脳における知覚・認知をある種の“計算”ととらえ、その情報処理プロセスを数理モデル化することで神経システムの動作原理を探求する研究手法を計算論的アプローチといいます。計算論的精神医学(computational psychiatry)とは、この手法を精神医学研究に応用しようという精神医学の新しい研究領域で、精神医学が直面する問題を解決する上で極めて強力な研究方略を提供することが期待されています。
本研究室では、計算論的精神医学の手法を用いて、精神障害に関する生物学的な知見と行動・症状レベルの臨床的な病像の間を橋渡しするような病態メカニズムの説明を提供し、精神障害の理解と治療法開発に貢献することを目指します。
人の柔軟で多様な認知・行動を可能にする脳の情報処理メカニズムを、予測と予測誤差最小化に基づく制御の計算理論(予測符号化: predictive coding)の観点からニューラルネットワークモデルとして具現化し、シミュレーションやロボットを用いた神経ロボティクス実験を通じた検証により、統合失調症・自閉スペクトラム症をはじめとする精神・神経疾患のシステムレベルでの病態メカニズムの理解を試みています。
機械学習とは、大量のデータに対して反復的に計算を繰り返すことによってそこに潜むパターンを見つけ出す方法の総称で、人工知能(AI)技術の基盤技術です。特に、深層学習(深層ニューラルネットワーク)は、画像や音声などのデータから、標的課題に有用な情報(特徴量)を自動的に抽出する強力なアルゴリズムです。私たちの研究室では、MRIや脳波などの神経生理学的データや認知行動実験データ、精神疾患症状スコアデータなどに機械学習・深層学習技術を適用することで、患者個々人の症状評価・疾患予後・治療反応性予測などを総合的に評価する精神疾患の新しい評価法開発のための基盤となる技術の確立を目指しています。
計算論的精神医学の領域を主導する多くの研究室と密接な連携の元、研究に取り組んでいます。
<主な共同研究先>
* 早稲田大学(尾形研究室)
* 慶應義塾大学(理工学部・村田研究室)
* 沖縄科学技術大学院大学:OIST (谷研究室)
* 名古屋大学(片平研究室)
* 専修大学(国里研究室)
* 慶應義塾大学(精神・神経科学教室・計算論的精神医学研究室)
* 東京医科歯科大学(精神行動医科学分野)
計算論的精神医学に関係する公的研究費プロジェクトに参加しています。
* JST CREST 「認知ミラーリング:認知過程の自己理解と社会的共有による発達障害者支援」
* 新学術領域 「人工知能と脳科学の対照と融合」公募研究
* 科研費・基盤研究(A) 「人工知能技術と疾患横断的・次元的アプローチに基づく精神障害の計算論的診断学の創出」
計算論的精神医学領域研究者のネットワーク構築・情報交換環境の構築に取り組んでいます。
* 計算論的精神医学の研究会:計算論的精神医学コロキウム
* 計算論的精神医学研究データベース:Computational Psychiatry Research Map (CPSYMAP)-->
CPSYMAPのコンセプト説明
計算論的精神医学研究室では、計算論的精神医学に興味をもつ研究員・研究補助員を募集しています。
また、現在複数の大学・研究機関などから研究生・大学院生を受け入れており、当研究室での研究で学位を取得することも可能です。
計算論的精神医学研究室で研究を希望する方は、室長の連絡先まで問い合わせください。
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