
第32回
アニメが引き起こした"光の発作"から学ぶこと
― 1990年代のテレビ放送事故と光感受性発作 ―
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2025.06.26
アニメが引き起こした“光の発作”から学ぶこと
― 1990年代のテレビ放送事故と光感受性発作 ―
1997年、人気アニメ番組の放送中に、全国の子どもたちが突然体調を崩し、600人以上が病院に搬送されるという前例のない事態が発生しました。
「ポケモンショック(Pokémon Shock)」と呼ばれるこの出来事は、視覚的な演出(激しい点滅光)によって引き起こされた発作が原因とされ、「光感受性発作」という特殊な神経反応に社会的関心が集まるきっかけとなりました。
光によって引き起こされる発作とは
この時起きたのは、一般的な「てんかん発作」とは異なる、「光感受性発作(photosensitive seizure)」という現象です。これは、強い点滅や縞模様、特定の色の組み合わせ(特に赤い光)などの視覚刺激によって引き起こされる発作で、特に子どもに多くみられます。典型的には、全身けいれんや意識が一時的に飛ぶような症状として現れます。とりわけ危険とされているのは、赤を含む3〜30Hzの点滅(1秒間に3〜30回)で、特に15〜20Hz付近が発作を誘発しやすいとされています。1997年当時の番組内では赤と青の強い点滅(約12Hz)が使用されていたと報告されています。
誤解されがちな名称とその実態
当時は、「ピカチュウてんかん」「ポリゴンショック」など、実際には関与していないキャラクター名を冠した呼び名で、誤った認識が広がりました。実際に問題となった点滅演出はポリゴンが発した光ではありませんし、ピカチュウは問題のシーンでまぶしそうに手で顔を覆っている側のキャラでした。また、この発作は「てんかん」ではなく「光感受性発作」であり、一概に「てんかん」と呼ぶのは不適当です。興味深いことに、普段アニメでよく使われているピカチュウの「10まんボルト」などの黄色や白い光の演出では同様の事故は報告されていないことから、赤と青の強い明暗変化が特に危険なのだと考えられています。
社会への影響とその後の対策
この事件をきっかけに、光感受性発作に対する認識が一気に高まりました。
日本小児神経学会をはじめとする医学団体は調査と啓発に取り組み、テレビ業界では「1秒間に3回以下の点滅」などのガイドラインが設けられました。感受性の高い人たちへの対策として、赤い光を抑えるために青いサングラスなどを使って視覚刺激を緩和する工夫も知られるようになりました。番組は約4ヶ月間の放送休止を経て、演出内容を安全なものに見直し、再開されました。
私たちが今、考えるべきこと
アニメやゲームなどの映像コンテンツは、子どもから大人まで楽しめる日本の誇らしい文化の一部ですが、医学的なリスクにも目を向ける必要があります。
この出来事から私たちが学べるのは、「安全な楽しみ方を支える科学と倫理の視点」の大切さです。過去の教訓を活かし、子どもたちが安心して視覚メディアを楽しめる環境づくりを、私たち医療者も支えていきたいと考えています。
もし、お子さまに発作や異変が見られる場合には、どうぞお早めにご相談ください。
*光感受性発作については、『患者のギモンに答える! てんかん診療のための相談サポートQ&A 』(編:NCNP病院てんかんセンター/発行:診断と治療社)に、当院の住友典子医師の解説が掲載されています。興味のある方はご一読ください。
https://www.ncnp.go.jp/about/books/index.html#1
脳神経外科 飯島圭哉