2021年度市民公開講座~女性特有の睡眠の悩み~②

2021年度市民公開講座~女性特有の睡眠の悩み~②

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はじめに

2022/5/2

文責:河村 葵

 前回に引き続き「女性特有の睡眠の悩み」をテーマにお話しいたします。

 後半部の今回は、以下の「2.女性ホルモンが睡眠におよぼす影響―2) 妊娠中の女性ホルモン変化と睡眠―」からお話しいたします。

このコラムの内容

このコラムの内容

1.はじめに

2.女性ホルモンが睡眠におよぼす影響

1)月経に伴う女性ホルモン変化と睡眠

(↑ここまでは前回のコラム参照)
(↓今回はここから)

2)妊娠中の女性ホルモン変化と睡眠

3)ライフステージにおける女性ホルモン変化と睡眠障害

3.女性特有の睡眠の悩みへの対処法

4.おわりに

2)妊娠中の女性ホルモン変化と睡眠

 妊娠中の約8割の女性が、睡眠の悩みを経験すると報告されています1)。妊娠中は、出産に向け女性ホルモンの血中濃度は増加の一途を辿り、出産直前の女性ホルモンの分泌量は月経時の約10倍ともいわれています。血中プロゲステロン濃度の増加による睡眠と覚醒のメリハリのつきにくさと鎮静作用で、妊娠中は眠気が出やすくなります。また、妊娠による体の変化もこの傾向を助長します。例えば、子宮が大きくなり膀胱を圧迫することによる頻尿や胎動で夜に眠りにくくなります。また、妊娠での代謝の変化による鉄欠乏や肥満などは、睡眠を妨害するむずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害のリスクを高めることが知られています。「眠たいのに眠れない」という辛い睡眠の悩みは、女性ホルモンや体の変化の大きい妊娠後期で強まります2)。出産後はこのような女性ホルモンの変化による睡眠への影響はなくなるものの、今度は夜間授乳などの生活パターンの変化により寝不足を来しやすくなります(図3)。

図3 妊娠中の女性ホルモン変化と睡眠

3)ライフステージにおける女性ホルモン変化と睡眠障害

 女性はライフステージを通してドラスティックな女性ホルモン変動にさらされています。月経が始まる12、3歳頃から女性ホルモンの血中濃度は増加し、閉経に向け45歳頃から急激に減少します。ここまで、プロゲステロンの睡眠に対する負の影響を中心にお話ししましたが、睡眠に負の影響をもたらすのは月経や妊娠におけるプロゲステロンの急激な血中濃度の変化です。プロゲステロン自体は、鎮静作用や呼吸促進作用を持つので、更年期以降にプロゲステロンが欠乏すると、不眠障害や睡眠時無呼吸症候群などへの罹患リスクが増大します2),3)。また、エストロゲンが減ることも不眠障害を来たす一因として考えられています2)。実際に、更年期障害に悩む女性に対するホルモン補充療法は、不眠、睡眠中の覚醒、睡眠の質の改善に有効であると言われています2)(図4)。

図4 ライフステージにおける女性ホルモン変化と睡眠障害

3.女性特有の睡眠の悩みへの対処法

 睡眠に影響が出やすい月経前や妊娠中は、睡眠の悩みとストレスの悪循環を作らないよう、過度なストレスを避けるようにしましょう。月経周期をご自身で記録しておくなど、睡眠の変化が起こりやすい時期を把握して、月経前や妊娠中は余裕のあるスケジュールを立てるようにしましょう。

 プロゲステロンの影響により、睡眠と覚醒のメリハリがつきにくい時期である月経前や妊娠中は、体内時計などの体内の他のシステムを使って睡眠と覚醒のメリハリをつけるよう、工夫しましょう。これには、睡眠衛生を整える睡眠12箇条が重要な指針となります。特に、朝の日光浴、夜の光曝露の回避、日中の運動、温浴、短い昼寝などを工夫し、睡眠と覚醒のメリハリがある生活を心掛けるようにしましょう。

 また、月経や妊娠による鉄欠乏は、むずむず脚症候群の原因になることがあります。むずむず脚症候群は、脚のむずつきや不快感により眠りが妨害される睡眠障害です。鉄分を多く含む肉や魚のような動物性食品と、鉄分の吸収率を高めるビタミンCを意識的に摂取するようこころがけましょう。


4.おわりに

 今回は、女性特有の睡眠の悩みについてそのメカニズムと対処法をご紹介しました。ご紹介したような対処法を行った上でも、生活の妨げになるような睡眠の悩みが続く場合は、鉄分補充では改善が困難なむずむず脚症候群、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、更年期障害などの治療を要する疾患が隠れていることもありますので、当院の睡眠障害外来へご相談ください。

参考文献
1) Miller MA, Mehta N, Clark-Bilodeau C, Bourjeily G. Sleep Pharmacotherapy for Common Sleep Disorders in Pregnancy and Lactation. Chest. 2020 Jan;157(1):184-197. doi: 10.1016/j.chest.2019.09.026. Epub 2019 Oct 14.
2) Pengo MF, Won CH, Bourjeily G. Sleep in Women Across the Life Span. Chest. 2018 Jul;154(1):196-206. doi: 10.1016/j.chest.2018.04.005. Epub 2018 Apr 19.
3) Brown AMC, Gervais NJ. Role of Ovarian Hormones in the Modulation of Sleep in Females Across the Adult Lifespan. Endocrinology. 2020 Sep 1;161(9):bqaa128. doi: 10.1210/endocr/bqaa128.