同じ言葉を使って表現されています。このことに日本の精神障害当事者たちも密かに疑問を抱きつつあります。

コラム⑧:私たちは当事者?経験者?あなたは●●者?

加藤伸輔(特定非営利活動法人メンタルヘルス共創拠点ピアウェル)

精神疾患を経験する人を指して、「当事者」や「経験者」という言葉が使われます。

「当事者」という言葉には、障害者運動の中で、支援やサービスの対象ではなく、自らの立場から社会に働きかける主体であることを示してきた歴史があります。そのため、制度や社会に向けて声を上げる場面では力を持ちやすく、個人を超えた視点を帯びやすい言葉でもあります。

一方、リカバリーを語る場では、一人ひとりの歩みや感覚が中心になります。障がいとの向き合い方や暮らしの工夫、自分なりに重ねてきた試行錯誤を語るときには、「経験者」という言葉のほうが、自分の語りの輪郭を保ちやすいと感じます。「当事者」を使うと、代表して話しているように受け取られたり、全体と個人が混ざってしまったりして、自分の実感がぼやけることがあるからです。

実際、「当事者」と名のつく活動の中にも、社会に課題を示すものもあれば、個人の経験を語るものもあります。また、「当事者全体のリカバリー」というかたちで語られることもあります。同じ言葉でも、どこに重心があるかで、その意味合いや響き方は変わってきます。

「当事者」は全体へひらかれやすく、「経験者」は個人の輪郭を残しやすい。そうした違いを踏まえながら、場に応じて言葉を選ぶことには意味があると思います。

いま自分は、この言葉をどこから語っているのか。そこを意識するだけでも、言葉の使い方は少し変わってくるのではないでしょうか。

コラム⑨:私たちは当事者?経験者?あなたは●●者?

彼谷哲志(特定非営利活動法人あすなろ)

障害の「当事者主権」という言葉は、1970年頃からの障害者の自立生活運動のなかで、障害者はサービスの対象ではなく主体だとする考えのもと使われはじめました。やがて「当事者」の言葉は、障害者運動から研究、行政にまで普及します。精神保健の分野では、北海道浦河の「べてるの家」の「当事者研究」が有名な例です53)

当事者は「問題を抱えている人」と同じ意味ではありません。置かれている状態に対して、こうあってほしいと必要を感じ、今の状態を変えようとする思いや希望を持つ人を言います53)。過去よりも未来を志向する言葉かもしれません。障害者運動の文脈では、社会や制度に対しての主体である当事者を、当事者研究の文脈では、生きづらさや苦悩の経験のある当事者を指すことが多いように思われます。

パーソナル・リカバリーの文脈では、個人の内面的な経験や語りが重視されるため「リカバリー経験者」の呼ばれ方が自然かもしれません。しかし、リカバリーの背景に社会的な要因があることは見過ごせません。そして、リカバリーがとある個人にだけ起きるものではなく、まだ見ぬ仲間にもリカバリーがあると信じるとしたら「リカバリー経験の当事者」という呼ばれ方もまた自然です。

3.3. 個人的(その人自身)文脈におけるリカバリー

リカバリーはただひとつの正解があるというものではありません。ですので、その人自身が感じるリカバリーとは「〇〇〇ができるようになったらリカバリーしている」と言えるようなものではなく、何をもってリカバリーと捉えるのかは人によって大きく異なります。

圧倒されるような出来事に遭遇し、これまでの自分が脆く壊れていくような感覚を経験した時期が学生時代だった人もいれば、就職、転職、子育て、仕事上の責任といった人生の節目だった人もいるでしょう。あるいは、そうした節目に限らずとも個別の事情や予期せぬ出来事に見舞われて…、という人もいるかも知れません。病気や困難に遭遇する前と後では、置かれた環境や人とのつながりの形、さらには暮らしそのものの形や余暇の過ごし方といった、これまでの自分を形作ってきたものが変化することも少なくありません。

病気や困難に遭遇したことによって、自らの手からこぼれ落ち、壊れてしまったと感じる事柄も年齢やライフステージによって異なります。ある人にとっては、追いかけてきた夢が手からすり抜けてしまったと感じるかも知れませんし、別の人にとっては人との暖かいつながりや、磨いてきた技術、築いてきた社会的立場を失ったと感じることもあるでしょう。これらの経験が個々に違うことから、再び自らの手に取り戻したいと願う事柄も、人によって違ってきます。ユーモアいっぱいの自分の姿や友達ができることを願う人もいれば、社会の中で役割を持つことや経済的な自立を願う人もいるかもしれません。また、誰の許可や顔色を気にすることなく自分の道を自分で考え、決めて、歩んでいるという感覚を大切にしたい人もいるでしょう。

どのような困難に遭遇したとしても、そこから勇気をもって新たな一歩を歩みはじめる時、何に関心が向くか、何を優先したいのかは人によって異なります。その関心や優先順位もライフステージの変化や望む暮らしの形によって揺れ動くことがあります。ある時期には治療や症状の安定が関心の中心になることもあれば、別の時期には人との関わりや余暇の過ごし方、働くことなどに関心が移っていくこともあるでしょう。

大切なのは、リカバリーを他者が評価するものとして捉えるのではなく、その人自身が“いま”何を感じ、何を大切にしたいと考えているのかに目を向けることです。そうした思いの先にこそ、その人自身が描くリカバリーがあるのだと思います。

コラム⑩:リカバリーを感じる瞬間

山田裕貴(所沢市保健センター健康管理課こころの健康支援室)

皆さんは、いまこのコラムを「まず見てみた」「他の項目を読んでから」など、いろいろな読み方で読まれていると思います。ここでは、リカバリーとはどのような瞬間に感じられるかについて考えたいと思います。

私はリカバリーを感じるには、変化していく過程という視点もあると思います。ここでいう「変化」とは、言動や考え方、人生観などの変化を指しています。例えば、精神障害をはじめとする疾患や障害など、あるいは災害や事故といった体験やその後の体験を経て、「ちょっと考え方が変わったかも?」とふと実感されることも、リカバリーを感じるひとつのあり方といえます。つまり、リカバリーを感じるうえでは、「定型や基準があってそれを達成できた=リカバリーを感じる」ということより、振り返って、何らかの変化をそっと感じ取れるということが、重要な点のひとつになるといえます。

精神障害などの当事者の人たちの体験談や「リカバリー」「ピアサポート」などをキーワードとする関連書籍をひもとけば、三者三様のリカバリーの物語に出会えます。他者の、自身と似たような思い、自身とは全く異なる体験談などに触れてみるのも興味深い体験になることでしょう。

コラム⑪:「リカバリー」と世代

山崎将展(公益財団法人復康会サポートセンターなかせ)

当事者運動の中で「リカバリー」という言葉が広まり、少しずつ日本に定着しました。そこで結果として起きたことは、例えば同じ50代~60代でも「リカバリー」への思いが違うことがあります。

若い頃から当事者運動をしてきた50代~60代にとっては、「リカバリー」は医療・福祉に対する異議申し立ての意味を持つことが多い印象を受けます。また、「リカバリー」について、病気・障害と末永いお付き合いをする人生観を指すこともあるように感じます。一方で数年以内に発病・発症した50代~60代にとっては、「リカバリー」は治ることや元気を取り戻すことを指すこともあるように感じます。当事者の中でも「リカバリーをしてピアサポーターに上がりたい。」「調子が悪くなったら患者さんに戻っちゃう。」という発言を耳にしたことがあります。さらには、今の20代~40代くらいの当事者で、病気・障害を治したいと思う人では、「リカバリー」は治療をしてよくなることを指すこともあるでしょう。確かに私自身も20代の頃、「リカバリー」について病気を治すことだと思っていて、30代で様々な意味に触れました。

「リカバリー」という言葉の意味と実践をするには、一人一人が考えて行動することが大切です。あなたにとっての『リカバリー』は、何ですか?

