温度、湿度と睡眠

温度、湿度と睡眠

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はじめに

2022/6/28

文責:羽澄 恵

 睡眠には、寝室の環境も影響します。温度や湿度は、その一つです。そこで、本コラムでは、睡眠をとるのに適切な温度や湿度についてご紹介したいと思います。

このコラムの内容

このコラムの内容

1.睡眠と体温調節の関係

2.寝床の温度や湿度の重要性

3.温度や湿度をマネジメントするために

4.おわりに

1.睡眠と体温調節の関係

 体温調節にともなって睡眠は変化します。脳や臓器など体の奥深くの体温である深部体温が下がるときに眠りが訪れます。図1に示すように、深部体温は、手足をはじめとした皮膚の表面から熱が放散されることで低下します1,2。深部体温が下がるとき、相対的に皮膚や手足の体温が上がります。この体温の上昇が早いほど、寝つきが早いことが知られています。2

図1 体温調節と睡眠の関係

Kräuchi et al,2001をもとに改変


2.寝床の温度や湿度の重要性

 睡眠にとって重要な体温調節をスムーズに行えるよう、寝室や寝具の温度や湿度の調整は欠かせません。
 寝室の温度が低すぎると、体温を維持しようとして皮膚から熱が放散されにくくなる一方、高すぎると外気に熱を放散しにくくなり、体温調節がうまくいきません。同様に、湿度も高すぎると発汗による放熱が行われにくくなってしまいます。これにより、熱放散できず、スムーズに寝つきにくくなる可能性が考えられます。さらに、室温が高すぎる、あるいは低すぎると、寝つきにくさだけでなく中途覚醒(夜中に目が覚めて再度寝つけない)も生じやすくなることも報告されています3
 くわえて、高い湿度はカビやダニの増殖を促すことからアレルギー症状を引き起こし、睡眠を妨げることや4,5、睡眠サイクルが乱れたり睡眠段階を阻害したりするとの報告があります7。反対に、湿度が低すぎる場合は、喉や鼻などの渇きや呼吸器疾患を引き起こすことで睡眠を阻害しやすくなるといわれています6
 こういった理由から、睡眠を促すうえで、気温や湿度の調節は重要となります。


3.温度や湿度をマネジメントするために

 厚生労働省が提唱する睡眠指針12箇条によると、寝室で寝具や寝間着を使用した状況であれば、室温は、夏は高めで冬は低めとなるものの概ね13~29℃の範囲に収まるようにし、寝具の内部は33℃前後になるよう調整することが推奨されています8。また、湿度については、40~60%程度が良いとされています7。寝具や空調機器を上手に活用しながら、就寝環境を整えましょう。

 寝具や空調機器の活用以外にも、いくつか工夫できることがあります。就寝約1.5時間前に入浴することで、よりよい睡眠状態を確保できると期待できます8,10。冷却枕を使うことは体温調節に有効という報告もあります9。また、手足などの冷え性がある方は、熱の放散がうまくいかないことが知られています11,12。そういった場合、靴下を履くなどして冷えを緩和するのもひとつかもしれません。なにより、体温や眠気の程度は概日リズムにともなって一日のあいだで変動するため、夜に一定の時刻になったら自然と眠気が訪れるよう、規則的な生活を送ることがとても大切です。


4.おわりに

 今回は、睡眠と温度や湿度の関係について紹介しました。季節やご自身の寝室、寝具にあわせて、眠りやすい環境を整えてみましょう。

<参考文献>1. Kräuchi K, Wirz-Justice A. Circadian clues to sleep onset mechanisms. Neuropsychopharmacology. 2001;25(5):S92-S96. doi:10.1016/S0893-133X(01)00315-3
2. Kräuchi K, Cajochen C, Werth E, Wirz-Justice A. Warm feet promote the rapid onset of sleep. Nature. 1999;401:36-37. www.nature.com
3. Haskell EH, Palca JW, Walker JM, Berger RJ, Heller HC. The effects of high and low ambient temperatures on human sleep stages. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1981;51(5):494-501. doi:10.1016/0013-4694(81)90226-1
4. Hayes D, Jhaveri MA, Mannino DM, Strawbridge H, Temprano J. The effect of mold sensitization and humidity upon allergic asthma. Clin Respir J. 2013;7(2):135-144. doi:10.1111/j.1752-699X.2012.00294.x
5. Acevedo N, Zakzuk J, Caraballo L. House dust mite allergy under changing environments. Allergy, Asthma Immunol Res. 2019;11(4):450-469. doi:10.4168/aair.2019.11.4.450
6. Mäkinen TM, Juvonen R, Jokelainen J, et al. Cold temperature and low humidity are associated with increased occurrence of respiratory tract infections. Respir Med. 2009;103(3):456-462. doi:10.1016/j.rmed.2008.09.011
7. Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm. J Physiol Anthropol. 2012;31(14):2-9.
8. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠指針 2014. 2014. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf (2022年6月7日時点)
9. Okamoto-Mizuno K, Tsuzuki K, Mizuno K. Effects of head cooling on human sleep stages and body temperature. Int J Biometeorol. 2003;48(2):98-102. doi:10.1007/s00484-003-0181-3
10. Mishima Y, Hozumi S, Shimizu T, Hishikawa Y, Mishima K. Passive body heating ameliorates sleep disturbances in patients with vascular dementia without circadian phase-shifting. Am J Geriatr Psychiatry. 2005;13(5):369-376. doi:10.1097/00019442-200505000-00005
11. Kräuchi K, Gasio PF, Vollenweider S, et al. Cold extremities and difficulties initiating sleep: Evidence of co-morbidity from a random sample of a Swiss urban population. J Sleep Res. 2008;17(4):420-426. doi:10.1111/j.1365-2869.2008.00678.x
12. Pache M, Kräuchi K, Cajochen C, et al. Cold feet and prolonged sleep-onset latency in vasospastic syndrome. Lancet. 2001;358(9276):125-126. doi:10.1016/S0140-6736(01)05344-2