お酒を飲むとぐっすり眠れる?

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はじめに

2022/8/25
文責:木附 隼

 夏です。「こんな暑い日には帰ってビールを一杯、ぐっすり寝よう」、一日の疲れを癒すため、そんな風に考えられる方もいらっしゃるかもしれません。お酒を飲むと眠気が生じて良く眠れる感じがするという話もあれば、お酒を飲むと夜中に目覚めてしまう、翌日に疲れが残るといった経験も聞きます。そこで、今回は実際にアルコールが睡眠とどのように関わっているのか紹介したいと思います。

このコラムの内容

このコラムの内容

1.日本におけるアルコール

2.アルコールと睡眠の関係

3.眠れないから飲酒する、飲酒するから眠れない

4.おわりに

1.日本におけるアルコール

 お酒は、嗜好品である以外に、神事における捧げ物やお清めとして、交流の場での潤滑剤としてなど、文化や社会と関わり合いながら用いられてきました。しかし、不適切な飲酒は依存や健康被害といった重大な問題に繋がります。厚生労働省では「節度ある適度な飲酒」を純アルコールに換算して1日20gまでとしています。下に一般的なアルコール飲料を純アルコールで簡易換算した一覧表を示しますので参考にしてみてください。ただし、アルコール代謝には個人差があるため注意が必要です。

ビール500ml 清酒180ml

ウイスキー

ダブル60ml

焼酎(35度)

180ml

ワイン120ml
20g 22g 20g 50g 12g

 令和元年に行われた日本での調査において、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒をしている(1日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上)成人の割合が、男性で14.7%、女性で9.8%であることがわかっています[1]。また、日本の一般成人において週1回以上の頻度で眠るためにアルコールを摂取する人の割合は男性で48.3%、女性で18.3%と報告されています[2]。決して少ない割合ではなく、アルコール飲料が気軽に買える現代だからこそ、睡眠への影響について正しい知識を身につけておく必要がありそうです。


2.アルコールと睡眠の関係

 これまでアルコールが睡眠に与える影響について多くの研究がなされてきました。それによりアルコールの影響が睡眠の前半と後半で異なった動きを示すことがわかってきました。アルコールを摂取すると、睡眠の前半では寝付くまでの時間の短縮、徐波睡眠(深い睡眠)の増加、レム睡眠(体は休み、脳は活動している睡眠)の減少といった変化をもたらします。しかし、その効果は持続せず、睡眠の後半では徐波睡眠の減少、レム睡眠の増加がみられるほか、アルコールの量、性別、年齢を問わず中途覚醒(夜中に目覚めて再び寝付くのに時間がかかってしまうこと)を増加させるといった特徴が報告されています[3, 4]。他にも、アルコールが日中の眠気を悪化させることや[4]、閉塞性睡眠時無呼吸の発症や症状悪化の原因になること[5]などもわかっています。このようなことから、アルコールは睡眠の構築を乱し、結果的に質の悪い睡眠に繋がってしまいます。


3.眠れないから飲酒する、飲酒するから眠れない

 一見、アルコールの「寝付きを良くしてくれる」効果については有用とも考えられますが、実際にはそう上手くはいきません。アルコールを連日摂取すると、当初得られた寝付きまでの時間の短縮や、睡眠前半の深い睡眠の増加といった変化は数日程度で消失してしまいます[6]。これらの有益であった効果に対して耐性(同じ量では効果がなくなること)が生じるため[4]、さらなる効果を求めてアルコール摂取量が増加していくといった悪循環に陥ってしまうことになりかねません。また、不眠症状と不適切な量の飲酒とが相互に影響する、すなわち不眠症状はアルコールの不適切な摂取につながり、アルコールの不適切な摂取が不眠症状を引き起こすという構造があることもわかってきました[7]。以上から、不眠症状に対するアルコールの使用は、飲酒量が増加し依存などの問題に発展する可能性があり、さらに不眠を悪化させてしまうなど悪影響が多いことがわかります。


4.おわりに

 今回はアルコールと睡眠との関係について紹介しました。「眠るためのお酒」は寝付きをよくしてくれるように感じられますが、結果的に睡眠に対して悪影響を及ぼします。睡眠で困った際には、アルコールで対処するのではなく、医療機関を受診して治療を受けることをご検討ください。


参考文献
1. 厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf.(8月5日閲覧)
2. Kaneita Y, Uchiyama M, Takemura S, Yokoyama E, Miyake T, Harano S, et al. Use of alcohol and hypnotic medication as aids to sleep among the Japanese general population. Sleep Med. 2007;8(7-8):723-32. Epub 20070518. doi: 10.1016/j.sleep.2006.10.009. PubMed PMID: 17512790.
3. Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013;37(4):539-49. Epub 20130124. doi: 10.1111/acer.12006. PubMed PMID: 23347102.
4. Roehrs T, Roth T. Sleep, sleepiness, sleep disorders and alcohol use and abuse. Sleep Med Rev. 2001;5(4):287-97. doi: 10.1053/smrv.2001.0162. PubMed PMID: 12530993.
5. Kolla BP, Foroughi M, Saeidifard F, Chakravorty S, Wang Z, Mansukhani MP. The impact of alcohol on breathing parameters during sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2018;42:59-67. Epub 20180611. doi: 10.1016/j.smrv.2018.05.007. PubMed PMID: 30017492; PubMed Central PMCID: PMCPMC8520474.
6. Roehrs T, Roth T. Insomnia as a path to alcoholism: tolerance development and dose escalation. Sleep. 2018;41(8). doi: 10.1093/sleep/zsy091. PubMed PMID: 29762764; PubMed Central PMCID: PMCPMC6093330.
7. Haario P, Rahkonen O, Laaksonen M, Lahelma E, Lallukka T. Bidirectional associations between insomnia symptoms and unhealthy behaviours. J Sleep Res. 2013;22(1):89-95. Epub 20120914. doi: 10.1111/j.1365-2869.2012.01043.x. PubMed PMID: 22978579.