コラム⑫:リカバリーと地域差

佐々木理恵(東京大学医学系研究科 医学のダイバーシティー教育研究センター)

リカバリーを考えるとき、実際には暮らしの環境や地域資源によってそのイメージや描き方は大きく異なることがあります。なかでも「選べるかどうか」は、人生の可能性が開かれることや、リカバリーの実現に直結します。

都市部では、余暇活動や支援、移動手段など、多様な選択肢に手を伸ばしやすいという特徴があります。○○○に行ってみたい、○○さんと会いたい、と思った時に移動できる手段があることや、仕事や学業、一人暮らしなどに挑戦をしたいと思った時に自らの希望に沿った資源や支援を探したり、選びやすかったりすることは都市部の強みと言えます。ですが、選択肢が多いからこそ「どう選べばよいのか…」という迷いや取捨選択のプレッシャーを感じること、「自分だけが取り残されているのではないか…」といった他者との比較が、不安につながることも少なくありません。

また、都市部においては互いの違いを尊重する文化が育ちつつあり、「自分らしいリカバリー」を描く後押しにもなり得ます。ですが、それらの文化や姿勢は、時として必要以上に相手は立ち入らないというスタンスにも繋がるため、結果としてつながりの希薄さや無関心さ、孤立や支援への繋がりづらさを招くこともあります。

地域の資源や文化がリカバリーに影響を与えることを踏まえたとき、あなたの地域でリカバリーを可能にするために出来ることは何があるでしょうか。

コラム⑬:「リカバリーと地域差」~ある地方の当事者における経緯~

山崎将展(公益財団法人復康会サポートセンターなかせ)

「リカバリー」に対する想いには都市部と地域では印象の差があると思います。私がリカバリーという言葉を聞いたのは、そのときの精神科デイケアの中での心理教育中に職員から教えてもらったからでした。また、後年に就労移行支援事業所に通う際にも職員の方からリカバリーという言葉を教えてもらいました。当時は社会資源も限られており、そして当事者運動をしているピアが周囲に居た訳でもなく、むしろ職員の方から「リカバリーってものがあるらしいよ」と教えてもらう状況でした。

それから10年くらい経った今も、一周回って「初めてリカバリーを知りました」という地元の当事者と家族がおります。なかなか浸透したとは思えません。

地方から見ると大都市圏のリカバリーがキラキラと見えるときがあります。リカバリーという概念を深めることが出来たり、これは違うんじゃないの?という疑義を持つことが出来る、という具合にです。

リカバリーについて一周も二周も回っている特に大都市圏をみると、地方は随分と取り残された気持ちになります。「これからリカバリーが普及する、っていう時に。」そんな気持ちです。

4. 立ち止まって考えたい「リカバリー」

4.1. 専門職・支援者がリカバリーについて発信する場合の留意点

「○○さんはリカバリーしたんです」―講演会などでそんな専門職の話を聞くと私はモヤモヤした気持ちを隠すことができません。リカバリーについて医療や支援の現場で頻繁に使われるようになった今、その意味や使い方には慎重な姿勢が求められます。とりわけ、専門職や支援者がリカバリーについて発信する際には、その背景にある当事者の歴史と文脈を理解した上で、支援の立場からの再解釈にならないよう注意する必要があるのではないでしょうか。

第一に、リカバリーは「症状の消失」や「社会的自立」といった客観的な到達目標を示す言葉ではなく、個人が自らのペースで生きがいや希望を取り戻していく主観的なプロセスを指します。つまり「誰のリカバリーか」という問いを常に意識し、当事者自身の語りや経験を中心に据えることが重要です。専門職が「リカバリー支援」を語るとき、意図せずとも「支援する側」と「される側」という構図を強化してしまうおそれがあります。発信の場では、当事者の声や表現を尊重し、引用や紹介の際にも文脈を歪めない姿勢が求められます。

第二に、リカバリーという言葉が制度や評価指標に取り込まれることで、本来の多様性や個別性が失われる危険性があります。リカバリーを「成果」や「ゴール」として数値化するのではなく、むしろ「関係性の中で変化していく過程」としてとらえる視点が必要です。支援の現場で「この人はリカバリーしていない」といった評価的な用い方をすれば、かえって当事者の自己決定を阻むことにつながります。専門職が発信する際には、固定的な尺度を示すよりも、当事者と共に歩む姿勢や、支援者自身も変化し続ける存在であることを伝える方が望ましいでしょう。

第三に、発信の方法にも配慮が求められます。SNSや講演などでリカバリーを紹介する際、個人の事例を「成功例」として提示すると、他の当事者に「こうあるべき」というプレッシャーを与えることがあります。当事者の物語を共有する場合には、本人の同意を得ることはもちろん、「困難の克服」よりも「今も続く日々のプロセス」として描くことが、リカバリーの本質を伝えるうえで大切です。

リカバリーとは、誰かが誰かを評価して名づけるものではなく、その人自身が自分の言葉で語り直していく営みだと思います。だからこそ、専門職や支援者がリカバリーを発信する際には、「支援する側」の立場から語る前に、当事者がどのようにこの言葉を使い、どんな希望を託してきたのかに耳を傾けて欲しいと思います。リカバリーをめぐる発信は、当事者の声を代弁するものではなく、その声がより豊かに響く場をつくる試みであるべきです。専門職がその一翼を担うとき、リカバリーは単なる用語ではなく、人と人との関係を変えていく力を持つ言葉として生き続けるのだと思います。

コラム⑭:専門職・支援者から発せられるリカバリーに対する違和感

彼谷哲志(特定非営利活動法人あすなろ)

「あの人はリカバリーしていない」といった言葉を耳にすることがあります。専門職・支援者から、当事者の口からも発せられることを、耳にすることがときどきあります。ある人のリカバリーの達成具合を他者が評価することは不可能です。「あの人にとってリカバリーは今どんな感じなのだろう?」という問いがしっくりきます。また、「障害受容=リカバリー」と勘違いしている支援者も一定数いて、悩ましいと感じています。

ピアサポーターが精神科病院を訪問し、長期間入院者にリカバリーストーリーを語るような取り組みがなされています。それをきっかけにして退院して地域で暮らしが始まる人がおられて素晴らしいと思います。一方、入院者のなかには話を聞いて、退院できない自分はリカバリーできないのだと受け止めることも稀ではありません(そもそもリカバリーを言葉で伝えることは難しいものです)。

