男性脳・女性脳をつくる新たなメカニズムの解明

男性脳・女性脳をつくる新たなメカニズムの解明

NCNP神経研究所・病態生化学研究部では、
実験動物を用いて、脳が形づくられていくしくみを研究するとともに、
脳と心の病いの原因解明や治療法開発に努めています。

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神経研究所/病態生化学研究部 星野 幹雄部長神経研究所(病態生化学研究部)藤山知之 病態生化学研究部・ 研究員(現・筑波大学WPI-IIIS)

男性脳と女性脳

今までの理解解説図

男性と女性では、ものの考え方や嗜好などの傾向が違いますが、少なくともその一部は脳の違い(男性脳・女性脳)を反映していると考えられます。ある脳領域では、神経細胞やシナプス(神経細胞同士の結合部)の数が男性の方が多いとか、女性の方が多いとか、あるいはそこで働く遺伝子が男女で少し異なるとか、男性と女性とでは脳の構造や機能が少し異なることが知られています。実は私たちヒトを含む哺乳類の脳は、最初はほとんど男女(オス・メス)で変わりがありません。しかし、発達途上のごく一時期である「臨界期」(ヒトでは妊娠12~22週頃、マウスでは出生後一週間)に、脳が男性ホルモンの一種であるテストステロンを受け取ると男性脳へと成熟していくこと、もしもその時期に脳がテストステロンを受け取らないと女性脳へと成熟すること、などがわかっていました(右図)。しかし「臨界期」よりも早い段階での発達のしくみについては、ほとんど何もわかっていませんでした。

男性脳・女性脳になるための「準備状態」

解説図Ptf1a遺伝子の比較

私たちは、Ptf1aと呼ばれる遺伝子が、「臨界期」より前の脳発達期に、視床下部 と呼ばれる脳領域でONになる(専門用語では遺伝子が発現すると言います)ことを見出しました。次に、視床下部でPtf1a遺伝子を破壊したマウスを作製したところ、 オスはオスらしい行動を示さず、メスもメスらしい行動を示すことができなくなりました(右図)。Ptf1a遺伝子を破壊したマウスをさらに詳しく調べたところ、オスの脳が「臨界期」にテストステロンを受け取っ ているにもかかわらず男性脳になれず、またメスの脳はテストステロン受け取っていないのに女性脳になれていないことがわかりました。このことから、「臨界期」のテス トステロン受容の有無によって脳が無条件に男性脳・女性脳へと成熟できるわけではなく、「臨界期」以前に脳がテストステロンの有無に反応できるための「準備状態」(性分化準備状態)をとっておく必要があることが、新たにわかりました。

脳の性分化で最初に働くPtf1a遺伝子

男性脳・女性脳の発達に関する解説図

視床下部でPtf1a遺伝子を破壊したマウスでは脳が「準備状態」に入れないことから、Ptf1a遺伝子が胎児期の視床下部で働き、脳を「準備状態」へと導くことで、その後の男性脳・女性脳へと成熟させる役割を持つことがわかりました(右図)。これまでにも男性脳・女性脳の発達に関わる遺伝子はいくつか報告されていますが、Ptf1aはそれらの中でももっとも早い段階から働く遺伝子です。脳の性分化の一番はじめのメカニズムが明らかにされたわけですので、今後の脳発達と性差の研究に大きく発展するもと考えられます。ただし、今回の研究成果はマウスを用いて得られたものであることに注意を払う必要があります。私たちヒトの脳発達はマウスと比べるとはるかに複雑です。教育、人間関係、時代背景、宗教、国柄、などの様々な社会的要因にも影響されます。そのため、マウスなどの実験動物から得られた知見を参考にしつつも、私たちヒトの脳を理解するためにはより高度で慎重な研究が必要になると考えます。


リファレンス

本研究は、NCNP星野幹雄部長、藤山知之研究員(現・筑波大WPI-IIIS)のグループと、筑波大学WPI-IIISの柳沢正史機構長、船戸弘正教授のグループとの共同研究です。

論文:Forebrain Ptf1a is required for sexual differentiation of the brain. Fujiyama
T, Miyashita S, Tsuneoka Y, Kanemaru K, Kakizaki M, Kanno S, Ishikawa Y, Yamashita M, Owa T, Nagaoka M, Kawaguchi
Y, Yanagawa Y, Magnuson MA, Shibuya A, Nabeshima Y, Yanagisawa M, Funato H, Hoshino M: Cell Reports, 24, 79-94, 2018

研究部紹介

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