複雑性PTSD治療を届けるために~ 効果検証と治療者の育成~

複雑性PTSD治療を届けるために~ 効果検証と治療者の育成~

行動医学研究部では、ストレスやトラウマに関連する疾患の病態解明や治療研究を推進しています。
その取り組みのひとつとして、 複雑性PTSDに対する心理療法 (STAIR Narrative Therapy) の
治療研究を進めています。

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精神保健研究所行動医学研究部

複雑性PTSDに対する心理療法の効果検証

 複雑性PTSDは、 持続的な虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症する精神疾患です。この疾患は、PTSDの主要症状 (フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心など) に加えて、感情の調整や対人関係に困難がある等の症状を伴い、日常生活や社会生活に大きな支障をきたします。 複雑性PTSDは、2018年に公表された国際疾病分類の第11回改訂版 (ICD-11) で、 新たに採用された診断項目ですので、この疾患に対してどのような治療が有効であるかを明らかにすることは国際的にも喫緊の課題となっています。
 当研究部では、海外で虐待関連のPTSDに有効性が確立されている心理療法 (STAIR Narrative Therapy) を日本に導入し、ICD-11の複雑性PTSD診断を満たす患者さんを対象とした前後比較試験を実施しました。複数の医療機関と共同で実施した臨床試験によって、この心理療法が日本の臨床現場においても安全に実施可能であり、複雑性PTSDに対して効果が期待できることが示唆されました。

図1:STAIR Narrative Therapy 全体像。現在の感情調整や対人関係の困難さに対処するスキルトレーニング (Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation;STAIR)とトラウマに焦点を当てた治療 (Narrative Therapy) を組み合わせた治療法

患者さんに治療を届けるために

 前述の臨床試験は、10名の患者さんを対象とした、対照群を置かない前後比較試験でした。 治療を完了した7名のうち、6名は治療後に、7名全員が治療終了3か月後に複雑性PTSDの診断基準を満たさなくなりました。複雑性PTSDの重症度得点は、治療前と比べて治療後および治療終了3か月後に有意な(=統計的に意味のある) 改善が認められ、その効果量も大きなものでした。 今後は、STAIR Narrative Therapy の有効性をより厳格な方法で検証するために、この治療を受けるグループと通常治療グループの間で治療効果を比較するランダム化比較試験を計画しています。
 また、この治療が複雑性PTSDの症状に悩まされている患者さんの治療の選択肢となるためには、治療者の育成も進めていく必要があります。NCNPでは、治療開発者であるM.ク ロアトル博士とC. ジャクソン博士による公式ワークショップを2023年2~3月に開催し、50名の臨床家が計15時間の研修を修了しました。また継続的な治療者育成のための体制整備を進めています。

図2: 複雑性PTSDの診断と治療に関する今後の取り組み


リファレンス

  1. Niwa M, Kato T, Narita-Ohtaki R, Otomo R, Suga Y, Sugawara M, Narita Z, Hori H, Kamo T, Kim Y. Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation Narrative Therapy for women with ICD-11 complex PTSD related to childhood abuse in Japan: a pilot study. Eur J Psychotraumatol. (2022)13(1):2080933. doi: 10.1080/20008198.2022.2080933.
  2. プレスリリース2022年6月8日 「複雑性PTSD 治療前進へ~心理療法(STAIR Narrative Therapy) の成果〜」https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20220608p.html

研究部紹介

行動医学研究部

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https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/

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https://www.ncnp.go.jp/mental-health/


記事初出
「Annual Report 2022-2023」(2023年12月発行)
>広報誌

※職員の所属情報は2023年9月1日現在のものです