所長からのご挨拶

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現代社会において、ストレスに関係の深いうつ病や適応障害、依存症、睡眠障害などの精神疾患患者数が増えています。精神疾患の成り立ちや治療、そして予防を考える上で、社会との関りを抜きには語れません。
一方、どうして精神疾患になるのかを理解する際にstress diathesis modelという考え方があります。Stressは心身に対するストレス。Diathesisは素因や体質のことです。ストレスと体質が相まって精神疾患が発症するというのが今の医学の基本的な考え方です。ストレスだけで精神疾患になるとは考えにくく、ストレスによる影響を受けやすいか受けにくいかという体質も病気の発症に関係します。精神疾患では身体疾患よりもストレスの影響が大きいとは思いますが、脳の器質的な問題(=体質)にも目を向ける必要があります。Bio-psycho-social(生物学的・心理学的・社会的)な視点で考えることが大切です。

ここ国立精神・神経医療研究センター(NCNP)には、神経研究所と精神保健研究所の2つの研究所があり、精神疾患、神経疾患、筋疾患、および発達障害の克服を目指した研究を行っています。神経研究所は病気の器質的な解明に取り組むことが使命であり、精神保健研究所は精神疾患や精神保健(メンタルヘルス)に関する研究を行い、その成果を社会に還元し、病気の予防や治療のあり方をより良くしていくことを使命とします。
精神保健研究所の歴史は昭和27年に遡りますが、当時から社会(コミュニティ)の中での治療と予防が意識されていました。そして、今では多くの医療機関で行われている精神科デイケアという治療法がここで開発されたのです。その時からあった当研究所のミッション「生活に即した治療と支援」と「精神保健の向上を図る」は今も私たち所員に受け継がれ、成果が社会に還元されるような調査や研究を続けています。新しい治療法の開発と、それに関連する知識や技術の普及啓発にも努めています。同時に、それらの基盤になるような生物学的な研究も行っています。

NCNPの基本理念は、病院と2つの研究所、そしてNCNP内の各種センターが一体となって上記の病気の克服を目指した研究を行い、その成果をもとに高度先駆的医療を開発し、全国への普及を図ることです。私たちはそのファミリーの一員として役割を果たすべく、努力を続けます。国内外の関係諸機関との連携にも力を注ぎます。そして、「精神保健の向上を図る」というミッションも忘れず、ステークホルダーの皆様(当事者、家族、支援者、国民)の声に耳を傾けながら、現代社会におけるメンタルヘルスについて一生懸命考えたいと思います。
皆様のご理解とご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

令和6年4月
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 所長 張 賢徳