"ADHDタイプ"の方の対処策①

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「気を付けているつもりなのに、つい忘れ物をしてしまう」「ケアレスミスが多い」「気が散りやすくて集中できない」「やろうと思っていた家事や作業を先延ばしにしていたら、どんどん溜まって大変なことに…」
こんな困りごとに心当たりはありますか? 今回は、こうした注意力や計画力の問題でお悩みの方に向けた記事です。

ADHD(注意欠如・多動症)とは

上記のような困りごとと関連が深いものとして、ADHD(注意欠如・多動症)の名を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
ADHDとは、 “不注意”と“多動性・衝動性”を主な特徴とする発達障害のひとつです。不注意なミスが多かったり、落ち着きがなく衝動的であったり、やるべきことをうまく遂行できなかったりして仕事や日常生活に顕著な支障が生じている、そしてこうした特徴が子どもの頃からみられている場合、該当する可能性があります。分類としては、不注意や集中力のなさが目立つ「不注意優勢型」、落ち着きのなさや衝動的な言動が目立つ「多動性・衝動性優勢型」、そのどちらも存在する「混合型」があります。
また、こうした特徴(特性)は、養育者の育て方やその方のこころの問題で生じるのではなく、脳機能の発達や成熟に偏りが生じた結果と考えられています。ただし、その原因はまだよくわかっていません。

*『精神障害の診断・統計マニュアル第5版』(アメリカ精神医学会)を基に作成。詳細は割愛しています。 詳しく知りたい方は、厚生労働省のHPなどをご参照ください。

【参考URL】厚生労働省 e-ヘルスネット ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html

“スペクトラム”の考え方

また、発達特性の程度に関して、近年は“スペクトラム(連続体)”という概念が用いられるようになりました。これは、『発達特性は、“ある”・“なし”ときっぱり白黒に分けられるものではなく、スペクトラム(連続体)として存在している』とする捉え方です。

ADHD特性をひとつのスペクトラムとして考えてみると、冒頭に示したようなケアレスミスや集中のしにくさ、計画立てた課題遂行の難しさなどは、意外と多くの方が共感するところかもしれません。このため、診断の有無は別として、こうした困りごとが多い方はADHDに関する知見や対処策を参考にしてみるとよいでしょう。
また、この記事の中では、ADHDの診断を受けている方や、診断は受けていないけども注意力や計画力の問題にお困りの方を便宜的に“ADHDタイプ”と呼ぶこととします。

ADHDとワーキングメモリーの関連

前述したように、ADHD特性は脳機能と関係があることが様々な研究により分かってきています。そして、“ワーキングメモリー”と呼ばれる脳の働きがうまく機能していない場合が多いことも指摘されています。

ワーキングメモリーとは、“情報を一時的に頭の中に保持しながら、整理したり処理したりする能力(メカニズム)”のことを言います。
レストランで働く店員さんの動きを例にとると、イメージしやすいかもしれません。例えば、お客さんから注文を受け、それを覚えて厨房に戻る途中で、『あの卓が空いたから食器を片付けて、並んでいるお客さんを入れよう…』と考え、布巾を取りに行き、食器を片付ける準備も始める…こんなマルチタスクを行う時にワーキングメモリーが使われています。

また、ワーキングメモリーはよく“作業机”に例えられます。作業机が大きければ多くのモノを載せられますし、同時に色々な作業が行えます。逆に作業机が小さいと、一度に載せられるモノは限られますし、載せたものが机からこぼれ落ちるなどして作業に支障が生じてしまいます。ワーキングメモリーもこのようなイメージで捉えることができます。

このため、ワーキングメモリーの働きが弱いと、具体的には…

・忘れ物やケアレスミスなどが多くなる
・一度にたくさん話されるとスピードについていけない、記憶に抜けが生じる
・ひとつのことを行っていると、他のやるべきことを忘れてしまう
・頭の中で情報を整理することが苦手で、計画立てて物事を行うことが難しい
 
 …などの問題に繋がりやすいと考えられています。

では、こうした困りごとに対してどのような対処策があるのでしょうか。

次回「”ADHDタイプ”の方の対処策②」では具体的なポイントや対処策についてご紹介します。

おわりに

臨床心理部では、注意力や計画力の問題でお困りの方を対象としたグループ療法「成人ADHDのCBT(P-SKIP)」を実施しております。ご興味・ご関心がある方は、以下のリンクよりご参照ください。

ご参加の申し込みには主治医の許可が必要です。