認知症の早期発見を目指せ ―画像診断技術開発の試み―

認知症の早期発見を目指せ ―画像診断技術開発の試み―

IBIC (脳病態統合イメージングセンター) ・先進脳画像研究部 は、
最新画像診断技術を用いて脳内の 情報伝達網の変調の動作原理を解明し、
精神・神経疾患や発達障害の治療に役立てる研究をしています。
また、認知症の早期発見を目指す診断技術の開発に力を入れ、
多施設コホート研究の中核施設を担っています。

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IBIC(脳病態統合イメージングセンター)先進脑画像研究部

認知症医療における問題点と
高まる画像診断技術への期待

図1 認知症の基礎疾患の内訳
図1:アルツハイマー型認知症と診断されても、他の認知症の病気が重なって併発する症例(右図、患者Aや患者B) が見つかる。純粋な症例 (患者C) と切り分けをせずにひとつの患者群として扱うと治療効果の適正な評価ができない

 高齢化が進む日本における認知症の人の数は、2025年には約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれ、国家戦略として認知症の早期発見・早期治療が求められています。認知症の原因は様々です。近年、ひとつの病名で診断されても実際には複数の疾患が重なっている症例が多いことが分かってきました。治験薬が期待された治療効果を発揮できなかったのには、診断の切り分けが正確にできず、疾患に即した治療薬を選択できなかった可能性があります(図1)。適切な治療のためには客観的な診断指標の導入が必要です。
 核磁気共鳴法 (MRI)やポジトロン断層撮影法 (PET) などの画像診断技術の進歩で、脳の中で起こる病態が可視化できるようになりました。例えば、アルツハイマー型認知症 (AD) では発症の10年以上も前から脳内に異常タンパクアミロイド が蓄積すること、AD発症初期から記憶に関わる脳回路の活動が低下することが分かりました。認知症の早期発見を目指して画像診断技術への期待が高まり、早期診断技術が提案されてきましたが、未だコンセンサスを得たものはありません。

オールジャパンの力を結集して
画像診断技術に挑む

図2: アルツハイマー型認知症患者で見られた脳回路変調(当研究部らの予備検討)
図2: アルツハイマー型認知症患者で見られた脳回路変調(当研究部らの予備検討)。アミロイドPET検査の異常と並行して記憶回路(上図右および下図左の緑矢印を結ぶ神経回路)の活動が低下していた。早期異常発見の診断技術の開発の糸口となることを期待する

 私たちは精神・神経疾患の画像診断技術の開発を目指す大規模コホート研究に参画し、特に高齢者認知症の多施設共同研究で中核を担っています。認知症患者の臨床情報、血液・ 髄液の生体試料、MRI/PET 脳画像など、多次元データの情報収集を行い、認知症の原因となる疾患ごとに切り分けます。抽出した疾患群を病初期から追跡調査することで、早期に見られる画像上の特徴を掴むことを目指しています。この方法は、すでにパーキンソン病において成果を挙げています(リファレンス)。ですので、この戦略が認知症コホート研究でも、早期異常発見の画像診断技術の開発に結びつくことを期待しています(図2)。
 私たちは技術開発を担うだけではなく、集積された認知症画像データが将来的に国内外の研究者が利活用できるよう データベース化に向けて整備しています。欧米の脳画像デー タベースとの連結も視野に入れ、オールジャパン体制の認知症画像研究を目指し、認知症医療の技術革新に貢献していきたいと考えています。


リファレンス

Wakasugi N, Togo H, Mukai Y, Nishikawa N, Sakamoto T, Murata M, Takahashi Y, Matsuda H, Hanakawa T. Prefrontal network dysfunctions in rapid eye movement sleep behavior disorder. Parkinsonism & Related Disorders (2021) 85, 72-77.

研究部紹介

 IBIC(脳病態総合イメージングセンター)

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先進脳画像研究部のメンバー

【研究部ホームページリンク】

 IBIC(脳病態総合イメージングセンター)
 https://www.ncnp.go.jp/ibic/index.html

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