トピックス

Topics

トピックス
  1. TOP
  2. トピックス
  3. 成人発症の脊髄性筋萎縮症に新たな遺伝的病因を発見 ―LRP12遺伝子のCGGリピート伸長による新たな病型を提示―

成人発症の脊髄性筋萎縮症に新たな遺伝的病因を発見 ―LRP12遺伝子のCGGリピート伸長による新たな病型を提示―

プレスリリース
NCNP病院

ロゴ
2026年9月28日
東京大学
国立精神・神経医療研究センター
印刷用PDF(588KB)
 
成人発症の脊髄性筋萎縮症に新たな遺伝的病因を発見
―LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長による新たな病型を提示―
 

発表のポイント

◆指定難病である脊髄性筋萎縮症(SMA)の多くはSMN1 遺伝子が原因であり、近年、核酸医薬、遺伝子治療、低分子薬が実用化され、新生児スクリーニングの導入も進むなど、遺伝学的診断が治療に直結する時代となっています。
◆一方、SMN1 遺伝子に病的バリアントを認めないnon-5q SMAは遺伝的に多様で、原因不明例が少なくありません。本研究では、成人発症non-5q SMAの日本人8家系を解析し、6家系でLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長を同定しました。
◆本成果は、これまで原因が分からなかった成人発症non-5q SMAの遺伝学的診断に役立つとともに、リピート伸長が神経や筋を障害する仕組みの解明や、将来の治療法開発につながることが期待されます。
 
成人発症non-5q SMAでLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長を同定
成人発症non-5q SMAでLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長を同定
 

概要

 東京大学医学部附属病院脳神経内科の成瀬紘也助教、国立精神・神経医療研究センター病院の戸田達史病院長らの研究グループは、成人発症の脊髄性筋萎縮症(SMA、注1)の日本人8家系を解析し、6家系でLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長(注2)を同定しました。
 近年、神経難病に対する分子発症機構に基づく治療法の開発が進んでおり、中でも指定難病であるSMAはその最たる例です。SMAは、筋肉を動かす脊髄の神経細胞の障害により、筋力低下や筋萎縮をきたす遺伝性神経疾患です。その多くはSMN1 遺伝子を原因とする5q SMAです。核酸医薬、遺伝子治療、低分子薬が実用化され、新生児スクリーニングの導入も進むなど、遺伝学的診断が治療に直結する時代となっています。一方、SMN1 遺伝子に病的バリアントを認めないnon-5q SMAは遺伝的に多様で、原因不明例が少なくありません。
 今回同定されたLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長は、従来、主に眼咽頭遠位型ミオパチーの原因として知られていましたが、本研究により成人発症non-5q SMAの原因にもなることが示されました。本成果は、遺伝学的診断の向上や病態解明、将来の治療法開発につながると期待されます。なお、本研究は、2026年9月23日(米国東部夏時間)に、米国神経学会(AAN)発行の学術誌「Neurology® Genetics」に掲載されました。

発表内容

<研究の背景>
 指定難病である脊髄性筋萎縮症(SMA)は、筋肉を動かす神経細胞である下位運動ニューロン(注3)の障害により、進行性の筋力低下や筋萎縮をきたす遺伝性神経疾患です。SMAの多くは5番染色体上のSMN1 遺伝子が原因となる5q SMAであり、近年、核酸医薬のヌシネルセン、遺伝子治療薬のオナセムノゲン アベパルボベク、低分子薬のリスジプラムが実用化され、新生児スクリーニングの導入も進んでいます。一方、SMN1 遺伝子に病的バリアントを認めないnon-5q SMAは遺伝的に多様で、成人発症例では原因不明例が少なくありません。

<研究の内容>
 本研究では、5q SMAと球脊髄性筋萎縮症を除外し、既知のSMA・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・遺伝性末梢神経障害(IPN)関連遺伝子に病的バリアントを認めない成人発症non-5q SMAの日本人8家系を対象に、LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長をRP-PCR(注4)で解析しました。その結果、6家系で同リピート伸長を同定しました(図1)。
 
