豊かな情報環境は健康寿命を延ばす

豊かな情報環境は健康寿命を延ばす

脳は化学反応によって働く「臓器」であると同時に、
さまざまな情報を処理して心を生み出します。
私たちは、脳の情報処理の側面から、心の病のメカニズムを明らかにして
新しい治療法を開発する〈情報医学〉を提唱し、研究に取り組んでいます。

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神経研究所/疾病研究第七部 本田 学部長

物質を〈生命あるもの〉に変える〈情報〉

人類の遺伝子の進化のゆりかご熱帯雨林で自然環境音を収録
人類の遺伝子の進化のゆりかご熱帯雨林で自然環境音を収録

生物、すなわち〈生命あるもの〉と、単なる物質の寄せ集めとを区別する特徴は何でしょうか?決定的な一つが、〈生命あるもの〉は自分とそっくりの子孫をつくって増殖することができることです。そのためには自分自身の設計図、すなわち情報が必要です。つまり「情報なくして生命なし」と言えます。
また、脳は複雑な情報処理によって心を生み出しますが、それを支えているのは神経細胞のつなぎ目(シナプス)で行われる化学反応です。このように、私たちの身体や脳の中では、物質と情報が表裏一体の関係にあります。
これまで、私たちをとりまく環境を健康面や安全面から評価する尺度(ものさし)としては、環境の中に存在する有害物質や放射線の量など、〈物質〉と〈エネルギー〉がもっぱら使われてきました。しかし、特に環境が脳に及ぼす影響を評価するためには、それらに加えて〈情報〉という尺度が欠かせません。

音環境を豊かにすると健康寿命が延びる

自然環境音を聴かせながら育てたマウスは自然寿命が延びる
自然環境音を聴かせながら育てたマウスは自然寿命が延びる

私たちは、情報環境が動物の健康状態全般に与える影響を明らかにするために、マウスが育つ音環境の違いにより寿命がどう変化するか検討しました。その結果、マウスに自然環境音を聴かせながら育てると、平均寿命が最大17%延長することを世界で初めて明らかにしました。また、環境音の違いにかかわらず、最も長生きしたマウスの寿命はほぼ同じでした。それなのになぜ、平均寿命が延びるのか?実は、同じケージで育てられた個々のマウスの寿命を詳しく調べてみると、自然環境音を聴かせることで、最短寿命が延長し、寿命のばらつきが小さくなることがわかりました。つまり、自然環境音を聴かせながら育てたマウスは、聴かせずに育てたマウスよりも、早死にせずに多くのマウスが元気に老いるため、平均年齢が延びていたのです。音環境を豊かにすることによって、マウス同士の緊張関係が和らぎ、攻撃やいじめなどによるストレスが減ることで、皆が仲良く元気に長生きするようになる、つまり「健康寿命」が延びる可能性が示されました。

音のビタミンの候補 〈ハイパーソニック〉

超高周波を豊富に含む音によって脳幹や視床下部が活性化されるハイパーソニック・エフェクト
超高周波を豊富に含む音によって脳幹や視床下部が活性化されるハイパーソニック・エフェクト

情報環境は人間の脳機能にも大きな影響を及ぼします。進化により人類の遺伝子と脳がつくられた熱帯雨林の自然環境音には、人間が音として感じることのできない20kHz以上の高い周波数成分(超高周波)が豊かに含まれています。しかし、現代都市の環境音にはほとんど含まれていません。こうした超高周波を豊富に含む音環境は、脳のなかで快感を発生させる神経回路を活性化させるとともに、脳幹や視床下部を活性化して免疫力を高めたりストレスホルモンを減少させるなど、さまざまなポジティブな効果をもたらすことがわかっています。この効果はハイパーソニック・エフェクトと呼ばれています。私たちは、先端メディア技術により超高周波を都市の情報環境に補うことにより、うつ病や認知症など心の病を癒やし防ぐ新しい健康・医療戦略〈ハイパーソニック・セラピー〉の開発に取り組んでいます。超高周波は、物質世界のビタミンのように、私たちが健康に生きるために必須の情報かもしれません。


リファレンス

論文
Yamashita Y, Kawai N, Ueno O, Matsumoto Y, Oohashi T, Honda M: Induction of prolonged natural lifespans in mice exposed to acoustic environmental enrichment. Sci Rep  2018年5月21日 オンライン公開
プレスリリース
2018年5月21日付けhttps://www.ncnp.go.jp/topics/2018/20180521.html

研究部紹介