眼咽頭遠位型ミオパチーの新たな病態を解明
―リピート長とDNAメチル化が症状を左右―
―リピート長とDNAメチル化が症状を左右―
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部野口悟室長、西野一三部長、奈良県立医科大学脳神経内科学江浦信之講師、杉江和馬教授および東京大学らの研究グループは、40歳以降に発症し、眼瞼下垂、外眼筋麻痺、嚥下障害、四肢遠位筋の筋力が低下する遺伝性筋疾患で指定難病である眼咽頭遠位型ミオパチー(oculopharyngodistal myopathy:OPDM)の日本人患者を対象に、疾患の原因となるトリプレットリピート領域の配列を詳細に解析し、疾患遺伝子鎖に特異的なDNA配列構造の特徴と、リピート長および上流領域のメチル化状態が臨床症状の多様性に関与していることを解明しました。
今回の成果は、OPDMの原因であるトリプレットリピートの遺伝子の“長さ”を正確に測定しただけでなく、患者由来のDNA配列の特徴を詳細に調べることで、創始者ハプロタイプ1)の有無、リピート不安定性をもたらす特徴、さらにリピート配列から生じる異常蛋白産生(リピート関連非ATG翻訳:RAN翻訳)が病態に関与する可能性について、新たな知見を見出しました。加えて、OPDMの発症時期や重症度は、リピート長だけでなく、その上流のDNAメチル化といった“スイッチ”の役割を持つエピジェネティックな要因によっても規定されることを示す重要な臨床的知見が得られました。
本研究成果は2026年3月27日午前11時 (日本時間)に、遺伝学系学術雑誌「Genome Medicine」に掲載されました。
今回の成果は、OPDMの原因であるトリプレットリピートの遺伝子の“長さ”を正確に測定しただけでなく、患者由来のDNA配列の特徴を詳細に調べることで、創始者ハプロタイプ1)の有無、リピート不安定性をもたらす特徴、さらにリピート配列から生じる異常蛋白産生(リピート関連非ATG翻訳:RAN翻訳)が病態に関与する可能性について、新たな知見を見出しました。加えて、OPDMの発症時期や重症度は、リピート長だけでなく、その上流のDNAメチル化といった“スイッチ”の役割を持つエピジェネティックな要因によっても規定されることを示す重要な臨床的知見が得られました。
本研究成果は2026年3月27日午前11時 (日本時間)に、遺伝学系学術雑誌「Genome Medicine」に掲載されました。
研究の背景
OPDMは、これまで6つの原因遺伝子が知られ、いずれも5’非翻訳領域におけるCGGリピートの異常伸長を原因とするトリプレットリピート病2)です。遺伝子変異の類似性から、脆弱X症候群およびその関連疾患と同様の分子発症機序が考えられていますが、詳細な分子病態は不明です。
本研究グループは、「CGGリピート伸長はいかにしてOPDM病態を形成するのか」という問いに対し、CGGリピートと周辺領域を精緻に配列解析することによりアプローチしました。
本研究グループは、「CGGリピート伸長はいかにしてOPDM病態を形成するのか」という問いに対し、CGGリピートと周辺領域を精緻に配列解析することによりアプローチしました。
研究の概要
本研究グループは、91例の日本人OPDM患者とその家族に対して、CRISPR/Cas9標的ナノポアシーケンス(nCATS)3)を用いて、原因4遺伝子(LRP12, GIPC1, NOTCH2NLC, RILPL1)の疾患関連リピートの組成および長さ、隣接配列、ハプロタイプ、構造変異、DNAメチル化状態を単一DNA分子で同時に解析しました。
配列データの詳細な解析をもとに、これらの原因遺伝子のリピート伸長がいかに生まれたのか、リピートの不安定性を生む機序は何か、さらに、疾患形成に関わる因子の解明を目指しました。具体的には以下の結果を得ました。
1. リピート配列は均一なCGGで構成されているが、同一患者内で長さの不均一性が存在した。
2. 患者のLRP12遺伝子またはGIPC1遺伝子のリピート周辺領域には創始者ハプロタイプが存在し、患者の東アジアへの集積を説明
できた。
3. 患者ではリピート隣接領域が欠失しており、これによりリピートに不安定性(伸長/短縮)が引き起こされると予測された。
4. 患者の伸長リピートは母系遺伝では伸長し、父系遺伝では短縮した。超伸長リピートを持つ人は、リピート上流が高メチル化されて
おり、発症が抑制されている可能性が示された。
5. リピート近傍配列に欠失を有する患者を複数同定した。これらの欠失はRAN翻訳に影響を及ぼす可能性があり、RAN翻訳の病態
関与が単純ではなく、複雑に制御されている可能性を示した。
6. 臨床症状の多様性は主にリピート長の違いにより生み出されたものと考えられたが、LRP12遺伝子変異例では、リピート上流の高
メチル化がリピート長と発症年齢との相関を修飾し、発症を遅らせる方向に作用していることが判明した。
配列データの詳細な解析をもとに、これらの原因遺伝子のリピート伸長がいかに生まれたのか、リピートの不安定性を生む機序は何か、さらに、疾患形成に関わる因子の解明を目指しました。具体的には以下の結果を得ました。
1. リピート配列は均一なCGGで構成されているが、同一患者内で長さの不均一性が存在した。
2. 患者のLRP12遺伝子またはGIPC1遺伝子のリピート周辺領域には創始者ハプロタイプが存在し、患者の東アジアへの集積を説明
できた。
3. 患者ではリピート隣接領域が欠失しており、これによりリピートに不安定性(伸長/短縮)が引き起こされると予測された。
