筋ジストロフィー

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筋ジストロフィーとは

筋ジストロフィーは、筋肉の筋線維の壊死、再生を主な病変とし、進行性の筋力低下を認める遺伝性疾患です。この中には、Duchenne型、Becker型、肢帯型、顔面肩甲上腕型、先天型、Emery-Dreifuss型などの多くの疾患が含まれます。いずれの型も筋線維に必須な構成タンパク質が作れず、筋線維が変性し、壊れやすくなることで、筋力低下、筋萎縮が生じ、運動機能障害をもたらします。疾患により、症状の経過や合併症も異なりますので、正確な病型診断を行い、各疾患の症状を見越してのフォローアップが必要となります。診断には保険収載され、遺伝学的検査による診断が可能な疾患もありますが、筋生検が必要な例も少なからずあります。

筋ジストロフィーの症状

筋力低下、筋萎縮が生じることにより、運動機能障害が生じることが主な症状になります。筋肉の機能に関わる構成タンパク質の障害部位により病型が異なり、その病型により症状の経過、合併症が異なります。

デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー

3~5歳で転びやすい、走れないことで発症します。5歳頃に運動能力のピークをむかえ、以後、症状が進行し、10歳頃に車椅子生活となります。その後、合併症として、10歳以降に呼吸不全、心筋症、側弯を認めることが多いです。発熱などの別目的で採血をした際に偶然に高クレアチニンキナーゼ血症が見つかり診断に至る例もあります。
ジストロフィン遺伝子変異が原因となる遺伝子で、原則男児に発症します。全エクソンの欠失・重複が判定できるMLPA (Multiplex Ligation Probe Amplification) 法は保険適応されています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの約70%の患者さんは、この遺伝子診断が可能です。

ベッカー型(Becker)型筋ジストロフィー

原因となる遺伝子は上述のデュシェンヌ型筋ジストロフィーと同様で、ジストロフィン遺伝子の変異により発症します。デュシェンヌ型と同様に男児に発症します。筋力低下の症状は、デュシェンヌ型よりも高い年齢で出現するとされますが、ほとんど筋力低下の認めない例もあります。呼吸障害、心筋症も同様に合併症として認めることがありますが、デュシェンヌ型に比べて筋力低下が軽いため、心臓に対する負荷が増し、心筋障害が問題となることも多いです。

肢帯型筋ジストロフィー

肩甲帯、腰帯、四肢近位部の筋障害がある疾患で、デュシェンヌ型、ベッカー型、先天型などの他の筋ジストロフィー以外のものを総称したものです。原因は多岐にわたり、遺伝子異常にもとづいた疾患単位ごとに病型が付されています。発症は小児から成人まで幅広く、病型ごとで生じやすい呼吸障害、心合併症などの症状も異なってきます。そのため正確な診断を行うことが、日常生活、ケアを行っていくうえでも重要です。

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー

顔面と肩甲骨周囲の筋の障害が著明で、ゆっくりと進行してきます。乳児期から成人期での発症と時期は様々ですが、10歳代頃から腕が上がりにくい、表情が乏しいなどの顔面の筋力低下、といったことをきっかけとして、受診し診断されることが多い疾患です。左右差を認めることもあります。心筋障害はみられず、呼吸筋も保たれる方も多いですが、時に呼吸補助を必要とする方もいます。

先天性筋ジストロフィー

乳児期より発症するタイプは先天性筋ジストロフィーとして分類されます。肢帯型筋ジストロフィーと同様、原因は多岐にわたり、遺伝子等の原因により幾つかの疾患に分けられます。筋細胞膜周囲の分子構造は、デュシェンヌ型、ベッカー型の病因となるジストロフィンに結合する細胞膜貫通糖蛋白であるジストログリカン、このジストログリカンと糖鎖を介して連結するメロシン(ラミニンα2)、さらにメロシンは基底膜基質蛋白であるVI型コラーゲンと結合します。このジストログリカンへの糖鎖付加に関係するフクチンという酵素が原因で発症する疾患が福山型先天性筋ジストロフィーで、先天性筋ジストロフィーの中で多数を占めます。また、VI型コラーゲンの欠損によって発症するUllrich型先天性筋ジストロフィー(またはBethlem型:より軽症の型)は、福山型に次いで多いことが知られています。福山型の多くの例は遺伝子診断が可能です。他の型では、筋生検による診断が必要となります。

筋ジストロフィーの治療

筋疾患の多くはゆっくりと進行し、現在でも根本的な治療法のない難しい病気です。疾患ごとで伴いやすい合併症は異なりますので、それらの症状を見越した診療やケアを行うことは日常生活を大きく改善します。理学療法、呼吸リハビリテーション、非侵襲的換気療法(鼻マスク人工呼吸)、デュシェンヌ型などの場合では、ステロイド療法などの支持療法は少しずつ確実に進歩しています。疾患の存在を早く前向きにとらえ、遺伝子治療や再生医療が実現可能な時代に備えた、診療、ケアを受けることは非常に重要です。

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