筋強直性ジストロフィー1型の筋病理に、
筋幹細胞の融合と筋核の成熟障害が関与することを発見
ー日本・ドイツ・フランスの国際共同研究により、中心核形成の新たな仕組みを解明ー
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所 疾病研究第一部のVanessa Todorow研究生(研究当時)、林晋一郎室長、西野一三部長らのグループは、ドイツFriedrich-Baur-Institute / Department of Neurology, LMU Klinikum Munich、フランスCentre for Research in Myology(Sorbonne University / Inserm / Institute of Myology)の日本・ドイツ・フランスの国際共同研究により、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の骨格筋において、筋幹細胞が活性化して既存の筋線維へ融合し、未成熟な筋核状態を生じることを明らかにしました。
DM1は、成人に多い神経筋疾患の一つであり、DMPK 遺伝子のCTGリピート伸長と、それに伴うMBNLタンパク質の機能低下によって引き起こされる遺伝性の多臓器疾患です。DM1患者の筋では、通常は筋再生の所見と考えられる中心核が多数認められますが、明らかな筋線維壊死や炎症細胞浸潤は比較的限られており、その由来は不明でした。
図中の数字はCTGリピート長を示す。リピート伸長に伴い、中心核が増加する。Bar: 50 µm
本研究では、ヒトDM1筋生検検体のsingle-nucleus RNA sequencing(snRNA-seq)と、成熟筋線維でMBNLタンパク質を選択的に低下させた成体マウスモデルを組み合わせ、研究チームは、MBNL機能低下が筋幹細胞(サテライト細胞)を活性化し、既存の筋線維との融合を促すことを明らかにしました。この過程により、筋線維に新たな核が加わり、中心核形成に寄与します。
ヒトDM1筋では、研究チームはCluster Xと名付けた特徴的な筋核集団を同定しました。Cluster Xは、成熟筋線維に関連する遺伝子と、通常は筋前駆細胞や再生中の細胞に関連する遺伝子を併せ持つハイブリッドな転写状態を示しました。また、Cluster Xの核ではDMPK およびCDKN1A (細胞周期阻害因子p21をコードする遺伝子)の発現が高く、融合後の未成熟または移行期状態を示すと考えられます。
以上の結果から、DM1における中心核は、過去の筋損傷の静的な痕跡としてだけではなく、筋幹細胞融合と筋核成熟障害を伴う不完全な再生過程の動的な指標として捉えるべきであることが示されました。本研究は、筋の構造と機能を保つ治療戦略の開発につながる新たな病態理解の枠組みを提示します。本研究成果は、2026年8月6日に、国際科学誌 Nature Communications に掲載されました。
研究のポイント
・DM1骨格筋では、明らかな壊死や強い炎症が乏しいにもかかわらず、中心核を持つ筋線維が多数認められます。・成体マウスの筋線維でMbnl1/2をノックダウンすると、DM1に類似した筋強直、筋力低下、スプライシング異常、中心核形成、筋核数増加が再現されました。
・MBNL機能低下は筋幹細胞を活性化し、既存筋線維への融合を促しました。
・Pax7陽性筋幹細胞を除去すると中心核形成は低下しましたが、筋強直や筋力低下は改善せず、中心核形成と筋機能障害は必ずしも同一機序ではないことが示唆されました。
・ヒトDM1筋のsnRNA-seqにより、筋前駆細胞様特徴と成熟筋核様特徴を併せ持つ未成熟/移行期筋核集団Cluster Xが同定されました。Cluster XではDMPKが高発現し、筋発生、再生、細胞周期離脱に関連する遺伝子(CDKN1A/p21を含む)が濃縮していました。
・中心核は、過去の損傷の痕跡ではなく、進行中の不完全なリモデリングを反映する指標として再定義されます。
研究の意義
本研究は、DM1筋で多数認められる中心核について、従来の「筋線維壊死後の再生」という解釈だけではなく、「MBNL機能低下筋線維が筋幹細胞を活性化し、既存筋線維への融合を促すことで生じる筋核リモデリング」という新しい病態概念を提示するものです。また、ヒトDM1筋において未成熟・移行期様の筋核集団を同定したことは、DM1の筋病理を一細胞核レベルで理解するための重要な基盤となります。今後、Cluster Xの形成機序や機能的意義を明らかにすることで、DM1における筋線維維持、筋核成熟、筋力低下の関係を解明し、新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。
今後の展開
今後は、DM1筋において筋幹細胞を活性化させる具体的な分子機構を明らかにする必要があります。候補として、MBNL機能低下筋線維からの分泌因子、細胞外マトリックス変化、機械的ストレス、代謝ストレスなどが考えられます。また、Cluster Xが疾患進行に伴ってどのように増加するのか、筋力低下や筋萎縮とどのように関連するのかを、多症例で検証することが重要です。将来的には、筋幹細胞の過剰な活性化や融合後の筋核成熟異常を制御することで、DM1骨格筋病態の進行を抑制する治療法開発につながる可能性があります。
用語説明
1) 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)成人で最も頻度の高い遺伝性筋疾患の一つです。筋強直、筋力低下、筋萎縮に加え、心臓、眼、内分泌系、中枢神経系など多臓器に症状を示します。
2) DMPK 遺伝子
DM1の原因遺伝子です。この遺伝子の3’非翻訳領域にあるCTGリピートが異常に伸長することで、病気の原因となるRNAが作られます。
3) MBNLタンパク質
RNAスプライシングなどを制御するRNA結合タンパク質です。DM1では異常伸長CUGリピートRNAに捕捉され、MBNLの機能が低下します。
4) 筋幹細胞/サテライト細胞/MuSC
骨格筋に存在する幹細胞で、通常は休止状態にありますが、筋損傷や刺激に応じて活性化し、増殖・分化して筋線維の修復や維持に関与します。筋幹細胞は、PAX7と呼ばれる転写因子をマーカーとしています。
5) 中心核
通常、成熟骨格筋線維の核は筋線維の辺縁に位置しますが、筋線維中央に核が存在する状態を中心核と呼びます。一般には筋再生の指標とされますが、DM1では壊死が目立たないにもかかわらず多数認められます。
6) single-nucleus RNA sequencing(snRNA-seq)
組織から単離した細胞核ごとにRNA発現を解析する技術です。凍結組織や多核細胞である骨格筋の解析に適しています。
7) Cluster X
本研究で同定された、DM1筋に増加する特徴的な筋核集団です。成熟筋核と筋前駆細胞様の遺伝子発現を併せ持ち、未成熟・移行期様の筋核状態を反映すると考えられます。
研究助成
本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費、日本学術振興会 科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)、DAAD/JSPS短期研究フェローシップ等の支援を受けて実施されました。論文情報
タイトル:MBNL depletion drives stem cell fusion and immature myonuclear states in myotonic dystrophy type 1.著者:Vanessa Todorow, Xavière Lornage, Shinichiro Hayashi, Fiorella Carla Grandi, Zoé Clerc, Jeanne Lainé, Michel Ney, Mégane Lemaitre, Corentin Rouxel, Maria Kondili, Piera Smeriglio, Hanseul Oh, Mie Kato, Nobuyuki Eura, Yoshihiko Saito, Francia Victoria A. De Los Reyes, Satoru Noguchi, Benedikt Schoser, Denis Furling, Ichizo Nishino, Peter Meinke, Frédérique Rau
掲載誌:Nature Communications
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-76476-6
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-76476-6
>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php
>疾病研究第一部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r1/