これは、退院支援という文脈でリカバリーストーリーが語られることで、支援ゴールとリカバリーが混同されてしまう例です。就労支援の場面でも、就労していることとリカバリーが混同されやすいように感じています。支援者は、支援のゴールとリカバリーを当事者に混同させないように言葉を選んでほしいと思います。

コラム⑮:専門職・支援者から押し付けられるリカバリー:情報格差と権威勾配

「リカバリー」の情報格差と権威勾配

山崎将展(公益財団法人復康会サポートセンターなかせ)

本コラムには前提条件があります。第一に、大都市圏と地方では情報格差が生まれやすいです。第二に、専門職と当事者には情報格差があります。体感はしますが、エビデンスはありませんが、この2点、よく考える必要があります。情報格差は往々にして権威勾配という「どっちが偉いか?」という現実の葛藤につながりやすいと思うからです。

話題をコラムの趣旨に合わせると、例えば、大都会で勉強した専門職がリカバリーという言葉を地方の当事者に教育する、という場合が想定されます。その想定に近いことが私にもありました。地方の当事者だった私は専門職からリカバリーという言葉を初めて聞き、そして今も葛藤します。私はリカバリーを専門職から教わったのです。

そうなると元々の持っていたリカバリーはどんな意味だったのか?少しずつ分からなくなります。専門職からしたら「最近は体調も良いし、リカバリーしてるね。」と日常会話をしたつもりでも、地域部のサイトにもきっとあるようにリカバリーは当事者主権の考え方の一つですから、「それは体調回復のこと?」と疑問になります。恐らくはこのモヤモヤを抱えることは、暗に専門職の『リカバリー観』に左右されるかもしれません。

4.2. 当事者が“消費”されないリカバリーストーリーのあり方

近年、精神障害のある人のリカバリーストーリーが、講演会やSNS、行政の広報誌などさまざまな場面で取り上げられるようになりました。これらは当事者の声として社会に希望を与え、偏見を減らす力を持つ一方で、「当事者が消費される」ような形で扱われてしまう危うさもあります。たとえば、体験談が感動的な話や努力で克服した成功例としてだけ切り取られ、本人の語りの背景にある困難や社会的な障壁が語られないまま共有されることがあります。その結果、「頑張れば誰でも回復できる」といった誤ったメッセージが流布し、支援や社会の責任が個人に押し戻される危険があります。

リカバリーは、症状がなくなることや自立を達成することではなく、本人が自らのペースで希望や意味を取り戻していくプロセスです。したがって、体験談を扱う際には、「語る人の主観的な物語」として尊重しつつ、その語りがどのような支えの中で可能になったのか、どんな環境整備や関係性が寄与したのかといった背景や社会的文脈を同時に伝えることが大切です。

また、語り手自身の意図を尊重し、発表の場や編集の過程で本人が主体的に関われるようにすることも欠かせません。撮影・掲載・引用の際には同意を確認し、再利用や二次使用についても明確にする必要があります。さらに、語りの内容を固定化せず、語り手が変化していくことを前提に、「その時点の経験」として扱う姿勢も重要です。

体験談やリカバリーストーリーは、当事者の尊厳を守りながら社会の理解を深めるための貴重な資源です。そのためには、支援・被支援などの権力関係や表現の使われ方に敏感であること、そして語りを通じて「誰が何を得ているのか」を常に問い続けることが重要です。当事者が消費されるのではなく、当事者とともに社会が変わっていくための語りのあり方を、私たちは模索し続ける必要があるのではないでしょうか。

コラム⑯:リカバリーは苦しい側面もある

山田裕貴(所沢市保健センター健康管理課こころの健康支援室)

リカバリーはしばしば旅路にたとえられます。旅には楽しさも困難もあるものです。旅路をゆく者の一人として、仲間や特に支援者には、本人の傍らに立ち本人の旅をともに進むような存在であってほしいと思います。旅を進むことで、本人には元気さが戻ってきたりできることが増えたりしてきます。それでも、時に、病気や障害に由来する困難さのために活動や仕事がうまくできないこともあるでしょう。そのような時には、「やはり自分は障害当事者なのだ」と突きつけられる感覚に陥るかもしれません。リカバリーが進んでいたと思っていた矢先にそんなことがあるととても苦しいものです。

一方で、リカバリーが進んでくると、自身の内から来る「当事者仲間と自分を比べてしまう感覚」や「いまの自分は当事者仲間の目にどのように映っているのだろうかという自問」と向き合う日も来るかもしれません。あるいは、他者から向けられる「もうだいぶ元気になっているのだから・・・」といった眼差しと向き合う日も来るでしょう。

このようにリカバリーの旅の途上では、様々な素晴らしい発見や立ちふさがる困難と出会うことが予期されます。もちろん、時に立ち止まったり、後戻りしたりして進んでいくことで、希望や元気の実現につながっていくと信じています。旅の途上で困難に打ちひしがれている人には、どうか傍らに立つようなかかわり方をしてみてください。

コラム⑰:まばゆいばかりにキラキラのリカバリーはしんどい時がある

鈴木みずめ(フリーランス)

リカバリーストーリーはサクセスストーリーである必要はないのですが、ポジティブな出来事を語りたくなるのは、人の感情として理解ができるでしょう。例えば、就職、結婚、家族が増える等ライフイベントに関連するリカバリーストーリーは「おめでとう」「よかったね」といった明るい言葉を一般的にはかけやすいため、強調されがちです。

しかし、精神疾患により人生のどん底にいる人にとっては、自分の状況があまりにかけ離れていると感じてしまうと、まばゆいばかりにキラキラする話はしんどく思う時があります。キラキラの輝度が強すぎて心の目が潰れてしまいそうなのです。もちろんリカバリーストーリーには正解がないので、キラキラが悪いわけではありません。それも分かるので、キラキラを嫌う自分がますます辛くなるのです。その場合、リカバリーストーリーを全否定するのではなく、もしかしたら、そっと手元を温め、足元をほのかに照らすような存在を求めているのかも?と想像してみてはいかがでしょうか。

あなたにとってリカバリーストーリーの心地よい明るさはどのくらいですか?

