"ADHDタイプ"の方の対処策②

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注意力や計画力に関する困りごとへの対処策

前回「“ADHDタイプ”の方の対処策①」では、ADHD特性とワーキングメモリーの関係についてお話しました。
今回は、“ADHDタイプ”の方が抱えがちな、注意力や計画力の問題に対する対処策をいくつかご紹介します。この対処策は“ADHDタイプ”の方に限らず、多くの方々にとってもより良い日常を送るためのヒントとなるかもしれません。
※この記事の中では、ADHDの診断を受けている方や、診断は受けていないけども注意力や計画力の問題にお困りの方を便宜的に“ADHDタイプ”と呼ぶこととします。

<“ADHDタイプ”の方の対処策>
① 脳内メモは信用しない
② チェックリスト・リマインダーの活用
③ 小分け作戦
④ 集中できる環境を整える

①脳内メモは信用しない

まず、大きな方向性として“少ないワーキングメモリーは他で補う”ことがポイントとなります。その上で、「脳内メモは信用しない」ことが重要です。例えば、上司から受けた口頭の指示、ふと思い出した用事、さっき決まった友達との予定、週末にやろうと思いついたこと…自分の頭の中にあるだけではすぐに忘れてしまいます。こんなとき、自分の記憶力を過信せずに、いや、もはや信用しないと決めて、すぐにメモを取る、予定帳に書き込む、あるいはスマホに打ち込む等の習慣をつけましょう。そうすることで、脳内に留めておかなくてはならない負担を軽減できます。

②チェックリスト・リマインダーの活用

チェックリストの作成やリマインダーの活用も、みなさんによくご紹介する方法のひとつです。
忘れ物が多い場合には持ち物チェックリスト、仕事を仕上げる際にいつも同じ箇所を見直すのであれば見直しチェックリストを作成しておき、いつも目に入る場所に貼っておくとよいでしょう。一度作っておけば、“何をチェックするか”を毎回思い出さなくて良いですし、頭の中だけで確認するよりも漏れが少なくなります。
また、スマホやPCのリマインダーアプリ、アラーム機能などを活用できるとよいでしょう。例えば、忘れたくない用事や締め切りの数日前などに、それを知らせてくれるように設定します。“リマインド”とは “思い出させる”という意味ですが、大事なことを思い出すという役割を自分の記憶力だけに頼らないようにします。
ほかにも、身に着けたい生活習慣についてリマインダーを設定するのも一つの手です。例えば、「いつも夜はダラダラとスマホを見てしまうけど、22時になったら寝る準備をしたい」ならば、22時に『歯磨きをする!』という文字が表示されるように設定します。
また、電子機器が苦手な方は、いつも目につくところに付箋や張り紙を貼っておくという手もあります。ただし、いつのまにかそれらが背景と化すこともあるので注意が必要です。

③小分け作戦

溜まり続ける家事、終わらない断捨離、いつかやるはずの書類整理…「やるぞ!」と一念発起しては途中で挫折するという経験をお持ちの方は、“ADHDタイプ”の方に限らず結構多いのではないでしょうか。
作業の量が多い(≒扱う情報量が多い)と…→順序立てられない、どこから手を付けていいか分からない→やる気を失い、諦める→ますます溜まっていく…という負のループになりがちです。
こんな時には、「小分け作戦」を実行しましょう。例えば、「部屋の中からゴミを集めてゴミ袋に入れる」「今日は食器洗いだけやる」「お昼前の30分だけ嫌な仕事に手を付ける」「レポートの課題図書を5ページだけ読む」などと決め、その小さな目標だけを実行します。小分けにすることで取り組みやすくなりますし、ほんの少しでも状況が前に進むと嬉しい気持ちになります。
最初の一歩目を終えたら、まずは自分を褒めてあげましょう。一歩目が最も大変だからです。そして、何か少しでも実行できたら小さなご褒美を自分にあげる(例:プリンを食べる)といった行動も、モチベーションを保つ工夫のひとつとして取り入れていけるとよいでしょう。

④環境を整える

“ADHDタイプ”の方は、耳に入る雑音や、目に飛び込んでくる情報(刺激)に注意を奪われやすい傾向があります。そうした刺激が多い環境の中で、なんとか目の前のものに集中しよう…と努力すると、ワーキングメモリーを無駄に消費することになります。このため、こうした刺激をなるべく排除した環境を整えることは非常に重要です。環境が整えば、作業中にも気が逸れずに集中しやすくなります。結果としてケアレスミスが減り、効率よく作業を進めることができます。
具体的には、気が散るものをデスクに置かない、必要な書類や課題だけ出す、スマホは機内モードでカバンにIN、静穏な場所を確保する、人の話し声など騒音が気になる場合は耳栓を使用する…などの方法が考えられます。
ただし、カフェなどの多少雑音があるような場所の方が取り組みやすいと感じる方もいらっしゃいます。このため、自分が過去に集中できた環境を思い出してみることも重要です。また、デスク周りに限らず、生活しているお部屋全体も(小分け作戦などを使いながら)少しずつ整えていけるとよいでしょう。

おわりに

今回の記事では、ADHDタイプとワーキングメモリーとの関連や、具体的な対処策についてご紹介しました。ただし、ここで取り上げた知見や対処策はほんの一部です。ご興味がある方はADHDに関する書籍、HPなどを調べてみるとよいでしょう。そして、こうした問題が深刻な場合には、専門機関への相談・受診を検討することをおすすめします。

また、臨床心理部では、注意力や計画力の問題でお困りの方を対象としたグループ療法「成人ADHDのCBT(P-SKIP)」を実施しております。今回ご紹介した対処策の他にも色々なスキルをご紹介しています。また、学習したスキルを持続させていくためのポイントも併せて学び、仲間とともに試行錯誤しながら実践的に取り組むプログラムとなっております。
ご興味・ご関心がある方は、以下のリンクよりご参照ください。

申し込みには主治医の許可が必要です。