4. 患者の伸長リピートは母系遺伝では伸長し、父系遺伝では短縮した。超伸長リピートを持つ人は、リピート上流が高メチル化されて
おり、発症が抑制されている可能性が示された。
5. リピート近傍配列に欠失を有する患者を複数同定した。これらの欠失はRAN翻訳に影響を及ぼす可能性があり、RAN翻訳の病態
関与が単純ではなく、複雑に制御されている可能性を示した。
6. 臨床症状の多様性は主にリピート長の違いにより生み出されたものと考えられたが、LRP12遺伝子変異例では、リピート上流の高
メチル化がリピート長と発症年齢との相関を修飾し、発症を遅らせる方向に作用していることが判明した。

【図1】疾患リピート伸長DNA鎖における近傍配列、リピート配列の相違
A. LRP12遺伝子リピート部位のDNA配列。リピート伸長DNA鎖ではAlternative Flanking Seq(代替隣接配列:青字)が失われている。矢印:転写方向を示す。//:GCC伸長、Expanded: リピート伸長鎖、Non-expanded:非伸長鎖。B. GIPC1遺伝子リピート部位のDNA配列。伸長リピートの5’側には、GCC以外の配列が挿入され、GCCの連続性が失われている。矢印:転写方向を示す。//:GCC伸長、Expanded: リピート伸長鎖、Non-exp: 非伸長鎖。

【図2】リピート上流のメチル化により多様な症状が引き起こされるモデル
●:リピート非伸長鎖。非メチル化のため、遺伝子発現は維持されるが、病因性のあるリピート伸長がない。■:GIPC1, NOTCH2NLC遺伝子リピート伸長鎖。50-400リピートサイズであり、メチル化はないため、発現抑制は受けていない。そのため、リピート長と臨床症状に強い負の相関がみられる。
◆:LRP12遺伝子リピート伸長鎖。50-400リピートサイズであり、不均一にメチル化を受けている。このメチル化により、部分的に遺伝子発現が抑制され、リピートサイズと臨床症状の相関関係は崩れている。
■:超長リピート伸長鎖。罹患者の家族に見られる400リピートを超える伸長鎖では、高メチル化により遺伝子発現は抑制されている。その結果、OPDM発症も抑制される。
今後の展望
リピート隣接領域の構造やリピートの不連続性は、リピート安定性を規定する重要な要因であると考えられます。今後、これらの近傍配列やリピート5’側配列をさらに詳細に解析することで、リピートの不安定性(伸長や短縮)を引き起こす分子メカニズムの解明が期待されます。また、リピート近傍に欠失を伴った患者の解析からは、RAN翻訳が病態形成にどのように関与するのか、詳細な分子機序の解明が期待されます。さらに、本研究ではリピート長とDNAメチル化の程度が疾患の重症度や発症時期を規定する重要な因子であることが示されました。これら2つの分子要素を標的とする新たな治療戦略の開発が待たれます。用語の説明
1)創始者ハプロタイプ(Founder Haplotype):ある特定の小集団(創始者集団)において、共通の祖先から受け継がれた、特定のDNA配列の組み合わせ(ハプロタイプ)のこと。共通のDNA配列を持つこと=共通の祖先から受け継がれたため、疾患患者群の遺伝的多様性が低くなること(創始者効果)が観察される。2)トリプレットリピート病:人のゲノムDNA内にある特定の3塩基の繰り返し配列(トリプレットリピート)が、異常に長くなることで発症する遺伝性疾患の総称である。神経変性疾患や筋疾患が多く存在する。
3)CRISPR/Cas9標的ナノポアシーケンス(nCATS):ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を利用して、特定のターゲットDNA領域のみを効率的に濃縮し、ナノポアシーケンサーで読み取る手法である。ナノポアシーケンサーでは、数十kb(キロベース)に及ぶ長い領域を連続して読み取ることができるため、構造変異の特定、リピート長の直接読み取りが可能である。また、PCR増幅を行わないため、DNAフラグメント毎のリピート配列の正確な解析が可能であり、配列データから直接DNAメチル化の状態の確認もできる。従来の全ゲノムシーケンスに比べ、特定の遺伝子や領域を低コストかつ高深度で解析できるのが特徴である。
原著論文情報
・論文名:Pathogenic CGG expansions in oculopharyngodistal myopathy exhibit distinct characteristics of each causative gene on the flanking sequences as well as methylation status・著者:Nobuyuki Eura, Satoru Noguchi, Megumu Ogawa, Kyuto Sonehara, Ai Yamanaka, Takashi Kurashige, Shinichiro Hayashi, Yukinori Okada, Kazuma Sugie, Ichizo Nishino
・掲載誌:Genome Medicine
・DOI:10.1186/s13073-026-01617-x
研究経費
本研究結果は、以下の日本医療研究開発機構「難治性疾患実用化研究事業」「創薬基盤推進研究事業」および国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php
>疾病研究第一部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r1/




