第27回取り残さない医療~てんかんと発達障害、境界知能について~

第27回
取り残さない医療~てんかんと発達障害、境界知能について~

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2024.04.04
取り残さない医療~てんかんと発達障害、境界知能について~

 最近では社会的に「発達障害」がクローズアップされることが多くなり、それにともない「おとなの発達障害」、「発達障害グレーゾーン」などの用語の認知度が高くなっている印象があります。てんかんにおいては、発達障害を合併しやすいということが知られており、治療においててんかん発作と似た症状が出現する可能性も高くなるため理解が必要な疾患です。

 また発達障害においては知能指数(IQ)の低下を合併することがあり、知能検査でおおよそIQ70~84のいわゆる「境界知能」も想像以上に多いことがわかってきました(人口の14%ほどと言われます※)。「境界知能」の方は一見するとコミュニケーションなどのやり取りはある程度問題なくでき、周囲からは「普通」ととらえられることも多いものの、なんとなくしんどいといった「困り感」を抱えており、社会的な不適応を起こし適応障害、うつなどの精神疾患を発症するリスクが高いと言われています。てんかんの発作と同等以上にうつ症状は生活の質(QOL)をさげるという研究もあるので非常に大事な問題です。
問題は、学業面、経済面や就労面での様々な領域での支援の必要性があるにも関わらず気づかれにくいところにあります。

 例えば、小学校高学年になってから学業不振が進展し、各種の不適応を生じて医療や相談機関に来院したものの、困ったことに多くの地方自治体では境界域IQでは療育手帳を取得できず、そのため福祉手続きをとれないというケースなどです。各自治体によって手帳取得の判断基準が違うことも問題にはなっていますが、これまでのIQによる判断にも改善の余地があるのかもしれません。現在の精神疾患の診断(DSM-5)の考え方が、検査結果による判定から生活活動や社会生活への適応状態に対する評価に変わっているからです。

 先日開催された第56回日本てんかん学会学術集会では「誰も取り残さない医療」を掲げており、てんかんに合併する発達障害のケアに関しても今後支援の網を強化して拾い上げるように働きかけることが大切でしょう。

(文責 藤)

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