生物統計の力で新しい治療法の開発を促進

生物統計学は統計学の一分野です。医学や生物学の領域での疑問にデータを用いて答えるため、データの集め方や解析のやり方を体系的に提供します。
新しい医薬品や治療法が提案されたとして、それらが実際に治療を必要とする人々に届くまでには、医薬品や治療法として承認される必要があります。そのためには科学的な手法によって客観的に効果があることを示さなければなりません。それには正しい方法で集められたデータを正しい方法で解析することが欠かせません。つまり、現代では生物統計学なくして新しい医薬品や治療法の開発はできないのです。
私たちは、新しい治療法を効率的に届けるために必要な方法論の開発と、そうした方法を実際のデータにどのように適用すべきかというルール作りをNCNP外の生物統計家グループと共同で行っています。
データ科学で保健医療をよりよいものに

保健、医療の情報は一昔前とは比べものにならないほど、電子化されています。例えば、昔は診察しながら医師が手書きでカルテに記録するのが一般的でした。いまは多くの医療機関で医師が電子カルテにキーボードから記録を入力しています。しかし、それらのデータが日本全体で相互に繋がって活用されているかというと、そうではありません。例えば、ある医療機関を受診したときに把握されているはずの薬剤へのアレルギーについて、別の医療機関を受診した際には患者さんが申告しないといけないのが現状です。データを繋げることで、こうした状況を改善することが可能です。また病院や診療所などでの診療情報、検診の情報、福祉サービス利用の情報などの領域をまたいだ情報も現状では分断されたままです。これらをつなげ、活用することができれば、それぞれの人々のニーズにぴったりあった保健・医療サービスを紹介することが可能になります。まるで一流ホテルのコンシェルジュのように、私たちは、必要な時に必要なサービス届けることを目指しています。
データ中心の科学で目指すこれからの健康社会

既存の技術を組み合わせるだけで、いま述べたようなことは簡単にできそうに思えますが、実はそうではありません。保健医療のデータは個人情報の中でも特段の配慮が必要なものです。情報利用の枠組みをしっかりと整備した上で、みなさんにこの情報を積極的に活用することでどの様な健康社会が訪れるのかを知っていただき、「それはいいね」と思っていただくことが大事だと思っています。
これからの社会を動かす資源は石油ではなく情報(データ)です。データ駆動型社会とも呼ばれるこれからの時代では、統計学を駆使し、データから新たな価値を創造することで、社会をより良くしていくことが求められます。保健や医療においても例外ではありません。
それぞれの個人が自分の保健医療情報のうち「どの情報を誰がどういった目的なら利用してよいか」を決めた上で情報を提供できる分かりやすい仕組みを作ったうえで、データを活用してより健康な社会を構築することを目指して活動を続けていきたいと考えています。