気分障害に併存する睡眠障害
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はじめに
2021/10/29
文責:松井 健太郎
本コラムでは、気分障害(うつ病、双極性障害)に併存する睡眠障害のうち、①うつ病と不眠症の併存、②双極性障害と概日リズム睡眠・覚醒障害の併存、の2つについて解説いたします。
このコラムの内容
1.うつ病への不眠症の併存
2.双極性障害への概日リズム睡眠・覚醒障害の併存
3.おわりに
1.うつ病への不眠症の併存
うつ病には不眠症が高率に併存することが知られています。なかなか寝付けない(入眠困難)、夜間に目覚めてしまう(中途覚醒)、予定よりも早く目覚めてしまってその後寝付けない(早朝覚醒)といった症状を不眠症状と呼びますが、うつ病患者の77~90%にこれらの不眠症状のいずれかが出現すると報告されています1)。早朝覚醒がうつ病に特異的な不眠症状であると古くから言われていますが、うつ状態のときに最も出現しやすい症状は入眠困難です2)。不眠症状はうつ病に先行して出現することが多いと言われており、うつ病患者の約41%で、不眠症状が他の抑うつ症状に先行すると報告されています3)(図1)。
図1 不眠症状の出現のタイミング
うつ病の治療が奏功し、寛解状態に至った際、何らかの症状が残遺することがありますが、不眠症状は残遺症状の中で最も高率に生じます4)。高齢者のうつ病患者を対象に2年間の再発についての調査では、寛解状態における不眠症状の併存がその後の再発率を高めることが示されており5)、残遺症状としての不眠症状への適切な対処は重要でしょう。かつてはうつ病が改善すればそれに伴う不眠も軽減、消失するだろう、と言われていましたが、ここ最近はうつ病に併存する不眠症状にフォーカスし積極的に介入していくことが重要であると考えられています。
2.双極性障害への概日リズム睡眠・覚醒障害の併存
睡眠・覚醒リズムは、体温などの自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫・代謝系などと同様に、体内時計によって約1日のリズムに調節されています。このような約1日の周期をもつリズムのことを概日リズムと呼びます。概日リズム睡眠・覚醒障害は、本人の体内時計がもたらす睡眠・覚醒リズムが、社会生活を送る上で望ましい時間帯からずれてしまう、という睡眠障害です。
近年、双極性障害への概日リズム睡眠・覚醒障害の併存が注目されています。寛解期の双極性障害とうつ病患者を対象に、概日リズム睡眠・覚醒障害の併存率を調べた研究では、双極性障害の概日リズム睡眠・覚醒障害の併存率が、うつ病における併存率よりも有意に高かった(33.7% vs 9.6%, p<0.001)と報告されました6)。概日リズムの同調に関わるホルモンであるメラトニンの夜間の分泌を調べると、双極性障害患者ではうつ病患者と比較し、メラトニンの分泌位相の後退および振幅の低下が見られると報告されています7)。さらに興味深いことに、双極性障害患者を対象にした1年間の追跡調査では、概日リズム睡眠・覚醒障害の併存が、気分エピソードの再発のリスク因子となることが示唆されました8)。以上から、双極性障害における概日リズム睡眠・覚醒障害への適切な治療介入は、気分症状の安定化に役立つ可能性があると考えられます。実際、双極性障害の治療において、暗闇療法(18時から8時まで暗室環境で過ごすものです)が急性期の躁症状の治療に、高照度光療法(午前中に30分~2時間程度、5000-10000Lux前後の高照度光に曝露するものです)が急性期の抑うつ症状の治療に、それぞれ推奨されています9)。
3.おわりに
上記に示した睡眠障害以外にも、うつ病や双極性障害に併存しうる睡眠障害がいくつかあります。例えばうつ病に閉塞性睡眠時無呼吸症候群が併存した場合、抗うつ薬が十分な効果を示さない可能性が指摘されています10)。また多くの抗うつ薬や、双極性障害において使用されるリチウム、第二世代抗精神病薬などは、レストレスレッグス症候群の発現リスクを上げる可能性が示唆されています11)。
これら不眠症との鑑別を要する疾患についてはコラム「私って不眠症?~不眠症と間違えられやすい睡眠障害」をご参照ください。当センターでは気分障害に併存する睡眠障害の診断、治療も行っておりますので、お気軽にご相談いただけたらと思います。
参考文献
1) Stewart R, Besset A, Bebbington P, Brugha T, Lindesay J, Jenkins R, et al. Insomnia comorbidity and impact and hypnotic use by age group in a national survey population aged 16 to 74 years. Sleep. 2006;29:1391-7.
2) Kaneita Y, Ohida T, Uchiyama M, Takemura S, Kawahara K, Yokoyama E, et al. The relationship between depression and sleep disturbances: a Japanese nationwide general population survey. The Journal of clinical psychiatry. 2006;67:196-203.
3) Ohayon MM, Roth T. Place of chronic insomnia in the course of depressive and anxiety disorders. Journal of psychiatric research. 2003;37:9-15.
4) Nierenberg AA, Keefe BR, Leslie VC, Alpert JE, Pava JA, Worthington JJ, 3rd, et al. Residual symptoms in depressed patients who respond acutely to fluoxetine. The Journal of clinical psychiatry. 1999;60:221-5.
5) Cho HJ, Lavretsky H, Olmstead R, Levin MJ, Oxman MN, Irwin MR. Sleep disturbance and depression recurrence in community-dwelling older adults: a prospective study. The American journal of psychiatry. 2008;165:1543-50.
6) Takaesu Y, Inoue Y, Ono K, Murakoshi A, Futenma K, Komada Y, et al. Circadian rhythm sleep-wake disorders as predictors for bipolar disorder in patients with remitted mood disorders. Journal of affective disorders. 2017;220:57-61.
7) Nurnberger JI, Jr., Adkins S, Lahiri DK, Mayeda A, Hu K, Lewy A, et al. Melatonin suppression by light in euthymic bipolar and unipolar patients. Archives of general psychiatry. 2000;57:572-9.
8) Takaesu Y, Inoue Y, Ono K, Murakoshi A, Futenma K, Komada Y, et al. Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders Predict Shorter Time to Relapse of Mood Episodes in Euthymic Patients With Bipolar Disorder: A Prospective 48-Week Study. The Journal of clinical psychiatry. 2018;79.
9) Gottlieb JF, Benedetti F, Geoffroy PA, Henriksen TEG, Lam RW, Murray G, et al. The chronotherapeutic treatment of bipolar disorders: A systematic review and practice recommendations from the ISBD task force on chronotherapy and chronobiology. Bipolar disorders. 2019;21:741-73.
10) Habukawa M, Uchimura N, Kakuma T, Yamamoto K, Ogi K, Hiejima H, et al. Effect of CPAP treatment on residual depressive symptoms in patients with major depression and coexisting sleep apnea: Contribution of daytime sleepiness to residual depressive symptoms. Sleep medicine. 2010;11:552-7.
11) Patatanian E, Claborn MK. Drug-Induced Restless Legs Syndrome. The Annals of pharmacotherapy. 2018;52:662-72.