コラム⑱:キラキラしないと見えづらいリカバリーがある

佐々木理恵(東京大学医学系研究科 医学のダイバーシティー教育研究センター)

一体、リカバリーはどこにあり、どのようにして出会うのでしょうか。自らの現状やタイミングなどにもよりますが、病気や障害がありながらも今をいきいきと生きる他者の姿が眩しく映り、思わず目をつむりたくなる時があるかもしれません。

それでも、他者がリカバリーの道を歩む姿や、何かにチャレンジしている姿勢は、困難の最中にいる人の心の奥で“そっと何かが芽生える”ような感覚をもたらすことがあります。また、「私にも何か出来るのかもしれない」という気持ちにつながることもあります。たとえ小さな出来事であっても、それが自分の中に芽吹く変化のきっかけになることもあります。

リカバリーの旅路では、自分にとっての希望や灯台、旗印のように感じられる人や活動に出会うことも少なくありません。一方で、リカバリーは本人でさえ気づかないうちにその歩みをはじめていることもあり、振り返ってはじめて「あれをリカバリーと呼ぶのかも知れない」と気が付くこともあります。また、リカバリーをしていった人の中には精神保健の世界から解き放たれた場所で人生を再構築していることも多く、リカバリーを「目にする」「耳にする」機会は、私たちが思っている以上に限られているのかも知れません。

だからこそ、リカバリーをあえて「見える形に」する工夫が必要な時があります。自らのリカバリーの歩みを語ることを『リカバリーストーリー』と呼ぶことがありますが、これは「リカバリーは起こる」という確かな証であり、その語りや経験は、いま困難の最中にいる人の背中をそっと押し、その人の足元を照らす灯りにもなります。時にキラキラしているように感じるリカバリー。ですが、誰かが希望に手を伸ばし、そして希望を見つけられるようにするためには明かりが灯っていることも大切なのかもしれません。

みなさんにとって、リカバリーはどのような気配や息づかいとして感じられると、安心して近づいてみようと思えるでしょうか。

4.3. リカバリーが生まれる「場」という考え

リカバリーは、自分ひとりの内側だけで完結するものではなく、制度が整えばそれだけで成り立つものでもありません。個人、関係、社会という三つの「場」が重なり合う中でひらけていきます。どれか一つだけでは十分ではなく、三つの場が互いに影響し合いながら、その歩みを支えています。たとえば、「やってみたい」という気持ちが芽生えても、同じような経験をもつ人に聴いてもらえる機会がなく、住まいが安定せず、使える制度にもつながれない状況では、その一歩が止まってしまうことがあります。

リカバリーの歩みの中では、自分の中に生まれる変化が、大きな役割を果たすことがあります。希望を取り戻し、自分の物語を描きなおしていくようなプロセスは、パーソナル・リカバリーの核になるとされています54)。このプロセスを、ここでは「個人の場」として捉えます。これまでの経験をふり返り、その中から学びや気づきを拾い上げていくことが、リカバリーを支えます。「こんなことをやってみたい」という気持ちが湧いたとき、変化はすでに始まっています。ただ、こうした芽生えは、一人きりでは揺らぎやすく、くじけてしまうこともあります。

そうした芽生えを支えるのが、「関係の場」です。リカバリーには人との関わりの中で影響し合うことが欠かせず、関係そのものが大きな支えになることも指摘されています54)。否定されずに話を聴いてもらえる中で、自分の中に芽生えた変化が、少しずつ外の世界へとつながっていきます。相手の言葉に背中を押されたり、自分の言葉が相手を勇気づけたりする中で、自分の歩みも進んでいきます。こうした関係は、個人の変化が暮らしや社会とのつながりへと開いていくうえで、大きな役割を果たします。

住まい・就労・文化・権利保障といった社会的要因も、リカバリーに関わることが知られています28)。「社会の場」とは、安心して暮らせる住まい、希望に沿って使える制度、孤立を防ぐ取り組みなど、外側からの支えです。しかし、制度からこぼれ落ちてしまったり、偏見によって傷ついたりすると、個人や関係の場で育ってきた変化が阻まれてしまうこともあります。「わたし」の選択が尊重され、安心して思いを伝えられる権利が守られていることも、リカバリーの土台になります。

これら三つの場は、それぞれ別々に存在しているわけではありません。個人の中で生まれた気づきが関係の中で支えられ、やがて社会の仕組みと結びつくことがあります。反対に、社会の変化が新しい関係を生み、その関係がまた個人の歩みを後押しすることもあります。

リカバリーは、こうした三つの場が重なるところで、少しずつ形になっていきます。なかでも、個人と社会をつなぐ関係の場は、重要な役割を果たします。ピアサポートの実践は、その一つのあり方です。経験をもとに語り合う中で、個人の変化が支えられ、社会とのつながりがひらかれていきます。それこそが、ピアサポートの核となる価値のひとつです。

5. 専門職にできることは?

5.1. 専門職はリカバリーを支援できる?

リカバリーの定義はさまざまですが、本人が望む人生を自分らしく再構築するプロセスや物語であるとすれば、専門職やピアサポーターを含めた支援者がリカバリーを「与える」あるいは「達成させる」ものではありません。支援者ができることは、リカバリーを「支え、応援する」ことです。

専門職が得意なことで力を入れてほしいことの一つ、リカバリーしやすい条件や環境を整えることです。アメリカ合衆国の精神保健部局であるSAMSHAは、メンタルヘルスの当事者たちの話し合いによって、リカバリーに基づいた暮らしを支える側面や要素を公表しています。そのひとつに「住まい(家)」をあげています10)。安心できる住まいに暮らし続けること、新たに住まいを見つけることが当事者単独では難しい状況では、専門職による支援が有効です。また、仕事や学校、ボランティア、家族のケア、創作的な活動などの意味のある活動や社会参加ができる収入や社会資源などもリカバリーのある人生を支えるとされていますが、就労、社会参加、経済的保障などの分野は専門職の支援が有効な場面だと思われます。

ところで、パーソナル・リカバリーを測る尺度はいくつか存在しています(RAS、QPRなど)。それらの尺度は、ある時点の本人の内的な経験を可視化できますが、その人のパーソナル・リカバリーそのものを表すものではありません。そのため、ある療法や支援によって尺度の数値が向上したとしても、パーソナル・リカバリー自体が向上したと表すことは誤解を招きます。

当事者が「希望」を抱き保ち続ける前提として、人として尊重されることが不可欠であるように思われます。そして、誰かに人生を委ねるのではなく、自分で決めることが大きな意味を持ちます。選択肢が保障されていることや選ぶことが難しい状況でもサポートを受けて自分で決めることの支援(支援付き意思決定)が重要な鍵になります。もし、専門職の方がリカバリーを支援したいと思われるのであれば、この辺りの支援を丁寧に行うことが、リカバリーに寄与する重要なポイントかもしれません。

その際、当事者のことを専門職が決めないことが前提です。専門職が決めなければならない場面があったとしたら、なぜそうせざるを得なかったかを、双方で対等な関係でふりかえることはリカバリーの観点では重要だと思われます。強制的な入院や身体拘束などの介入はその典型例です。

5.1.1. リカバリーの分類と対応する支援

1) 各リカバリーと効果的な支援

専門職がリカバリーを分類(2.4.& 2.5.参照)して考えるメリットの一つは、それぞれのリカバリーに対応する効果的な支援を検討できる点にあります。たとえば、統合失調症に関する支援では、臨床的リカバリーに含まれる症状や機能の回復、および再発・再入院の防止には、薬物療法や認知行動療法、認知機能リハビリテーション、家族心理教育、そしてアウトリーチを伴うケースマネジメントなどが効果的だと考えられています55)。また、社会的リカバリーのためには、住居の確保や雇用主など環境に働きかける住居支援(例:ハウジング・ファースト)や個別型援助付き雇用(individual placement and support)などが効果的とされています56, 57)

