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免疫研究部・研究内容

2011年5月 更新

当研究部では自己免疫疾患(特に多発性硬化症)の病態の解明と治療法の開発を目指して、
マウスの自己免疫病実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)とヒトの血液を使った研究を進めています。

現在、研究室ではナチュラル・キラーNK細胞とNKT細胞の多発性硬化症における異常の解明、
これらの異常を矯正する治療法の開発などに関する研究が急速に進んでいます。また、自己免疫応答を
調節する新規機構の解明を目指して、細胞、分子、個体レベルでの研究を進めているところです。



研究目的

当研究部では多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)に代表される免疫性神経疾患の診断、予防、
治療の確立を目的としている。MSは未だ決定的な治療法のない神経難病で、本疾患の治療法の開発は
医学・生命科学のフロンテイアの一つである。分子・細胞レベルの基礎研究、動物モデルを使った
治療法開発研究とヒトの血液や生検材料を使った分子免疫、分子神経学的研究を平行して進めている。





研究部の概要


当研究部では1999年12月より現在の研究体制(部長、二室長)が
確立した。各研究室はそれぞれ動物モデル(マウス)、臨床材料
(ヒト)を扱い、免疫学的機構の関与する神経疾患の病態解明と
治療法開発をめざした基盤研究を展開している。

新体制発足以来、
1)多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)およびその動物モデル実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の研究
2)遺伝性神経変性疾患における免疫病態の解析
3)免疫学的方法による痴呆疾患の征圧、の三課題について研究を進めている。

多発性硬化症は免疫性神経疾患の代表で、本疾患の克服に向けた日本における中心拠点として
機能することが当部の第一の目標である。現在動物モデル研究グループは、遺伝子改変マウスを
内外から収集し、ユニークな実験系が組めるように準備を進めている。既に自己抗原ノックアウト・
マウスを使った研究やNKT細胞の研究などで成果が上がっており今後の発展が楽しみである。

一方、ヒトの材料を使った免疫学的研究は多くの困難を伴う。しかし、基礎研究を臨床に還元することが
求められている今日、その重要性は増す一方である。幸い武蔵病院神経内科、放射線科、関係病院などの
ご協力により、臨床材料を使ってクオリテイーの高い研究が行える体制が整ってきた。
2002年度はMSのNK細胞の変調を突き止め、研究論文をThe Journal of Clinical Investigation誌に発表する
ことができた。新しいメンバーになって1年半足らずで、しかも病気の研究で成果が出せたのは喜ばしい。
ただこれに満足することなく、さらに高いレベルの成果を出し続けたいと願っている。

なお、疾病研究第六部以来、足かけ4年以上にわたってMS研究に大きく貢献したZsolt Illes君が、 ハーバード大学Kuchroo博士の研究室に転出した。今後彼を核にした日米国際共同研究の発展が期待される。





社会的活動


1) 医療への貢献
わが国におけるMSの医療レベルを向上させるため、執筆、講演、ラジオ放送、インターネット医療相談(MSキャビン)などを通じて啓蒙活動を行った。山村は日本多発性硬化症協会、世界多発性硬化症協会連合(IFMSS)医学顧問の任も果たした。

2) 厚生行政、学術に関連する貢献
山村は厚生省厚生科学脳科学研究推進事業(多発性硬化症の発症機構解明と治療法の開発)の
主任研究者、特定疾患対策研究事業(免疫の関与する難病の病因解明のための基盤技術の開発に
関する研究・山本班)の分担研究者、免疫性神経疾患に関する調査研究班(納班)の分担研究者、
精神・神経疾患研究遺伝性ニューロパチー成因・治療班(祖父江班)の研究協力者などを務め、
それぞれの研究費を受けて課題研究に当たった。

三宅は脳科学研究推進事業の分担研究者、厚生科学特別研究事業(多発性硬化症における病原性
T細胞特異的抑制方法の検討)の主任研究者、文部省科学研究費補助金基盤研究C2(自己抗原に
対する免疫寛容誘導に重要な遺伝子の同定)の代表研究者として各研究課題に関連した研究を行った。

近藤は日本多発性硬化症協会医学助成を受けた。





国際共同研究


脳科学外国人招聘事業の一環として、イスラエルワイズマン研究所の
Irun R. Cohen教授、ハーバード大学神経疾患研究センターの准教授
Vijay K. Kuchroo博士を招聘し、国立精神・神経センターで情報交換、
共同研究打ち合わせなどを行った。





