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発達障害など認知的多様性の「見える化」をめざしたアニメーション動画を公開 ~計算論的精神医学と当事者研究の共同創造で多様性理解を深める~

プレスリリース
神経研究所

NCNPと東京大学のロゴ
2025年4月2日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
東京大学
印刷用PDF(983KB)

発達障害など認知的多様性の「見える化」をめざしたアニメーション動画を公開
~計算論的精神医学と当事者研究の共同創造で多様性理解を深める~

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所疾病研究第七部山下祐一室長、東京大学先端科学技術研究センター熊谷晋一郎教授らの研究グループは、脳の計算理論に基づいて認知の多様性を理解し、発達障害をはじめとした気づかれにくい障害を「見える化」することを目指したアニメーション動画を制作し、公開致しました。(URL:https://youtu.be/OO-ph6thep0)。

 近年、精神障害や発達障害の理解を促す新たな枠組みとして、脳が持つとされる「予測情報処理(Predictive Processing)」という仕組みに関する理論が注目されています。この理論は従来のように人を統合失調症や自閉症といったカテゴリーで分類するのではなく、一人ひとりの特性を連続的な多様性としてとらえるため、差別や偏見を避けて理解を深めることができます。また、当事者自身の主観的な体験を尊重し、当事者と研究者が協働して理論を検証・構築できる「当事者研究」のフレームワークとも相性が良いと期待されています。
 しかし、「計算論的精神医学」の理論は専門的で非常に難解なため、一般の方々や当事者が親しみやすく理解できる教材がほとんどありませんでした。そこで私たちの研究グループでは、専門的で難解な内容をわかりやすく伝える手段として、視覚的で直感的な理解を促すアニメーション動画を制作しました。本動画を通じて、多くの方に脳と心の新しい視点を提供し、発達障害を含む認知の多様性への理解が深まることを願っています。

アニメーション動画制作の背景

 計算論的精神医学、特に予測情報処理という理論は、人々の認知特性をカテゴリーではなく連続的に捉えるため、精神障害や発達障害の新しい理解に役立つとして注目されています。こうした考え方は、差別や偏見を生みがちな類型化を避け、多様な人々を連続体としてとらえることで、互いへの共感と理解を促すことが期待されます。また、当事者自身の主観的な経験や行動を重視しているため、当事者と研究者が協働して理論を検証・発展させる「コプロダクション(共同創造)」を進める上での共通の枠組みとしても注目されています。
 私たちの研究グループでは、こうした計算論的精神医学と当事者研究の協働を積極的に推進しています。例えば、JST CREST「認知ミラーリング」プロジェクトでは、外から見えない認知プロセスを可視化し、当事者が感じる困難さや違和感の共有を目指してきました。また、JST CREST「認知フィーリング」プロジェクトでは、当事者自身が抱く主観的感覚や体験を周囲と共有するための研究も進めています(図)。
 このような利点や可能性がある一方で、計算論的精神医学の理論は専門的で難解なため、当事者をはじめ一般の方に分かりやすい形で伝える教材が不足していました。そこで私たちは、この難解な理論を視覚的に分かりやすく伝えるため、アニメーションを用いた動画制作に取り組みました。具体的には、当事者自身が自分の経験の規則性や特性を記述・理解するための当事者研究や、当事者を支える家族が本人の困りごとを把握する場面、また職場での管理者向け研修などにおいて、認知特性の多様性について直感的な理解を促す教材として役立てていただくことを想定しています。
 
図.当事者研究と計算論的精神医学の協働

アニメーション制作にあたってのポイント

1. 多様性を「連続的な認知特性」として描写
 多様性を連続的な認知特性として理解するための描写を心がけました。視聴者が「自分にも通じる部分がある」と感じられるよう、ストーリー構成やキャラクターデザインを工夫しました。
2. 当事者との共同創造(コプロダクション)の実践
 当事者研究の専門家や当事者の方々から直接意見をいただき、脚本やナレーションに修正を重ねました。計算論的な理論を当事者の視点からも検討し、理論と現実の橋渡しを意識しました。     

今後の展望

 今後は本動画を活用し、教育や支援現場での応用を進めます。また、動画を通じて広くフィードバックを集め、それを元に理論の精緻化と当事者研究の深化を目指します。
山下祐一室長(NCNP神経研究所)のコメント
「本動画が、多くの方にとって認知の多様性を捉える新しい視点を得るきっかけとなり、当事者研究との相互フィードバックを通じて、より現実に即した計算論モデルを生み出すきっかけになればと願っています。」
熊谷晋一郎教授(東京大学先端科学技術研究センター)のコメント
「海外では、計算論の枠組みで、当事者と専門家が協働する試みが始まっていますが、対等な協働はなかなか実現せず、形骸化に陥りがちでした。理論をなるべく分かりやすく説明する今回の取り組みが、形骸化に陥らないコプロダクションの一助になればと思います。」

アニメーション公開URL              

NCNP公式チャンネル https://youtu.be/OO-ph6thep0
*English Ver.   https://youtu.be/hCKtJpLZsrY






 

研究支援

 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21P4,JPMJCR16E2)の支援を受けて行われました。
 

お問い合わせ

【研究に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所疾病研究第七部 室長 山下祐一
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
E-mail: yamay(a)ncnp.go.jp

東京大学 先端科学技術研究センター
当事者研究分野 教授 熊谷晋一郎
〒153-8904 東京都目黒区駒場4-6-1
E-mail: u-kumashin(a)g.ecc.u-tokyo.ac.jp

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1 
E-mail: kouhou(a)ncnp.go.jp

東京大学先端科学技術研究センター
広報広聴・情報支援室
〒153-8904 東京都目黒区駒場4-6-1
E-mail: press(a)rcast.u-tokyo.ac.jp

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