
第34回
もの忘れは認知症だけじゃない?―「高齢発症てんかん」について
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2025.07.24
もの忘れは認知症だけじゃない?―「高齢発症てんかん」について
高齢になって初めて発作を起こす「高齢発症てんかん」は、脳卒中や加齢による脳の変化などが原因で生じ、年齢が高くなるほど発症する人が増えることが知られています。欧米の研究では、70歳以上では年間10万人あたり100人以上が発症し、小児期よりも多いと報告されています。
高齢者のてんかんでは、側頭葉から始まる焦点発作が多く見られます。口をモグモグする、意味のない動作を繰り返すといった自動症や、恐怖感・既視感などの精神症状が現れることもあります。発作中は意識が曖昧になり記憶が抜けるため、「急なもの忘れ」や「もうろう状態」が受診のきっかけになることも少なくありません。こうした症状が認知症と誤診されるケースもあります。
また、発作後にもうろうとした状態が長く続くことや、睡眠中のけいれん、短時間の意識消失といった症状も高齢発症てんかんの特徴です。高齢者が「記憶が飛んだ」と訴えるときは、認知症だけでなく、てんかんの可能性も考慮することが重要です。早期に正しく診断し、適切な治療を行うことで、生活の質(QOL)の改善が期待できます。
発作を起こしたり記憶を失ったりしても、ご本人はその症状に気づかないことも少なくありません。そのため、周囲の家族や介護者が「いつもと違う様子」に気づくことが、早期発見への第一歩になります。少しでも気になる変化があれば、ためらわずに医療機関に相談してみてください。
倉持泉(てんかん診療部・精神科医師)
参考文献:Sen I, et al. Epilepsy in older people, Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):735-748.
イラスト:Chat GPT