パーソナル・リカバリーは、自身が決めた希望する生活に向けた過程や旅路を意味するため、専門職が直接的に支援することは難しいかもしれません。とはいえ、パーソナル・リカバリーを応援する支援を、精神障害者支援の中核に位置づけることは珍しくありません。たとえば、近年の精神科リハビリテーションでは、パーソナル・リカバリー、当事者中心、根拠に基づく実践を3つのキーワードとして提案されています58)。また、専門職がリカバリー運動から学んだこととして、急性期後のケアの重要性、地域ケアの重視、家族や環境への働きかけ、長所に焦点を当てた支援、当事者とのパートナーシップ、当事者と専門職との協働があげられています59)。このように、専門職が直接的にパーソナル・リカバリーを支援することは難しくとも、その応援に関する鍵となる概念や実践のヒントはすでに提案されています。

2) 共同創造的な取り組み

パーソナル・リカバリーの文脈において、近年では当事者と専門職が一緒に実践を組み立て・運営する共同創造も注目を集めています。共同創造的な取り組みの代表例としては、リカバリー・カレッジがあげられます。リカバリー・カレッジは、英国で生まれた実践であり、当事者や専門職だけでなく、家族、その他の地域住民なども参加可能な学び合いの場を創る実践です60)。リカバリー・カレッジは、リカバリー志向型の実践と位置づけることも可能ですが61, 62)、その内容は、当事者を治療の対象から地域で主体的に生きる存在として位置づけるパラダイムシフトに意味があるのかもしれません63)

コラム⑲:臨床的リカバリーと社会的リカバリーも大事な視点

山崎将展(公益財団法人復康会サポートセンターなかせ)

リカバリーにおいては、私はパーソナル・リカバリーが主軸と考えています。しかし、臨床的リカバリー (症状が軽減すること)も社会的リカバリー (社会の中で活躍の場を見つけること)も大切ではないというわけではありません。私の場合、今は統合失調症の症状が軽くなり、そしてピアスタッフとして働いている身です。古風な言い方をすると“病苦”から解放されている訳ですから、臨床的・社会的リカバリーも大事なことだと思います。

私なりに表現すると、リカバリーについてはパーソナル・リカバリーがメインエンジンです。この出力や方向性は当事者の「こんな風に生きて行きたい」という原動力です。そして「臨床的リカバリー」「社会的リカバリー」は補助エンジンです。臨床的にも社会的にもリカバリーすることはその当事者にとって助けの一部になる、ということです。

私の病気である統合失調症はそれまで予後不良もそれなりに多かったのですが、今では何とか治療が出来る病気・障害になりつつあります。今でこそ、症状が軽くなって(臨床的)、ちょっとずつ障害者雇用で働けるようになった(社会的)、という当事者も増えてきました。それら踏まえた上で、どんな風に生きたいか?(パーソナル・リカバリー)、という視点で病気・障害を捉える機会が増えてきたのだと思います。だからこそ、パーソナル・リカバリーはメインエンジンで、臨床的・社会的リカバリーは補助エンジンだと私は思います。

ただ、優先順位の付け方は人それぞれだと思います。私は幻聴がとにかくツラかったので、臨床的リカバリーに重きをおいていました。今ではほとんど幻聴が聞こえなくなりました。リカバリーの優先順位はその時々で異なることもあるのだろうけど、臨床的・社会的リカバリーも忘れないでおきたいですね。でもそれらがメインになりすぎると、それは当事者が大切にしてきたリカバリーとはちょっとニュアンスが違うかも?と、思っていたりもしています。だからパーソナル・リカバリーも等しく忘れないでおきたいです。

5.1.2. 支援の中で「かかわり方」に着目すること

リカバリーの過程を進む人がいるとして、その本人に対して周囲はどのように向き合えばよいのでしょうか?ここでは主に、今回のウェブサイト更新に際しての議論をふまえつつ述べていきます。

まず、「本人のリカバリー」を支援したい/応援したいなど、かかわる際に留意しておくべきことは、「リカバリーはとことんその人にとっての過程である」ということです。一般にリカバリーは過程としてとらえられ、「目的地や到達点」そのものではなく、それゆえに、「旅」や「旅路」とたとえられることが多いのだと思われます。そして、リカバリーとは主観的な過程で、その過程には本人に主導権があります。言い換えれば、周囲からその過程を後押ししたり、意図せずに方向づけてしまったりするということは、ともすれば本人にとっては傷つく体験になる可能性を伴うということです。

ここで、「専門職はリカバリーを支援できる/支援できない」、「ピアサポーター・ピアスタッフはリカバリーを支援できる/支援できない」といった軸から、かかわり方や可能性を考えてみます。今回更新作業にあたっての議論をもとに考察すると、専門職の立場だから、ピアの立場だからということは、本人のリカバリーに向き合ううえではさほど重要ではないということです。

例えば「専門職の立場からリカバリー支援に踏み込まないでほしい(=リカバリーを支援できると思わないでほしい)。」との主張があるとして、一方「ピアだからリカバリーを支援できる、本人を応援できる」といえるのでしょうか?時には、そういった場合もあるかもしれません。ですが、本ウェブサイトの更新に際しての議論では、そういった従来の価値観にだけ左右されないことの大切さも指摘されています。例えば、「ピアとはいえリカバリーを支援できるのか?」、「専門職でも何らかの形でかかわり方を工夫できるのではないか?」と自身の立場を自省的に振り返ることや主観的なものに寄与しようとすることの危うさに自覚的であることが挙げられます。

誰かのリカバリーを応援したいあなたがどのような立場であれ、「応援したい」「支援したい」と思ってかかわろうとする以上、たやすく相手を傷つけてしまう危険性と隣り合わせということで、そのことには自覚的であってほしいと考えます。

5.2. ピアの可能性

1) ピアサポートとは?

ピア(peer)とは、同じような経験や体験を持つ仲間を意味します。ピアサポートとは、仲間同士で悩みや経験を分かち合い、お互いに支え合う活動を指します。ピアサポートの背景理論は、人は自分と似たような体験を持つ人と関係を築くときに、よりつながりを感じるというシンプルなものです64)

2) ピアサポートがもたらす効果

過去30年間で、ピアサポートについては多くの研究が実施されてきました。近年では数量的研究も、ピアサポートが、当事者のパーソナル・リカバリーやエンパワメントに関するアウトカムの改善に貢献する可能性を示しています65-67)。ただし、パーソナル・リカバリーに関するピアサポートの可能性は、むしろ数値で測れない部分にこそ現れるかもしれません。たとえば、当事者経験を持つローズ氏は、地域ケアが発展したとしても、地域で孤独を感じながら生活する当事者は少なくなく、「地域はバラ色の避難所ではない」と指摘しています47)。彼女は、地域の中で仲間同士が出会い、お互いの経験を分かち合う場の重要性を強調しています。仲間と出会うことで生まれる「自分だけじゃないんだ!」という安心感や、「〇〇はつらいよね」とお互いに認め合える共感、「私も〇〇ができるかもしれない!」という希望などは、同じ経験を共有するピアサポートだからこそ起こりえることと言えます。

