National Center of Neurology and Psychiatry

神経研究所 疾病研究第七部

部長 本田 学 博士(医学)
Manabu HONDA, MD, Ph.D.

 生物、すなわち〈生命あるもの〉と、単なる物質の寄せ集めとを区別する特徴は何でしょうか?決定的な一つが、〈生命あるもの〉は自分とそっくりの子孫をつくって増殖することができることです。そのためには自分自身の設計図、すなわち情報が必要です。つまり「情報なくして生命なし」と言えます。
 また、脳は複雑な情報処理によって心を生み出しますが、それを支えているのは神経細胞のつなぎ目(シナプス)で行われる化学反応です。このように、私たちの身体や脳の中では、物質と情報が表裏一体の関係にあります。
 これまで、私たちをとりまく環境を健康面や安全面から評価する尺度(ものさし)としては、環境の中に存在する有害物質や放射線の量など、〈物質〉と〈エネルギー〉がもっぱら使われてきました。しかし、特に環境が脳に及ぼす影響を評価するためには、それらに加えて〈情報〉という尺度が欠かせません。
 例えば、脳に入力される情報をすべて遮断してしまうと、幻覚・妄想や錯乱状態など、急性の薬物中毒に似た症状を呈することが知られています。こうした事実は、物質の世界に「有害物質」と「必須栄養素」とがあるように、情報の世界にも「有害情報」と「必須情報」とがあるのではないか、という全く新しい視座を与えてくれます。
 こうした発想のもと私たちは、「脳における情報処理の異常」という観点から、脳と心の病の病態解明と治療法開発に迫ろうと考え、新しい健康・医療戦略として〈情報医学・情報医療〉を提唱しました。現在、その体系化に向けて基礎研究と臨床研究とを並行して進めています。
 私たちの野心的なチャレンジに共鳴し、既成の専門分野の枠組みに閉じこもらず、問題に応じて新しい解決方法を手づくりする志をもった仲間を広く募集します。

疾病研究第七部長 本田 学

>>>プロフィールはこちら