カフェインと睡眠
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はじめに
2021/12/2
文責:都留 あゆみ
今回は、睡眠障害外来の診察の際もよく話題にのぼる、カフェインに関してお話します。カフェインはキサンチン系誘導体の一種で、眠気、倦怠感、頭痛の治療薬として医療現場でも用いられますが、本コラムでは、薬ではなく嗜好品として取り上げます。
このコラムの内容
1.日常生活の中のカフェイン
2.適切なカフェインの摂取量とは
3.カフェインが睡眠に及ぼす影響
4.おわりに
1.日常生活の中のカフェイン
カフェインが含まれるものは?と問われた時に、一番に思いつくのはコーヒーという方が多いかもしれません。ドリップ式のコーヒーには、マグカップ(237ml/杯)1杯に約100mgのカフェインが含まれます。その他、紅茶やお茶(玉露、煎茶)、あまり気にされたことはないかもしれませんが、コーラ飲料やココア、チョコレートなどにもカフェインは含まれます。
最近では、眠気覚ましのエナジードリンクがコンビニエンスストアや自販機でも買えるようになり、カフェインを気軽に摂取できるようになりつつあります。
表1にカフェインの含有量をまとめましたので、普段どれくらいカフェインを摂取しているか、ぜひ見直してみてください。
飲み物・食べ物の種類 | カフェインの量 | 抽出方法(1杯あたりの液量) |
コーヒー |
||
ドリップ式 インスタント (顆粒製品) 缶コーヒー・コーヒー飲料* |
60mg/100ml |
コーヒー粉末 10g/熱湯 150ml インスタントコーヒー 2g/熱湯 140ml 1本あたり 165-480mg(製品による) |
玉露 | 160mg/100ml | 茶 10g/60℃の湯 60ml, 2.5分 |
紅茶 | 30mg/100ml | 茶 5g/熱湯 360ml, 1.5-4分 |
煎茶 | 20mg/100ml | 茶 10g/90℃の湯 430ml, 1分 |
ほうじ茶 | 20mg/100ml | 茶 15g/90℃の湯 650ml, 0.5分 |
ウーロン茶 | 20mg/100ml | 茶 15g/90℃の湯 650ml, 0.5分 |
ココア | 7mg/100ml | ピュアココア 5g/牛乳 140ml |
麦茶 | 0mg | 茶 50g/湯 1500ml, 沸騰後5分放置 |
エナジードリンク | 32-300mg/100ml | 1本あたり36-150mg(製品による) |
ミルクチョコレート | 25-35mg/100g | |
ハイカカオチョコレート | 70-120mg/100g |
表1 飲み物に含まれるカフェインの量
参考「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」文部科学省
「カフェインの過剰摂取について」農林水産省
「高カカオをうたったチョコレート」厚生労働省
*アサヒ飲料、キリン、サントリー、伊藤園の各ホームページ商品情報
2.適切なカフェインの摂取量とは
カフェインは、適切な量であれば、眠気を解消したり、集中力を上げたりするのに役立ちますが、過剰に摂取すると、動悸(心拍数の増加)、下痢、吐き気などの身体症状や興奮、不安、イライラするなどの精神症状、そして不眠症状をもたらすことがあります。また、過剰な摂取を数日間にわたって続けた場合は、疲労感を強く感じるようになる可能性も示唆されています1)。妊婦や乳幼児はカフェインの代謝に時間がかかり、長時間体内に留まります。少量であれば害はないとされていますが、幼い子供においては、不安を感じやすくしたり、連日摂取を続けて突然やめた際に頭痛等の悪影響が出たりする可能性を考えると、カフェイン摂取は控えた方が良いでしょう。
健康な成人において、コーヒーであれば一日2,3杯までが健康に悪くない摂取量と考えられます。海外での基準になりますが、目安となる一日のカフェインの上限摂取量は以下のようになっています(表2)。
カフェイン摂取の一日の目安量 | 提唱している機関名 | |
子供 | 2.5mg/kg(体重40kgで約100mg) | カナダ保健省 |
4-6歳 7-9歳 10-12歳 |
45mg 62.5mg 85mg |
|
健康な成人 | 400mg | カナダ保健省 |
妊婦 | 300mg 300mg 200mg |
カナダ保健省 オーストリア保健・食品安全局(AGES) 英国食品基準庁(FSA) |
表2 健康に影響のないとされるカフェインの量(「食品安全」2017, 51より抜粋、改変)
3.カフェインが睡眠に及ぼす影響
疲労に伴い体内で産生されるアデノシンという物質がアデノシン受容体に結合すると、覚醒作用のあるヒスタミンという神経伝達物質の放出を抑えるため眠くなります。カフェインは、このアデノシン受容体に結合することでアデノシン自体が結合するのを阻害するため、ヒスタミンの放出が抑制されなくなり、眠気を感じにくくなります。
個人差はありますが、カフェインの血中濃度(吸収され血液中に含まれる量)は摂取後30分~2時間程度で最大となり、半減期(効果が半分になる時間)は2~8時間と幅があります(子供や妊婦では、半減期がさらに延長します)。カフェインと睡眠に関する研究は数多く行われており、習慣的にカフェインを摂取する人は、入眠困難などの不眠症状を抱える可能性が高く、過剰なカフェインの摂取は入眠潜時(寝つくまでにかかる時間)を延長させ、睡眠効率(ベッドで過ごした総時間のうち実際に眠れた時間の割合)を低下させるなど、睡眠の質を悪化させることが報告されています1)。また、カフェインには利尿作用もあることから、尿意で頻回に目覚めてしまうことも睡眠の質を悪化させる原因となります。
夜の睡眠に影響を与えないためには、カフェインを多く含むものは、できるだけ夕方以降摂取しないようにした方が良いでしょう。夕食の時に、カフェインを多く含む飲み物を飲む習慣があり夜眠れなくてお困りの方は、デカフェ(カフェインの量が少なくなるように加工した製品)にしたり、カフェインを含まない飲み物(麦茶やルイボスティー、ノンカフェインのハーブティーなど)に代えたりしてみることをお勧めします。
4.おわりに
今回は、日常的に馴染みのあるカフェインとの適切な関わり方についてお話しました。カフェイン含有飲料・食品はあくまでも嗜好品ですので、楽しんで上手に付き合っていきましょう。
1)Daniele Wikoffら, 2017, Food Chem Toxicol. 109(Pt 1): 585-648