3) 当事者・ピアサポーターと専門職との共同

パーソナル・リカバリーの支援という点において、ピアサポートへの期待は大きいかもしれませんが、その役割を当事者に過度に委ねることは適切ではないでしょう。そもそもピアサポートはそれ自体に固有の価値と意義がある実践であり、専門的治療とは異なる性質のものです。ピアサポーター(あるいはピアサポートワーカー)のような、医療や福祉の現場でピアサポートを提供する人々の存在は、支援そのもののあり方に新たな視点をもたらすとともに、組織の関係性や文化を見直す契機ともなり得ます。だからこそ、その役割をピアサポーターに集中させすぎることのないよう、ピアサポーターと専門職が一緒になって、パーソナル・リカバリーを応援できる組織風土や制度を作り上げていくことが重要といえるでしょう68, 69)

コラム⑳:専門職とピアサポーターとの良い関係構築について

佐々木理恵(東京大学医学系研究科 医学のダイバーシティー教育研究センター)

近年、自らリカバリーの道を歩んできた経験、仲間とのつながりの中で得て気づいた支え合うことの力、そして障害ゆえに置かれてきた立場から見える視点を活かし、精神保健医療福祉の支援現場で働く当事者が増えてきました。彼らはピアスタッフ、ピアサポーターと呼ばれ、欧米で広がった取り組みですが、近年、日本でも着実に活躍の場が広がってきています。彼らの働き方はさまざまで、病院やデイケア、福祉事業所で雇用契約のもと働く人もいれば、雇用契約に捉われずにスポット的に関わる人もいます。働きの形態は違っても、当事者としての経験や視点を活かし、利用者さん・患者さんのリカバリーを応援する点は専門職と共通です。ここでいう専門職とは、医療の場合には医師、看護師、精神保健福祉士、心理士、作業療法士などの職種が該当するでしょう。障害福祉の場合にはサービス管理責任者、相談支援専門員などが共に力を合わせるパートナーになり得ます。さらには広く行政職員や社会福祉協議会や民生委員さんなども必要に応じて、力をあわせていくことにもなるでしょう。

では、専門職とピアサポーターとの「良い関係」とはいったいどのような関係を指すのでしょうか。恐らく、単に仲が良いことや衝突がないことを指しているわけではないことは、きっとみなさんもお気づきのことと思います。ピアスタッフやピアサポーターの中には、リカバリーの道を歩む中で、時に安心安全の一歩外へ踏み出すようなチャレンジをしてきた人や、当事者同士のつながりの中で元気を取り戻してきたという人もいます。一方で、医療福祉の支援の中で不当な扱いを受けたり、傷つく体験をしてきた人も少なくありません。

専門職は制度の枠組み、援助技術、職業倫理といった支援基盤にもとづき、安全やリスクを考慮しながら支援を提供します。こうした立場や価値観の違いは、時に両者のあいだに、リカバリーへの温度差を生むことがあります。ですが、その違いを脅威として捉えるのではなく“互いの資源”として価値を見出し、違うからこそ力を合わせ、新しい営みや支援を生み出す資源にしていくことも可能です。このような、営みを共同創造(Co-Production)と呼び、近年、ピアスタッフ・ピアサポーターと専門職が共に力を合わせて支援や研究、教育等を行う営みが増えてきました70)。立場や経験の異なる者同士が、共に何かに取り組む際には、時に感じた違和感をそのままにせず、立ち止って丁寧に伝えあうことが欠かせません。対立を避けることよりも、対話を通じて理解を深める中で、真にリカバリーに寄与する営みや支援が共に創られていきます。

良い関係とは、異なる視点や価値観を有する相手の存在を前提に、その違いにこそ希望と可能性を見出し、お互いがすでに持っている資源(視点や経験など)を尊重しあえる協働のあり方なのだと思います。違いを資源として捉えるとき、支援や教育、研究などはより豊かで創造的なものになっていくのではないでしょうか。

5.3. 既存の制度の枠を超えた支援

リカバリーの基本的な考え方は、精神医学の価値と異なる規範に価値を置いていることと、障害を治すことだけではなく、障害をもって生きることにも肯定的な価値を置くことになります。例えば、2017年の国連人権理事会による「すべての人の身体的精神的な到達しうる最高水準の健康の享受の権利に関する特別報告者のレポート」では、生物学的治療の限界が指摘されており、そのオルタナティブとしてリカバリー志向のサービスが示唆されています52)。このことからもリカバリーの考え方は、既存の精神医学に対するオルタナティブであることが期待されていることがわかります。

既存のサービスには、精神科医療機関との連携を前提にしたものや、就労移行支援や就労継続支援のように「職場側が障害者にあわせて配慮するのではなく、障害者側を訓練等によって変化・適応させる」ことで「健常者のようになる・働く」ことに重きを置いたものが少なくないように思います。リカバリー志向のサービスは、既存のサービスと根本的に異なる考え方に基づくものになります。そのような支援には、当事者を中心とし対話に時間をかける治療や薬物療法を前提としない治療もあります。あるいは、ケースマネジメント支援の中でも、精神保健福祉制度の内側に留まらない地域社会の中で生きることを応援する支援もあります。

既存の制度の枠を超えた支援として、当事者主体の取り組みがあります。例えば、ピアカウンセリングや元気回復行動プラン(Wellness Recovery Action Plan:WRAP)があげられます。ピアカウンセリングは、障害者同士で体験を語り合う取り組みで、「言いっぱなし、聞きっぱなし」を基本としたものです。ピアカウンセリングは、障害者自身が自らの障害を相対的に見ることで障害を肯定的なアイデンティティへと転換させる効力をもっていることが指摘されています71)。WRAPは、当事者が障害のある状態でよりよく生きていくための考え方を自分自身で設計していく取り組みです。WRAP には,自分にとって役立つ道具(もの)、それらの道具を活用するタイミング、自分にとっての良い状態を自分で考え実践していく過程が含まれています72)。既存のサービスの枠内でも、ピアカウンセリングや元気回復行動プランを取り入れている事業所が増えています。既存の社会規範に当てはめる目的で、これらの実践を取り入れるのではなく、当事者が自身の価値やアイデンティを大切にできるよう支援することが望まれます。

コラム㉑:リカバリーという言葉がついたプログラムについて

彼谷哲志(特定非営利活動法人あすなろ)

最近、「リカバリー」という言葉が広がってきて、それを名前につけた療法やプログラム、ワークショップが増えています。専門家が行うものもあれば、当事者が中心になって行うものもあります。

リカバリーとは、本人が自分の人生の意味や生き方を見つけていくプロセスです。つまり、誰かが提供するものではありません。しかし、療法やプログラムに「リカバリー」という言葉がつくことで、「専門家が治してくれるもの」や「プログラムを受ければ達成できるもの」のように誤解されてしまうことがあります。だからこそ、リカバリーを名前につける場合は、「リカバリーを支える」「リカバリー志向の実践」であることを、はっきり伝える必要があります。リカバリーそのものを「提供する」ものではない、ということです。

