デジタルトランスフォーメーション(DX)時代の遠隔認知行動療法

デジタルトランスフォーメーション(DX)時代の遠隔認知行動療法

認知行動療法センターは、安全で有効な心理療法を開発し、国民の皆さまに届けるための研究・研修を行うとともに、
国内外の実践家、研究者、当事者、企業との連携に取り組んでいます。
認知行動療法診療部ではコロナ禍で必要とされる非対面での心理社会的介入の技術開発と研究を進めています。

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認知行動療法センター認知行動療法診療部

遠隔心理療法の
ニーズの高まり

アイトラッカーによる視線の軌跡の計測

アイトラッカーによる視線の軌跡の計測画像

 コロナ禍の現在、感染拡大予防のため、テレビ会議システムを活用した非対面の遠隔心理療法が注目されています。最近の研究では、遠隔心理療法は対面心理療法とその効果が劣らないことが報告されています(リファレンス1)。また、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は患者さんからの要望に対してセラピストが不足しており、その供給は不十分です。セラピストのマンパワーがある医療機関と患者さんをオンラインで繋ぐことができればCBTの需要と供給の不均衡の解消も期待できます。さらに、遠隔心理療法が社会実装されることにより、さまざまな理由でこれまで対面での心理療法を受けることが困難であった方に対しても心理療法を届けることが可能となります。
 遠隔心理療法は、患者さんがデジタル機器を保有していない場合や、機械が苦手である場合には届けにくいというデメリットもあります。ですが、そのような方にはセラピストと患者さんのご自宅をオンラインで繋ぐのではなく、患者さんが現在受診している地域の医療機関とセラピストをオンラインで繋ぐことで患者さんのデジタル親和性によらずCBTをもれなく提供することが可能となります(リファレンス2)。

デジタル技術による心理療法のプロセスの解明

セラピストの発話音声のスペクトル分析

セラピストの発話音声のスペクトル分析画像

 遠隔心理療法が、対面での心理療法と比べて優れている点のひとつが心理療法中の言語・非言語データの取得のしやすさです。従来の対面心理療法でも音声や第三者視点からの映像データは取得できましたが、テレビ会議システムを活用した遠隔心理療法では、ボタンひとつでセラピスト・患者さんの双方の視点で録画することや両者の発言を個別に録音することが可能となります。また、現在私たちが進めている、セラピストがいない地域の医療機関とNCNPを繋いでCBTを届ける研究(リファレンス3)では、双方に映像・音声解析用の高性能カメラ及びマイク、視線解析用のアイトラッカー、生理指標解析用のウェアラブルデバイス、音声感情推定ソフトを設置し、遠隔心理療法中のセラピストと患者さんの音声や表情、視線、ジェスチャー、心拍といったさまざまな種類の情報を測定し、遠隔心理療法の治療反応性に関連する要因やそのプロセスについて機械学習を用いて解明する研究を進めています。これらの研究から得られるさまざまなデータは遠隔心理療法の有効性の検証はもちろん、心理療法のトレーニングの効率化や将来的にバーチャルセラピストの育成に活用する予定です。


リファレンス

1. Norwood C, Moghaddam NG, Malins S, Sabin‐Farrell R. Working alliance and outcome effectiveness in videoconferencing psychotherapy: A systematic review and noninferiority meta‐analysis. Clin Psychol Psychother. (2018) 25(6), 797-808.
2. 大井瞳, 中島俊, 宮崎友里, 井上真里, 堀越勝.持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals: SDGs) としての遠隔認知行動療法の役割と限界. 認知行動療法研究, (2021) 47(2), 119-126
認知行動療法研究
3. 中島俊, 大井瞳, 井上真里. テレビ会議システムを利用した不眠症領域の心理療法. Medicina. (2021) 58(6), 792-795.

研究部紹介

認知行動療法センター

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研究部のメンバー

【研究部ホームページリンク】
認知行動療法センター
https://www.ncnp.go.jp/cbt/

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