薬物依存症に対する治療と地域支援システムの構築

薬物依存症に対する治療と地域支援システムの構築

精神保健研究所薬物依存研究部の研究者と病院の多職種が協働し、
薬物問題で悩むご本人に対して個人療法、集団療法、
薬物療法を組み合わせたテーラーメイドの治療を提供しながら、
新しい治療法の開発を行っています。

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精神保健研究所/薬物依存研究部 病院/薬物依存症センター 松本 俊彦部長

治療の概要

薬物依存症センターにおける他部門協同による専門治療

薬物依存症センターでは、覚せい剤、大麻、危険ドラッグ、睡眠薬・抗不安薬、市販薬の問題でお困りの人に対して、薬物依存症外来を開設し、相談や治療に対応しています。
その際、大切にしていることが3つあります。第一に、治療の場を安心・安全な場所とすることです。そのために、私たちは守秘義務を優先し、患者さんが安心して正直になれる治療環境を心がけています。
第二に、個々の患者さんの病状や特徴に応じた、テーラーメイドの治療を提供することです。私たちは、医師による個別診察の他には、「SMARPP*」や「リアル生活プログラム」など、主に通院による集団療法で治療していますが、これらがすべての患者さんに効果があるわけではありません。そのため適宜、個人心理療法や入院治療も提供しています。
そして最後に、多機関連携による支援です。
私たちは、精神保健福祉センターや、ダルク(薬物依存症の当事者が運営するリハビリ施設)などの民間回復施設と協働し、患者さんが地域で孤立しないよう、たくさんの支え手による支援ネットワーク作りを心がけています。

*SMARPP:薬物依存症センターのスタッフが中心になって開発した薬物依存症治療プログラムであり、認知行動療法の手法を活用した集団療法の形で実施される。平成28年度の診療報酬改定より医療保険の適応となった。

新しい治療法の開発

私たちは、患者さんの治療の経過や結果、治療状況をモニタリングし、自分たちの治療をふりかえることで、たえず「もっと効果的な治療法はないのか」という自問自答を続け、新しい治療法の開発を行っています。
現在、行っている治療法開発のための研究は2つあります。1つは、女性の薬物依存症患者さんに特化した治療法の開発です。女性の薬物依存症患者さんは、虐待やドメスティックバイオレンスなどによるトラウマ体験を抱えている方が多く、自分を大事にすることができない心理状態にある方が目立ちます。こうした患者さんのための治療プログラムの開発は、現在、喫緊の課題となっています。
もう1つは、薬物依存症の治療薬の開発です。アルコール依存症には治療補助薬が存在しますが、わが国最大の乱用薬物である覚せい剤にはそのような治療薬が存在しません。  
そこで私たちは、NCNP内のIBICおよびTMCと協働し、現在、覚せい剤依存症に対する治療薬の医師主導治験を実施しています。

地域支援体制の普及と実態把握

NCNPで開発された依存症集団療法SMARPP

わが国は薬物依存症の治療や回復のための社会資源が非常に乏しい現状にあります。
そこで私たちは、当センターでの治療の提供だけでなく、国内各地に薬物依存症の地域支援のシステムを普及させ、治療の質を維持するためのスーパーバイズ活動も行っています。私たちが開発した依存症集団療法「SMARPP」は、現在、国内42か所の精神科医療機関と、国内40か所の精神保健福祉センターに広がっています。また、法務省保護観察所や厚労省麻薬取締部の薬物再乱用防止プログラムの開発や実施にも協力しています。
国内の薬物乱用状況もモニタリングしています。具体的には、全国の一般住民、中学生、精神科患者さんを対象とした薬物問題の実態調査、あるいは、ダルク利用者や保護観察となった方の追跡調査などです。
また、新たな「脱法的」薬物が流通した場合には、その成分分析や毒性評価も実施しています。


リファレンス

松本俊彦: 薬物依存症(ちくま新書), 筑摩書房, 2018 松本俊彦・今村扶美: SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム, 金剛出版, 2015 松本俊彦: よくわかるSMARPP―あなたにもできる薬物依存者支援, 金剛出版, 2016

研究部紹介