また、もしそのプログラムが専門家しか扱えない、特別な資格が必要といったものであれば、どうしても専門家中心になります。その場合は、安易に「リカバリー〇〇」と名乗ることには注意が必要です(これは効果がないという意味ではなく、あくまでリカバリーという考え方との関係の話です)。このことは、当事者が運営するプログラムにも同じことが言えます。プログラムそれ自体が直接リカバリーを与えるわけではありません。あくまで支えるものです。

もう一つ大切な視点があります。リカバリーのプログラムは、できるだけ多くの人に開かれてほしいのです。こうしたプログラムは、多くの当事者の経験や苦悩、知恵の積み重ねでできています。つまり、先人や仲間の知恵です。まったく新しいリカバリーのプログラムを作ったとしても、そのような経験や苦悩、知恵の積み重ねから学んでいるはずです。だからこそ、お金がない人は参加できない、一部の人しか使えない、という状態はできるだけ避けるべきです。

6. リカバリーに関するよくある質問

ここでは、リカバリーに関するよくある質問について、何人かの執筆者がそれぞれの立場や視点、経験にもとづいて回答しています。リカバリーの考え方が、人によってさまざまであることを知っていただくための一例として掲載しています。ひとつの質問に複数の回答を紹介している場合がありますが、リカバリーに関する唯一の見解や標準的な答えではありません。

※Q&Aからお読みになった方は、ウェブサイトの留意点もあわせてご覧いただければ幸いです。

Q&A1. パーソナル・リカバリーは生活の質やウェルビーイングと何が異なるの?

回答①

加藤伸輔(特定非営利活動法人メンタルヘルス共創拠点ピアウェル)

大まかに言うと、QOLは「いまの暮らしの満足度」、ウェルビーイングは「暮らしの感じ方」、パーソナル・リカバリーは「これからの生き方を形にしていく歩み」です。

「生活の質(QOL)」や「ウェルビーイング」は、いまの暮らしをどう受け止めているかを考えるときに使われる言葉です。QOLは、住まい、体調、人とのつながり、経済状況など、生活全体を主観的にとらえる考え方です73)。ウェルビーイングは、人との関係や日々の営み、人生の意味づけなども含めて、その人がどのように生きているかに着目する枠組みとして用いられます74)

こうした視点は、「いま」の状態を見つめるうえで役立ちます。一方で、パーソナル・リカバリーは、症状や状態だけでは測れない個人的な変化のプロセスとして捉えられています11)。その焦点は、「いま」をどう評価するかだけでなく、「これから」をどう生きていくかにも向けられています。

たとえば、調子が揺れて思うようにいかない時期であっても、自分なりの「ちょうどいい感じ」を探しながら暮らしていく。そのような歩みも、リカバリーの一つといえます。

うまくいく日もあれば、そうでない日もあります。そのあいだを行ったり来たりしながら、日々は続いていきます。

回答②

彼谷哲志(特定非営利活動法人あすなろ)

メンタルヘルスのリカバリーは、1960年代から1990年代のアメリカの精神障害の当事者運動を背景としています。リカバリーは当事者が主体となって広まった考え方です(リカバリーは専門職が広めたという主張も存在します)。

生活の質は、政策や医療や福祉の領域で、サービスを評価するためのツール(物差し)として活用され、専門職や行政職が主体となって発展してきました。リカバリーは、個人の内面的な経験に焦点を当てるものとすれば、生活の質は、ある人の生活を外から専門職の視点で見た評価という見方ができそうです。

ウェルビーイングは、公衆衛生の分野を起源として、生活の質と同じく専門職や行政職が主体となって発展してきました。WHOの定義では、ウェルビーイングは「身体的にも、精神的にも、そして社会的にすべてが満たされている状態」を指しますが75)、人としての人生における幸福感や満足度を含めてまるごと評価するところが特徴です。その点で、リカバリー志向のサービスにおいて個人のウェルビーイングを重視する実践が重要だとする考え方もあります33)

これらの概念は、病気ではない状態が幸せとは限らないこと、良い状態を目指すこと、主観的な充実感、幸福感、満足感などの主観的な感覚を重視する点が似通っています。しかし、誰が作り出したのか、当事者あるいは専門職どちらが主体なのかに大きな違いがあります。なお、それぞれ生み出された経緯や目的が異なるため、正しい・間違っているという議論にはあまり意味がないでしょう。

回答③

準備中

Q&A2. パーソナル・リカバリーは、精神疾患がない人も経験するの?

回答①

加藤伸輔(特定非営利活動法人メンタルヘルス共創拠点ピアウェル)

パーソナル・リカバリーは、症状や状態だけでは測れない「個人的な変化のプロセス」と言われています11)。ここでいう変化とは、「これから」に目を向けながら、調子の波や生きづらさがあっても、暮らしを立て直し、再び自分らしい人生を歩んでいこうとする営みです。

そう考えると、パーソナル・リカバリーは、精神疾患のある人だけに特有のものではなく、誰の人生にも通じる側面があります。

たとえば、生きづらさの中で立ち止まりそうになっても、なんとかやり過ごそうとしているとき。過去のほろ苦い体験を、次に活かしていこうと思えたとき。大切な人との別れを悲しみながらも、これからの暮らしをどう続けていこうかとやっと考えられるようになったとき。人の支えによって、気持ちがちょっと楽になり、もう一度前を向けそうだと感じられた瞬間。こうした経験は、多くの人が人生のどこかで味わってきたものではないでしょうか。

もちろん、精神保健の文脈で語られてきたリカバリーには、偏見や制度との関係といった固有の背景があります。ただ、ここで目を向けたいのは、「生き方を立て直していくプロセス」という共通する部分です。

精神疾患のある人は、症状や生活のしんどさの中で、この歩みをより切実なものとして意識しやすいかもしれません。しかし、その根っこにあるのは、「自分の生き方を、自分の手に取り戻していく」という在り方です。そうした歩みは、生きていく中で、誰の身にも生まれていくものだと思います。

回答②

彼谷哲志(特定非営利活動法人あすなろ)

人は誰でも、精神疾患やその他の理由で、休学、退学、休職、失業、離婚、死別などによって、それまでの当たり前の生活が崩れ落ちる経験をすることがあります。そのような人生の危機からの立ち直るプロセスは、希望を見出す、自分に責任を持つ、役割を再獲得するなどパーソナル・リカバリーととても一致しています。しかし、失業や離婚を経験した人が、単に「再就職する」「再婚する」ことを目指すとしたら、それは「社会のレール」への復帰という言葉で語られるべきかもしれません。

当事者であるディーガン氏は、リカバリーのゴールは、社会の主流や標準的な生き方に合わせることではない。普通(ノーマル)を目指すことでもない。社会の主流や標準的な生き方そのものを広げて精神疾患と診断された人たちを含むすべての人に居場所がある社会にすべきと考えました12)

研究者であるデビッドソンたちは、当事者やサバイバー、研究者によるリカバリーの著作や論文を調査し、スティグマや社会的排除、さらにはサービスによる依存や受動性といった影響を乗り越えることがリカバリーに含まれると整理しました76)

さまざまなリカバリーの定義がありますが、リカバリーには、社会で普通とされる生き方に戻ることを良しとせず、市民としての尊厳と権利を取り戻すという意味があります。失業や離婚という経験を通して、社会の負け組ではなく、以前とは別の価値観を持つ自分として歩み、「自分という物語を生きる一人の人間」だと捉えなおした人は、パーソナル・リカバリーを経験していると言えるでしょう。精神疾患の有無によらず、社会の当たり前や偏見に対する苦悩や葛藤から、自分の尊厳を取り戻して新たな自分を見出していくプロセスが、リカバリーの本質だと思います。

Q&A3. パーソナル・リカバリーの構成要素は国によって違うの?

