眠り、リズムと健康①

眠り、リズムと健康①

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はじめに

2021/4/1
文責:吉池 卓也

 睡眠障害センターでは、去る2021年2月20日に令和2年度の市民公開講座を「新しい生活様式と睡眠・リズム」と題して開催いたしました。コロナ禍であることからウェブ開催となりましたが、大勢の方々にご視聴いただき、遠方の方々にも多くご参加いただくことができました。感謝申し上げます。
 市民公開講座の第一部「眠り、リズムと健康」では、睡眠と健康の関係を主に三つの観点から整理しました(1.心理的ストレスと不眠、2.体のリズムと社会のリズム、3.休養と健康)。本コラムでは、これらのテーマで改めて睡眠と健康の関わりについて考えてみたいと思います。ご視聴いただいた方々にとっては知識の定着のために、また、ご参加いただけなかった方々にとっても健康増進に役立つ情報となれば幸いです。
 市民公開講座シリーズ(第一部)第1回の今回は、心理的ストレスと不眠をテーマにお話しします。

 世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は、私たちの日々の睡眠にも影響を及ぼします。身体的・経済的な打撃、行動範囲や対人交流の制限といった著しい環境変化に伴う心理的ストレスが、睡眠の変化の中でもとりわけ不眠と深く関わることが、複数の研究結果から示唆されます。

このコラムの内容

心理的ストレスと不眠

1.不眠のはじまり

2.不眠と感情のつながり

3.不眠と不安の共通点

4.不眠症とは?

5.不眠への対処


1.不眠のはじまり

 感情が高ぶると寝つきが悪くなることは、だれしも経験があろうかと思います。この場合の感情とは、通常ネガティブな感情であり、いざ眠ろうとすると、心配事や不快な感情が意図せず湧いてきて、頭が冴えてしまうといった具合です。電灯を消した暗闇の中で眠れずにいると、例えば、「明日の大事な予定をこなすには7時間は眠らなければ」と焦りを覚え、なんとか眠りにつこうと躍起になるけれど、かえって頭が冴えて眠りがやってこない。このような悪循環を経験された方もおられることでしょう。なぜこのような現象が起こるのでしょうか?


2.不眠と感情のつながり

 不眠は多くの場合、感情が高ぶる出来事をきっかけに生じます。同じ出来事を経験しても不眠になる人とならない人がいる理由の一つとして、性格傾向の違いが知られており、ネガティブな刺激に敏感な性格は不眠の起こりやすさに関係します。私たちは恐れおののくような経験をすると、眠気が飛んで頭が冴えたと感じることでしょう。これは感情を司る神経系が覚醒(目が覚めた状態を保つ)を司る神経系と連動して働くという性質の表れです。


3.不眠と不安の共通点

 現代社会に暮らす私たちの多くは、一晩を越すことに特別な危機感を抱かなくなりました。これは、夜間も治安が守られ、必要があれば人工照明を使って視野を確保することができるようになったからでしょう。しかし、人工照明が普及する以前の社会では暗闇は恐怖の対象であり、眠っている間に襲撃を受けて命を落とすかもしれないという危機感を抱くのは自然なことでした。私たちの神経系には先祖が環境によりよく適応するために獲得した仕組みが脈々と受け継がれています。したがって、感情の高ぶりが覚醒を促すという、命を守るために不可欠な経路が働き過ぎてしまうと、不眠という症状が生じる場合があると考えることができます。このことは、不安や恐怖が本来は私たちの適応を促す機能であるにもかかわらず、過剰に働くと不安症と呼ばれる病気をもたらすことによく似ています。


4.不眠症とは?

 眠るための機会は十分あるのに、寝つきが悪い。もしくは途中で目が覚めたり、予定より朝早く目が覚めたりして再び眠りに戻れない、といった不眠の症状が持続的にみられ、このために日中の活動意欲がそがれ、疲れが抜けず、集中力が低下するといった症状が日常生活に支障をきたす状態になると、不眠症と呼ばれる睡眠障害の可能性を考える必要が出てきます。不眠の症状は自然に自然に治まることが多いと考えられています。しかし、不眠の悪影響を恐れるあまり、睡眠に固執しすぎたり、無理に眠ろうとしすぎたりすると、不眠が慢性化する場合があります。早くから寝床に入ったり、眠りを助けるためにアルコールを常用したりすることは、誤った対処法の典型例です。


5.不眠への対処

 不眠の兆候が現れたら、眠りの習慣を見直す好機ととらえ、次のような心掛けが不眠の慢性化の歯止めに役立つと考えられます。

  • うまく眠れなくても朝は決まった時刻に起床する
  • 眠れないからといって就床時刻を早めない
  • 日中の活動を減らさない(むしろ増やす)
  • 昼寝をできるだけ控える(必要な場合は15時以前に15分が目安)

 前述のように、不眠にはそれが直ちに病気を意味するというよりも、まず自身の体や脳を守るための反応(アラーム)としての意味があるとも考えられます。眠りが悪化しても心配しすぎず、覚醒作用を持つコーヒー、たばこ、お酒との付き合い方を見直すことも重要な対処法となり得ます。不眠の悩みが続く場合には、当院の睡眠障害外来へご相談ください。

 次回は、体のリズムと社会のリズムについてお話しします。