過去の主な研究業績


1) 自己免疫病の新規治療物質の発見
NKT細胞のIL-4産生を促進する新しい糖脂質OCHを合成し、この糖脂質がEAEを抑制する活性を持ち、自己免疫疾患の治療薬として有望であることを証明した(Miyamoto K, Miyake S, Yamamura T. Nature 413: 531-534, 2001)。Nature論文に発表した合成糖脂質およびその関連物質に関して、
特許を出願した。

2)MSとNK細胞、NKT細胞異常に関する研究
NK細胞とNKT細胞がMSの寛解維持に関与することを、世界に先駆けて明らかにした
(Araki M, Kondo T, Gumperz JE, Brenner MB, Miyake S, Yamamura T:Th2 bias of CD4+ natural killer T cells derived from multiple sclerosis in remission. Int Immunol 15:279-288, 2003)。
MSの寛解期にはNK細胞はIL-5を産生し、CD4+NKT細胞はIL-4を産生して、病原性Th1細胞の
活性化を抑制する経路が明らかになった。

3)MSにおけるベータ・インターフェロン(b-IFN)の作用発現機構に関する研究
特定疾患対策研究事業 「多発性硬化症に対するインターフェロン療法に関する研究班
(主任:山村)」を組織した。cDNAマイクロアレイを導入し、b-IFNの治療効果発現に
関与する新規な物質を複数同定した。

4)那須-Hakola病の原因遺伝子に関する研究:
早期発症の痴呆と多発骨折で特徴づけられる本疾患で、免疫シグナル伝達に関連する
DAP12の点突然変異を同定した(Neurology)。免疫系を巻き込む痴呆疾患として、
今後の研究の発展が期待される。

5) 実験的自己免疫性脳炎(EAE)の免疫調節に関する研究:
NKT細胞の糖脂質リガンドによるEAE 治療研究を継続した。代表的なリガンドである
アルファ・ガラクトシルセラミド(α-GC)はEAEの治療薬としては効果がないことを
確認したが、その理由はα-GCがNKT細胞に病気を抑制するIL-4と共に、病気を悪化させる
インターフェロン・ガンマの産生を促すからであることがわかった。NKT細胞にIL-4を
選択的に産生させる条件を探る過程でNKT細胞を標的とする新しい治療法を開発した
J. Immunol. 166: 662-668, 2001)。
EAEの実験法について知りたい方はこちらへ

6) MSにおけるNK細胞、NKT細胞異常に関する研究:
MSは再発と寛解で特徴づけられるが、その寛解維持のメカニズムはこれまでほとんど
明らかになっていなかった。2000年度我々は、NK細胞がIL-5を産生しFas(CD95)分子を発現する
NK2タイプに偏倚することによって、Th1タイプの脳炎惹起性T細胞の活性化、ひいてはMSの再発を
抑止している可能性を示すことができた。NK細胞のNK1/NK2分類は、最近試験管内実験の結果
提唱された概念であるが、MS患者体内でNK2細胞に相当する細胞が存在することを世界で初めて
証明した意義深い研究である。

7) P0+/-マウスの自己免疫性神経炎に対する感受性亢進に関する研究
遺伝子疾患における免疫系の関与という問題を解析する材料として、P0+/-マウスを導入した。
P0は末梢神経の構成蛋白であるが、ヘテロノックアウトマウスは生後1年間は症状を示さない。
2002年度我々は、P0+/-マウスではP0ペプチド感作により誘導される実験的自己免疫性神経炎
(EAN)に対する感受性が亢進していることを発見した。P0蛋白は胸腺に発現しているが
P0+/- マウスではP0の胸腺発現が低下している。そのために、P0反応性T細胞のnegative selectionが
低下し、EAN感受性が亢進しているようである。





学会活動

厚労省特定疾患「多発性硬化症に対するインターフェロン療法に関する研究班」、脳科学研究
「多発性硬化症の発症機構解明と治療法開発」、ヒューマンサイエンス総合研究国際研究
「NKT細胞解析に有用なCD1d/糖脂質テトラマーの開発」を組織した他、その他の研究班で部長、
室長が分担研究者を務めた。
山村は日本神経学会、日本免疫学会、日本神経免疫学会の評議員を務め、日本免疫学会総会
ワークショップ、難病医学研究財団の免疫学国際セミナー、日本神経免疫学会シンポジウムの座長、
免疫学国際セミナーの組織委員の任を果たした。またThe Journal of Immunology, Neuropathology,
FEBS Lettersなど国際学術誌の論文審査にも当たった。





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