地域精神保健・法制度研究部

パーソナル・リカバリーの構成概念は、国や地域、文化の差に影響を受けると言われています。国際的に見ると、パーソナル・リカバリーの構成要素として、①他者とのつながり、②将来への希望と楽観、③アイデンティティ・自分らしさ、④生活の意義・人生の意味、⑤エンパワメント、⑥生活のしづらさ・生きづらさへの対応という6つ(CHIME+Dフレームワーク)が提案されています(2.6.参照)28, 30)。日本の当事者を対象とした研究では、これらの6つの要素は大きく変わりませんが、文化的な影響の伴う特徴も見られます。たとえば、①「他者とのつながり」という要素の中で、日本の研究では他者への思いやりが特に強調される傾向が見られました。また③「アイデンティティ・自分らしさ」の中に、社会的規範に左右されないアイデンティティの再構築・再定義が含まれている可能性が示されています77)。日本は社会規範の強い国の一つであることを考慮すると78)、地域の文化は、パーソナル・リカバリーの概念の構成にも影響すると考えられます。

本文中の図

図10 パーソナル・リカバリーの構成概念:CHIMEフレームワーク+D

出典:Leamy et al (2011) & van Weeghel et al (2019) & Kanehara et al (2022)から作成28, 30, 77)

Q&A4. パーソナル・リカバリーの構成要素は診断によって違うの?

地域精神保健・法制度研究部

パーソナル・リカバリーは、歴史的には統合失調症などの当事者を中心に議論されることが多い概念でした。近年では、その構成概念が精神科の診断によって変わるのか否かについても関心が集まっています。ここでは、パーソナル・リカバリーの構成概念について、①他者とのつながり、②将来への希望と楽観、③アイデンティティ・自分らしさ、④生活の意義・人生の意味、⑤エンパワメント、⑥生活のしづらさ・生きづらさへの対応の6つの要素からなるCHIME-Dフレームワーク(2.6.参照)28, 30)に関するいくつかの知見を紹介します。様々な診断の当事者を対象にした米国の研究は、CHIME-Dフレームワークの構成概念が診断横断的に、つまり診断種別にかかわらず広く当てはまると提案しています79)。また、統合失調症、気分障害、自閉症、重複診断の当事者を対象にした豪州の調査も、診断による若干の程度の違いを認めながらも、CHIMEフレームワークが様々な診断に概ね当てはまるという結果を示しています80)。一方で、診断別の研究では、異なる構成概念が提案されている場合もありますので、以下に整理します。

  • うつ病の場合

うつ病の当事者を対象にした文献研究は、CHIMEフレームワークが適応できる可能性があることが示唆されています。特に①「他者とのつながり」の中でも、孤独問題やソーシャルサポートが強調されることもあります81, 82)

  • 双極症の場合

双極症の当事者を対象にした文献研究では、①「目的と意義」、②「楽観と希望」、③「エンパワメント」、④「テンション」、⑤「アイデンティティ・自分らしさ」、⑥「他者とのつながり」で構成されるPOETICフレームワークが提案されています。特徴的な構成要素は、④「テンション」です。この要素は、自分自身がやりたいことと症状の減退のために取り組むこととのバランスの問題や、診断をされ治療を受けることと自身が病気であることを認めることに対する葛藤を表しています83)

本文中の図

図11 双極症・摂食障害におけるパーソナル・リカバリーの構成概念

出典:Wetzler(2020) & Jagfeld (2021)から作成83, 84)

  • 摂食障害の場合

摂食障害の当事者を対象とした文献研究では、①「他者からの励まし・認められる」、②「将来への希望」、③「アイデンティティ・自分らしさ」、④「意義と目的」、⑤「エンパワメント」、⑥「セルフ・コンパッション」で構成されるSHIMESフレームワークが提案されています。摂食障害では、自分を認めることや自分を労わること⑥「セルフ・コンパッション」が特徴的な要素といえます。

このようにパーソナル・リカバリーの構成概念は、診断横断的に共通する要素が多くありますが、診断名ごとに異なる要素が追加される場合もあります。

Q&A5. リカバリーをテーマとする講演会をする時に誰を呼ぶとよい?

山田悠平(一般社団法人精神障害当事者会ポルケ)

リカバリー・カレッジを運営している立場からの気づきをお伝えしたいと思います。リカバリーをテーマとする企画では、当事者を複数人招く構成が良いのではないでしょうか。リカバリーは一人ひとりの経験や価値観によって形が異なるため、多様な語りが並ぶことで「唯一の正解はない」という本質を伝えられます。たとえば、退院してまもない人、就労支援や生活支援を受けている人、ピアスタッフとしての支援や当事者会からソーシャルアクションに携わる人など、異なる背景の当事者がそれぞれの「リカバリー」を語る構成が効果的です。その際に、年齢・性別なども考慮して登壇者をバランスよく配置すると、多様なリカバリーの姿を実感できます。いずれにしても、語りの内容が「治る」一辺倒ではなく、「自分らしく生きる」や「希望を取り戻す」ことなどに焦点を当てている人が望ましいでしょう。

形式としては、ファシリテーターを置いた座談会や対話型セッションがおすすめです。お互いに質問し合いながら語ることで、リカバリーを「話す」「聴く」「考える」場として体験でき、参加者自身が自分にとってのリカバリーや支援のあり方を見つめ直す契機となるのではないでしょうか。

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著者情報と分担執筆箇所

地域精神保健・法制度研究部リカバリーウェブサイトチーム

メンバー一覧

氏名所属本文の執筆
宇田川健認定NPO地域精神保健福祉機構・コンボ
加藤伸輔特定非営利活動法人メンタルヘルス共創拠点ピアウェル4.3.
彼谷哲志特定非営利活動法人あすなろ5.1.
川口敬之国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
川村有紀オープンスペースぽかぽか
桐原尚之全国「精神病」者集団3.2., 5.3.
佐々木理恵東京大学医学系研究科 医学のダイバーシティー教育研究センター3.3.
鈴木みずめフリーランス
奈良麻結国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
増川ねてるフリーランス
山崎将展公益財団法人復康会サポートセンターなかせ
山口創生国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部
山田裕貴所沢市保健センター健康管理課こころの健康支援室5.1.2.
山田悠平一般社団法人精神障害当事者会ポルケ4.1., 4.2.

地域精神保健・法制度研究部の研究員による執筆:2.1~2.6, 3.1, 5.1.1, 5.2

出典情報

地域精神保健・法制度研究部リカバリーウェブサイトチーム:リカバリー(Recovery):第5回改定版. 国立精神・神経医療研究センター, 小平, 2026. URL: https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/recovery/