睡眠・覚醒相後退障害の治療プログラム

睡眠・覚醒相後退障害の治療プログラム

  1. TOP
  2. NCNP病院について
  3. 眠りと目覚めのコラム
  4. 睡眠・覚醒相後退障害の治療プログラム

はじめに

2021/8/6

文責:長尾 賢太朗

 今回は、当院の睡眠障害外来に不眠症、閉塞性睡眠時無呼吸の次に多く受診される概日リズム睡眠・覚醒障害の一つである、睡眠・覚醒相後退障害とその治療についてお話します。

このコラムの内容

睡眠・覚醒相後退障害の治療プログラム

1.睡眠・覚醒相後退障害(睡眠相後退症候群)ってどんな病気?

2.どんな人が受診するの?

3.外来での治療について

4.入院治療プログラムについて

5.おわりに


1.睡眠・覚醒相後退障害(睡眠相後退症候群)ってどんな病気?

 睡眠・覚醒相後退障害(delayed sleep-wake phase disorder: DSWPD)は、体内時計が刻む概日リズムに伴ってもたらされる睡眠-覚醒リズムを社会生活で必要とされる睡眠-覚醒リズムにうまく一致させることができず、寝入る時間が遅くなり、起きる時間がそれに伴い遅くなってしまう病気です。これにより、起床困難や日中の過度の眠気を生じ、社会生活が著しく障害されます。
 DSWPDの全人口における時点有病率は0.17%と報告されていますが、比較的若年期に発症する病気です。児童・青年期の有病率は7-16%と報告した調査もあり、児童・青年の社会適応を妨げる重大な障害といえます1),2)
 さらに、DSWPDに精神疾患を併存する方も多く、それらを考慮した治療が必要となる場合もあります。

1) Ana Bら, 2007, Sleep Medicine 8(6): 566-577
2) Alexander Dら, 2018, JARNAL of THORACIC DISEASE 10(Suppl 1): S103-S111


2.どんな人が受診するの?

 当院の睡眠障害外来に実際に受診される人は、

「朝起きられなくて学校(会社)に行けない」
「夜寝られなくて、朝方に寝てしまう」
「睡眠薬を飲んでも寝られないし、起きるのは昼をすぎてしまう」

といったように、昼夜逆転生活を送っている方が多く、中学生から勤労世代まで、様々な年代の方が受診されます。
 いったん後退した睡眠-覚醒リズムを自力で修正することは難しく、慢性的にリズムが後退した生活を送ることで、社会生活に支障をきたし、著しい苦痛をもたらすことが少なくありません。自分のみならず家族や学校の教師、会社の上司が困る場合も多くみられます。


3.外来での治療について

 当院の睡眠障害外来では、

①睡眠日誌と活動量計を用いて実際の睡眠-覚醒リズムを確認し、診断を行います。
②睡眠相が後退している場合には、睡眠-覚醒リズム(内因性概日リズム)の制御に関わるメラトニンを調節する薬剤を用いたり、午前中に体内時計位相の前進効果を有する高照度光(日光)を浴びたり、寝付いた時間によらず起床時間を固定するなど、自宅でも可能なリズム調整法を導入します。

※睡眠日誌については、こちらのコラムもご参照ください。

 外来治療で改善が乏しい場合、当院では入院下で睡眠-覚醒リズムをリセットする3週間程度の治療プログラムも実施しています。


4.入院治療プログラムについて

 入院治療プログラムは精神科病棟で行います。

①睡眠日誌での計測を行い、リズムのずれの評価を行うとともに、病棟スタッフによる客観的な観察・評価も行います。
②高照度光療法(5,000~10,000ルクスの高照度光を毎日決まった時間に2時間浴びる)を行います。
③病棟のスケジュールに合わせて生活することで、睡眠-覚醒リズムを修正します。
④メラトニンを調整する薬剤を用いて、リズムの修正を補助することもあります。

高照度光療法の様子

 これらの入院環境下での介入により、多くの患者さんは、睡眠-覚醒リズムが修正されます。
 しかしながら、睡眠相が後退している背景には、個別の心理・社会的要因も影響していることが多く、それらの問題にも配慮しないと、退院後再度睡眠-覚醒リズムが後退することが予想されます。そのため、上記の治療に加え、心理・社会的要因を個別に評価し、解決の手助けをします。また、入院する病棟には精神科の看護師や作業療法士もおりますので、オーダーメイドに支援することが可能です。
 また、入院で是正された睡眠-覚醒リズムを維持するために、外来診療でも高照度光療法や薬物療法と並行して個別の心理・社会的な背景を考慮した指導を引き続き行います。


5.おわりに

 DSWPDの入院治療プログラムを実施している施設は限られます。お近くに入院治療プログラムを実施している医療機関がなく、当院での入院治療を希望される場合は、まずは当院の睡眠障害外来へご相談ください。入院時期などの相談もお受けいたします。