ジストニアのすべて~診断・治療・病態解明の最前線~

ジストニアのすべて~診断・治療・病態解明の最前線~

診療の窓口は病院の脳神経内科診療部になります(ボツリヌス治療新患外来を開設)。
データベース等の基本的な整理は脳神経内科・PMDセンターで行い、
動作解析・画像研究等の検討はIBICとの、
心理面での検討・治療アプローチはCBTセンターと連携しています。
ジストニアに対するこうした多方面からのアプローチが可能な施設は世界的にも珍しく、
センターのミッションである診断・治療・病態解明を進めています。

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国立精神・神経医療研究センター病院/脳神経内科診療部

見逃されているジストニア~ジストニアとは何か~

楽器演奏時の音声データでジストニア症状の可視化データ
楽器演奏時の音声データでジストニア症状を可視化する

身体の一部が勝手にこわばってしまう、それがジストニアです。どこにその問題が起こるかによって症状が異なりますが、多くは特定の動作をするときに起こり、最近では音楽家や運動選手の症状が注目されています。それ自体で生命にかかわるようなことはまずありませんが、特に職業に直結した場合には、軽微な症状でも患者さんにとっては死活問題になることが少なくありません。したがって早く診断治療することが必要なのですが、MRIなどに異常はなく、血液検査などでも特定のマーカーはありません。あくまでもその症状から診断する必要があり、高度な経験と注意力が要求されます。さらに、精神的な緊張やストレスが症状を悪化させることがあるため、精神的な問題と考えられて診断が滞っていることが少なくありません。このように、ジストニアの診断と治療はその入り口から行き詰っている部分があり、それを打破しなければならないのです。

ジストニア治療の最前線ボツリヌス治療、認知行動療法

治療法の一つは問題のある筋肉にボツリヌス毒素製剤を投与して緊張をほぐす方法です。ボツリヌス毒素製剤は多量に投与すると筋肉を麻痺させるので、適切な量を適切な筋肉に打つ必要があります。そこが治療者の腕の見せ所です。私たちはボツリヌス治療技術の改良を重ねており、それを全国・全世界に発信しています。成果の一部はジストニア治療ガイドラインにも取り入れられています。さらに、製剤自体の改良も他施設と進めており、遠くない将来、より安全かつ有効な薬品を使用できることになると期待しています。

しかしながら、特に職業に関係したジストニアの場合、症状によってはそのさじ加減が非常に難しいことがあります。力を緩めすぎるとむしろそれによる問題で動作がしづらくなってしまうのです。私たちは、ジストニア症状出現の不安が症状を悪化させることに注目し、NCNP認知行動療法センターとの共同研究でジストニアの認知行動療法を導入しました。まだ症例数は少ないですが安全で良好な結果が得られており、より多くの方々に行えるように検討を進めています。

ジストニアの病態解明

運動回路の異常

脳病態統合イメージングセンター(IBIC)では、金管楽器奏者の演奏中に口周囲・舌等に過剰な緊張が入るアンブシュアジストニアの症状と脳活動の関係を検討しました。まず楽器演奏時の音を用いてジストニア症状を指標化しました。次いで、ジストニアを誘発する運動課題(マウスピースを吹く課題)と脳内の身体部位表象を同定する運動課題を実施しながら機能的MRIを撮影し、脳内身体図式の異常よりも感覚・運動を司る脳領域の過剰な活動がジストニア指標と深く関連することを明らかにしました。ジストニアには、ちょっとさわったりするだけで異常な姿勢や運動がほぼ消失する、感覚トリックという現象があり、運動感覚連関に関わる神経回路の異常があるといわれてきました。今回の研究は、この考えを裏付け、病態の本質に迫るものです。早く正しく診断し、症状の進行を防ぐために何ができるのか、その点がポイントです。最近は軽症例の患者さんも増えており、診断に有用なマーカ一を見つけることが当面の課題です。


リファレンス

Uehara K, Furuya S, Numazawa H, Kita K, Sakamoto T, Hanakawa T. Distinct roles of brain activity and somatotopic representation in pathophysiology of focal dystonia. Human Brain Mapping 40, 1738-1749, 2019

※Recommended by F1000 Prime:F1000 Primeとは,生物学分野において出版された論文において国際的な研究者の推薦を受けた論文。世界の総論文数のうち数パーセン トがF1000 Primeに推薦される。

研究部紹介