アルツハイマー病と睡眠障害

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はじめに

2022/3/31

文責:内海 智博

 近年、認知症と睡眠障害との間に関連があることがわかってきました。本コラムでは、アルツハイマー病による認知症と睡眠障害との関連について、お話しいたします。

このコラムの内容

このコラムの内容

1.アルツハイマー病の準備因子としての睡眠障害

2.アルツハイマー病に合併する睡眠障害

3.アルツハイマー病に合併する睡眠障害への対応

4.おわりに

1.アルツハイマー病の準備因子としての睡眠障害

 アルツハイマー病は認知症の中で最も多く、物忘れ(記憶障害)を中核の症状とする緩徐に進行する疾患です。アルツハイマー病にはアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の脳内での蓄積が関連すると考えられています。記憶障害が現れる数十年前からアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の蓄積が始まり、約10年遅れて脳萎縮が生じるといわれています(1)。

 これらのタンパク質の蓄積に睡眠が関連する可能性に注目が集まっています(2, 3)。アルツハイマー病の準備因子として、睡眠時間の不足・過多や概日リズム睡眠・覚醒障害、閉塞性睡眠時無呼吸が示唆されています(4)が、睡眠が脳内におけるアミロイドβタンパク質の産生・排出と関わることが機序の1つと考えられています(5-7)。


2.アルツハイマー病に合併する睡眠障害

 イタリアの研究では、軽症のアルツハイマー病の方の約6割が何らかの睡眠障害を有していると報告しています(図1)。その背景に、閉塞性睡眠時無呼吸やレストレスレッグス症候群、周期性四肢運動障害など様々な睡眠障害が存在することが示されています(The Mayo Sleep Questionnaireを用いて調査)。

上記研究参加者の約2割の方が、夜に上手く眠付けない・朝早く目覚める・昼寝時間が長い(Neuropsychiatric Inventoryを用いて調査)と報告しています(8)。我が国の研究でも類似の結果が報告されており、上記訴えを示す割合は認知症重症度が上がるにつれて増加します(9)。これは、睡眠-覚醒リズムが不規則となり、夜間にまとまった睡眠がとれない概日リズム睡眠・覚醒障害(不規則睡眠・覚醒リズム障害)を併発した結果と考えられます。

これらの睡眠障害は認知症において、その他の周辺症状(興奮、徘徊など)の出現リスクを高めるため(10)、適切に対応する必要があります。

図1 軽度アルツハイマー病における睡眠障害の合併率(Rongve Aら(2010)のデータを用いて作図(8))

約6割の方が何らかの睡眠障害を有していると言われています


3.アルツハイマー病に合併する睡眠障害への対応

 アルツハイマー病に合併する睡眠障害は、それぞれの睡眠障害に適した治療が必要です。このため、「夜に上手く眠付けない・朝早く目覚める・昼寝時間が長い」という訴えに対し、安易に睡眠薬やその他の鎮静作用を有する薬を使用すると、期待するような効果が得られないばかりか、副作用(認知機能低下、転倒・骨折、日中への鎮静作用の持ち越し等)が生じる危険性があるため、慎重に検討する必要があります。

 上記のような睡眠の訴えが生じた際には、まず初めに適切な睡眠衛生を整えることが重要となります。睡眠12箇条は高齢者においても重要な目標です。中でも、実際に眠れる時間は加齢とともに減少しますが、実際に布団の上で過ごす時間は年をとっても変わらないか、もしくは少し長くなる傾向にあることが疫学調査でわかっています(詳しくは「眠り、リズムと健康③」)。布団の上で長く過ごすと、睡眠の効率が低下し熟眠感が減ってしまうため、布団の上で過ごす時間を調整し、睡眠の効率を上げることは重要です。

 また、睡眠-覚醒リズムの適正化のためには、高照度光刺激が重要となります(11)。日中に日光を浴びる時間を増やす工夫を取り入れることにより、睡眠と覚醒のメリハリがつきやすくなります。ただし、認知症でない場合でも年齢を重ねるごとに早寝早起きになりやすいため、あまり早い時間帯に日光浴をすると、早寝早起きが更に増悪する可能性があり注意が必要です。そして、日中の時間帯に適度に運動を行うことも、睡眠と覚醒のメリハリを保つ上で重要となります。運動が難しい方でも、できるだけ日中は臥床せず、ご家族や友人とおしゃべりをする時間を持つことも、睡眠と覚醒のメリハリを保つのに役立ちます。そのほか、日中の眠気を増強しうる内服薬の整理・調整も重要です。


4.おわりに

 アルツハイマー病と睡眠障害は、上記の通り双方向性に影響し合います。そして、アルツハイマー病に合併する睡眠障害は様々な種類があります。睡眠衛生を整えてもなお睡眠に関する悩みが残る場合には、専門医を受診し、適切な診断に基づくアドバイス・治療を求めましょう。

参考文献
1. Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TL, Fagan AM, Goate A, Fox NC, et al. Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. N Engl J Med. 2012;367(9):795-804.
2. Ju YE, McLeland JS, Toedebusch CD, Xiong C, Fagan AM, Duntley SP, et al. Sleep quality and preclinical Alzheimer disease. JAMA Neurol. 2013;70(5):587-93.
3. Kam K, Parekh A, Sharma RA, Andrade A, Lewin M, Castillo B, et al. Sleep oscillation-specific associations with Alzheimer's disease CSF biomarkers: novel roles for sleep spindles and tau. Mol Neurodegener. 2019;14(1):10.
4. Bubu OM, Brannick M, Mortimer J, Umasabor-Bubu O, Sebastião YV, Wen Y, et al. Sleep, Cognitive impairment, and Alzheimer's disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sleep. 2017;40(1).
5. Xie L, Kang H, Xu Q, Chen MJ, Liao Y, Thiyagarajan M, et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science (New York, NY). 2013;342(6156):373-7.
6. Rasmussen MK, Mestre H, Nedergaard M. The glymphatic pathway in neurological disorders. The Lancet Neurology. 2018;17(11):1016-24.
7. Lucey BP. It's complicated: The relationship between sleep and Alzheimer's disease in humans. Neurobiol Dis. 2020;144:105031.
8. Rongve A, Boeve BF, Aarsland D. Frequency and correlates of caregiver-reported sleep disturbances in a sample of persons with early dementia. J Am Geriatr Soc. 2010;58(3):480-6.
9. Kabeshita Y, Adachi H, Matsushita M, Kanemoto H, Sato S, Suzuki Y, et al. Sleep disturbances are key symptoms of very early stage Alzheimer disease with behavioral and psychological symptoms: a Japan multi-center cross-sectional study (J-BIRD). International journal of geriatric psychiatry. 2017;32(2):222-30.
10. Zhou QP, Jung L, Richards KC. The management of sleep and circadian disturbance in patients with dementia. Curr Neurol Neurosci Rep. 2012;12(2):193-204.
11. Tan JSI, Cheng LJ, Chan EY, Lau Y, Lau ST. Light therapy for sleep disturbances in older adults with dementia: a systematic review, meta-analysis and meta-regression. Sleep medicine. 2022;90:153-66.