新しい病気の発見から医療レベルの向上へ

新しい病気の発見から医療レベルの向上へ

多発性硬化症センターは多発性硬化症の臨床や研究に関係する
部門・研究室が連携して運営している組織で、
特殊な免疫検査や画像検査などを導入して診療レベルの向上を図っています。
また医師主導治験にも積極的に取り組んでいます。

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神経研究所/免疫研究部

検査で異常が出なくても病気?

図1典型的な多発性硬化症のMRI画像
図1典型的な多発性硬化症のMRI画像。白い斑点が病巣。このような病巣はNINJAでは検出できない。

体調が悪い時に病院で血液検査やX線検査を受け、「異常がないので大丈夫ですよ」という説明を受ければ安心できます。しかし「異常はないですよ」という説明に納得できないケースも時にはあります。その多くは本当に異常がないのですが、なかには深刻な問題が隠れている場合もあります。保険診療で受けられる検査についても、検査方法がさらに向上すれば異常を見つけ出すことが出来るようになる可能性があります。
脳神経系の病気では、画像検査(CTやMRI)が大変重要ですが、これらの検査もまだ精度が向上する余地があります。またアレルギーや免疫異常を調べる血液検査についても、同じことが言えます。『多発性硬化症(MS)』という脳の難病がありますが、その90%はMRIで診断がつきます(図1)。しかし症状からMSが疑われるのにMRIで異常が出ない場合には、診断や治療方針がなかなか決まらないことがあります。

NINJAー忍者のように神出鬼没な炎症で起こる病気

図2NINJAの拡散テンソル画像解析の結果。
図2NINJAの拡散テンソル画像解析の結果。病巣は赤一緑で示されている。

MSは視力の低下、手足のしびれ、ふるえ、脱力などの症状が繰り返す病気です。
多発性硬化症センターではMSの疑いがあってもMRIで異常が確認できない患者さん10例について、新しいMRI検査(拡散テンソル画像解析)と研究室でしか使うことのなかった血液検査(フローサイトーターによるリンパ球検査)を導入して詳細に調べました。その結果、大脳や脳幹部などの白質に多くの病巣が存在することや、抗体を作り出すリンパ球(プラズマブラスト)が血液の中で増えていることがわかりました(図2)。また炎症をおさえる治療や抗体を除く血液浄化療法で改善することも確認され、NCNPの医師·研究者たちは、この病気の特徴を英語で記載し、その頭文字を取ってNINJAと命名しました(Takewakiら2018)。忍者は警護の侍に見つからないように隠密に行動しますが、NINJAも病院で行う一般的な検査の網の目をかいくぐる病気です。

研究の意義とこれからの展開

図3NINJAにおける血液プラズマブラストの増加
図3NINJAにおける血液プラズマブラストの増加

NINJAの発見は、米国の専門雑誌に掲載され(Takewakiら2018)、編集長の解説記事でも好意的に論評されました。「MRIが正常でも病気を否定してはいけない」という重要なメッセージが正しく伝わったのだと思います。NCNPの免疫研究部では、患者さんの血液リンパ球の異常を明らかにして、それを元に新たな治療法を開発しようという研究を続けています。その取り組みは、MSの関連疾患である視神経脊髄炎(NMO)に対する新たな免疫治療の開発につながっています(Arakiら2014;Yamamuraら2019)。
NINJAが疑われる患者さんは全国に1000人以上おられると推定されますが、これらの患者さんを正確に診断して新しい治療を届けられるようにすることが次の目標です。


リファレンス

Araki Met al. Efficacy ofthe anti-lL-6 receptor antibody tocilizumab in neuromyelitis optica: a pilot study. Neurology 2014;82:1302-6.
Takewaki D et al. Normal brain imaging accompanies neuroimmunologically justified, autoimmune encephalomyelitis. Neurology Neuroimmunology & Neurointlammation 5, e456. 2018
Yamamura T et al. Trial of Satralizumab in Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder N Engl J Med (in press)

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