図1:LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長の検出と代表家系
図1:LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長の検出と代表家系
既知のSMA・ALS・IPN関連遺伝子に病的バリアントを認めず、原因未同定であった成人発症non-5q SMAの8家系を解析しました。家系1の発症者IV-4、IV-5および家系2の発症者III-1では、RP-PCRでLRP12 遺伝子のCGGリピート伸長を示す特徴的な鋸歯状パターンを認めましたが、家系1の非発症者IV-2では認めませんでした。8家系中6家系で同リピート伸長を同定し、ロングリードシーケンス解析により、そのリピート数を58~92回と決定しました。家系図では、黒塗りは発症者、白抜きは非発症者、Eはリピート伸長あり、Nはリピート伸長なし、Pは発端者を示します。

 LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長は、主に眼咽頭遠位型ミオパチー(OPDM)の原因として報告されてきました。OPDMは、眼瞼下垂、嚥下障害、四肢遠位筋の筋力低下などを特徴とする筋疾患です。その後、ALSやIPNでも同リピート伸長が報告されてきました。一方、本研究の症例は、成人発症かつ緩徐進行性で、近位筋優位の筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン障害主体のSMA病型を示しました。ロングリードシーケンス解析(注5)で決定したリピート数は58~92回で、典型的なOPDMでみられるリピート伸長より短く、既報のALSやIPNと重なる範囲でした(図2)。この所見は、リピート数と臨床病型との関連を示唆しますが、さらに多くの症例での検証が必要です。
 
図2:LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長が示す疾患スペクトラム
図2:LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長が示す疾患スペクトラム
LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長は、まず眼咽頭遠位型ミオパチーの原因として報告され、その後、遺伝性末梢神経障害(IPN)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)との関連も示されてきました。本研究では、成人発症non-5q SMAの8家系中6家系で同リピート伸長を同定し、「LRP12 関連SMA病型」をこの疾患スペクトラムに新たに位置づけました。

 同リピート伸長は成人発症non-5q SMAの8家系中6家系に認められたのに対し、対照群では1,000例中2例とまれでした。この結果は、LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長が、成人発症non-5q SMAにおける重要な遺伝的病因の一つであることを示しています。一方、別に解析したALS 496例では2例に認められましたが、対照群との間に有意差は認められませんでした。

<今後の展望>
 本研究は、LRP12 関連疾患のスペクトラムに、成人発症・緩徐進行性・近位筋優位の下位運動ニューロン障害を特徴とする「LRP12 関連SMA病型」を位置づけるものです。近年、タンパク質を作らない領域に存在し、一般的な遺伝学的検査では見つけにくいリピート伸長が、神経・筋疾患の原因として注目されています。本成果により、原因不明の成人発症下位運動ニューロン疾患に対する遺伝学的検査の選択肢が広がるとともに、リピート伸長が神経や筋を障害する仕組みの解明や、将来の治療法開発につながることが期待されます。
 本研究は、東京大学、国立精神・神経医療研究センター、医薬基盤・健康・栄養研究所を中心に、国立病院機構南九州病院、秋田赤十字病院、帝京大学医学部附属病院、虎の門病院・冲中記念成人病研究所、滋賀医科大学、国立病院機構いわき病院による共同研究として実施されました。
 なお、本研究は、東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会および共同研究機関の倫理審査委員会の承認のもと、実施されました。

発表者・研究者等情報                                    

東京大学医学部附属病院
脳神経内科
    成瀬 紘也 助教

国立精神・神経医療研究センター病院
    戸田 達史 病院長

論文情報                                        

雑誌名:Neurology: Genetics
題 名:LRP12 CGG repeat expansions in patients with adult-onset non-5q spinal muscular atrophy
著者名:Hiroya Naruse, Jun Mitsui, Hiroyuki Ishiura, So Okubo, Chiharu Yoshida, Akihiko Mitsutake, Kyoko Maruta, Yuichi Uchida, Yasuyuki Nobuhara, Hayato Okabe, Yumiko Nakamura, Ryoei Suzuki, Yuto Hotta, Takashi Matsukawa, Hiroshi Tsukamoto, Yasuomi Kawamura, Kenju Hara, Yuhei Takado, Mami Kanzaki, Yoshikazu Uesaka, Akiko Ishii, Akihiro Kitamura, Makoto Urushitani, Yuji Takahashi, Akatsuki Kubota, Meiko Maeda, Jun Shimizu, Yuichiro Shirota, Masashi Hamada, Wataru Satake, Toyomasa Katagiri, Shokichi Takahama, Takuya Yamamoto, Shoji Tsuji, Yusuke Nakamura, Tatsushi Toda*(*責任著者)
DOI:10.1212/NXG.0000000000200440
URL:https://www.neurology.org/doi/10.1212/NXG.0000000000200440

研究助成

 本研究は、主に、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業(JPMH26FC1008)、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業(「難病のゲノム医療実現に向けた全ゲノム解析の実施基盤の構築と実践」)・創薬基盤推進研究事業(「神経変性疾患の診療情報と紐づく生物学的老化パターンに立脚したデータ駆動的患者層別化と創薬標的の探索」)、日本学術振興会 科学研究費助成事業、およびライフサイエンス振興財団の支援により実施されました。

用語解説

(注1)脊髄性筋萎縮症(SMA:spinal muscular atrophy)
筋肉を動かす神経細胞である下位運動ニューロンの障害により、進行性の筋力低下や筋萎縮をきたす遺伝性神経疾患です。SMAの多くは、5番染色体の長腕(q)に位置するSMN1 遺伝子の病的バリアント(疾患の原因となる遺伝子の変化)を原因とするため、5q SMAと呼ばれます。5q SMAでは、近年、核酸医薬、遺伝子治療、低分子薬が実用化され、新生児スクリーニングの導入も進んでいます。一方、SMN1 遺伝子に病的バリアントを認めないSMAはnon-5q SMAと呼ばれ、さまざまな遺伝的病因が知られていますが、原因不明例も少なくありません。
(注2)LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長
LRP12 遺伝子の5′非翻訳領域(5′ UTR)にある「CGG」という3塩基配列の繰り返し回数が、通常より多くなる遺伝的変化です。5′ UTRは遺伝子の先頭側に位置し、タンパク質を構成するアミノ酸配列には変換されない領域です。DNA中の特定の配列の繰り返し回数が通常の範囲を超えて増加する「リピート伸長」は、さまざまな神経・筋疾患の原因となることが知られています。
(注3)下位運動ニューロン
脳からの運動の指令を受け取り、筋肉へ伝える神経細胞です。主に脊髄や脳幹に存在し、障害されると筋力低下、筋萎縮、筋肉のぴくつきなどが生じます。
(注4)RP-PCR(repeat-primed PCR)
繰り返し配列の内部に結合する短いDNA(プライマー)を用いて、長さが一定間隔で異なる多数のDNA断片を増幅する検査法です。リピート伸長がある場合、解析結果に特徴的な鋸歯状のパターンが現れます。本研究では、LRP12 遺伝子のCGGリピート伸長の有無を調べるために用いました。
(注5)ロングリードシーケンス解析
一つのDNA分子の長い領域を、途中で細かく分断せずに連続して読み取る解析法です。DNAを短い断片に分けて読み取るショートリードシーケンス解析では、長い繰り返し配列の正確な長さや構造を評価することが困難ですが、ロングリードシーケンス解析では繰り返し配列全体をまたいで読み取ることができます。本研究では、LRP12 遺伝子のCGGリピート数を決定するために用いました。

 
>NCNP病院
https://hsp.ncnp.go.jp/

>脳神経内科
https://hsp.ncnp.go.jp/clinical/department.php?@uid=47SZaEHWgkreavMH
 

お問い合わせ

問合せ先
<研究内容について>
東京大学医学部附属病院 脳神経内科
助教 成瀬 紘也(なるせ ひろや)

国立精神・神経医療研究センター病院
病院長 戸田 達史(とだ たつし)
Tel:042-341-2712(内線2107) E-mail:toda@ncnp.go.jp

<機関窓口>
東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
担当:渡部、小岩井
Tel:03-5800-9188 E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp

国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報室
Tel:042-341-2711(代表) E-mail:kouhou@ncnp.go.jp