多発性硬化症・視神経脊髄炎

多発性硬化症・視神経脊髄炎

  1. TOP
  2. 患者の皆様へ
  3. 多発性硬化症・視神経脊髄炎

多発性硬化症・視神経脊髄炎とは

多発性硬化症は特定疾患に指定されている神経難病の一つです。複数の中枢神経障害による多彩な症状の出現(=再発)と消退(=寛解)を繰り返すという臨床的特徴をもった患者さんの脳病理組織において硬化した病変が多発性に散在していたことから多発性硬化症と命名されたのですが、現在は本来外敵から身を守るための免疫システムに破綻が生じた自己免疫的機序によって起こる神経免疫性疾患であるということが遺伝子的解析から明らかになり、免疫学や分子生物学の立場で研究が進み、様々な治療法が開発されています。
視神経脊髄炎は日本では多発性硬化症の一部として認識されていましたが、治療への反応性が違うことと抗AQP4抗体や抗MOG抗体が陽性となることが判明してからは免疫学的・病理学的にも多発性硬化症とは異なる疾患と考えられるようになってきました。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の症状

いずれも脳~脊髄に及ぶ中枢神経系の障害によって、視力・視野障害・眼痛・霧視、眼球運動障害(複視、遠近感低下など)、感覚異常(感覚低下・感覚過敏、しびれ、痛みなど)、筋力低下・運動麻痺、言語障害、起立・歩行障害、ふらつき・眩暈、膀胱直腸障害、記憶障害・集中力低下、倦怠感、易疲労性など多彩な症状を呈し、症状の再発と寛解を繰り返すことが特徴です。
多発性硬化症では症状が比較的軽度な場合が多いものの、再発を繰り返していく内に完全には寛解せず次第に後遺症を残して車椅子生活になってしまう方もいます。欧米では5~10年で60~80%程度の患者さんがこのような進行型の経過をとるのに対し、日本では10%ほどに留まります。
視神経脊髄炎ではあまり進行型の経過を呈さないものの、症状が高度な場合が少なくなく、両眼の高度視覚障害、強い四肢・体幹の疼痛や麻痺、嚥下障害が生じることがあります。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の疫学

多発性硬化症は世界的にも日本でも緯度の高い地域ほど頻度が高いとされています。日本では10万人あたり10人程度で約1万8000人、欧米では10万人あたり50~200人程度で世界中に約300万人の患者さんが存在していますが、15~40歳の比較的若い年代に起こりやすく、やや女性に多い(1.2~1.5倍程度)という特徴があります。
視神経脊髄炎は欧米でも日本を含めたアジアでも10万人あたり1-3人程度で患者さんが存在し、あまり地域差がないとされていますが、多発性硬化症に比べ10歳程年齢が高く、圧倒的に女性に多い(ほぼ9割)という特徴があります。
世界中で主要な疾患の遺伝的素因を調査した研究により多発性硬化症に関しては自己免疫疾患に関する遺伝子の関与が複数指摘されていますが、それぞれの遺伝子が関与する割合はわずかでそれらが複数合わさってもせいぜい30%未満であり、むしろ残り70%程度をなす環境要因の方が大きいとされています。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の病態

いずれも神経細胞を保護するグリア細胞が障害されることで神経細胞の軸索を取り巻くミエリンとよばれる電線の鞘がはがれる(=脱髄)ことで神経細胞の機能が阻害されますが、神経細胞が直接には障害されないので通常は可逆的に回復します。多発性硬化症ではミエリンを形成するオリゴデンドログリアが障害されますが、視神経脊髄炎では神経細胞の電池ボックスの役割を果たすアストログリアが障害されてから脱髄が起こります。
多発性硬化症では緯度の高い地域ほど頻度が高いことから日照時間やビタミンD摂取量の問題が想定され、ウイルス感染が契機となることも想定されていますが、昨今の患者数の増加は食生活などのライフスタイルや衛生条件の変化に伴う腸内細菌の組成変化による免疫のバランス変化が大きく関与するといわれています。いずれの疾患でもストレスや疲労、発熱、出産、低気圧などでは免疫バランスが崩れるため症状が悪化しやすいという傾向があります。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の診断

鑑別を要する疾患は多岐にわたり、神経内科医による神経所見の診察と各種検査(髄液検査、血液検査、電気生理学的検査、画像検査など)から総合的に判断します。近年神経内科のある病院が増え、MRIによる画像検査が発達して診断率は上がっていますが、特に必ずしもすべての再発が画像や髄液検査で捉えられる訳ではないため、病歴と診察による評価が重要となります。
近年研究が進み、基本的には脱髄疾患でありながら実際は初期においても神経細胞と軸索はいくらか障害され、再発の度に障害度が蓄積するということが明らかになってきており、出来るだけ早期の発見と治療が後遺症を最小限にするために必要となってきます。
現在では症状の程度や画像での変化で疾患活動性が評価されますが、最近では髄液のみならず血液で評価するマーカーが様々な研究施設で検討されています。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の治療

発症期や再発期(=急性増悪期)と安定期(慢性維持期)に大別して治療します。急性増悪期には炎症による症状の悪化を抑えるためにステロイドパルス療法を行いますが、治療反応性が悪い場合には血液浄化療法などを行うこともあります。視神経脊髄炎や非典型的な多発性硬化症の場合はこの傾向が強く、早めの血液浄化療法に移行することが推奨されます。慢性維持期には再発・進行抑制の目的で、多発性硬化症に対しては1stライン治療としてインターフェロンβ製剤(ベタフェロンアボネックス)とコパキソンおよびテクフィデラが、2ndライン治療としてタイサブリフィンゴリモドが現在保険承認されています。それぞれに作用機序の違いによる有効性の違いと副作用があり、疾患活動性とリスクを考慮した上で使用されています。視神経脊髄炎に対して保険承認された薬剤はまだなく、現状では少量ステロイド単独か免疫抑制剤との併用で維持することが主流ですが、いずれの疾患に対しても再発抑制・進行防止、耐久性改善のための薬剤が開発・治験中です。

当院での診療

当センター病院では現在5名のエキスパートがおり、毎週定期的にカンファを開いて病棟主治医と治療方針を議論し、神経研究所免疫研究部の支援を受け海外の一流機関とも交流を密にして最新の研究成果を患者さんに還元できるように努めています(神経研究所免疫研究部のホームページへ)。早期治療のため再発時のステロイドパルスリンデロン内服パルスを外来で行い、反応性の悪い場合には積極的に血液浄化療法などを行うようにし、進行型を含めた難治性の症例に対して各種治療の選択を試みています。また視神経脊髄炎においては、トシリズマブ(アクテムラ)による治療を行っており、これまでの治療では不十分だった疼痛や疲労緩和にも有効であることを示しています。 また痛みやしびれの後遺症のため、不眠、抑鬱などの症状が現れることもあります。当院では従来軽視されがちなこのような症状に対してもできるだけきめ細かく対応し、患者さんのQOLを向上させるように努めています。

多発性硬化症・視神経脊髄炎の今後

免疫学の世界では近年様々な種類の炎症性細胞が同定され状況によって別の炎症性細胞に移行するという可塑性を有して自己免疫疾患の病態に関与し、さらにそれらを抑える制御性細胞 とともに複雑なネットワークを形成していることが明らかになり、一部の疾患では制御性細胞の数の減少や機能の低下または炎症性細胞への変化が疾患の発症や進行の原因であるということも分かってきました。昨今では再発寛解型のみならず二次進行型の病態解明が進み、新たな視点での研究と治療法の開発が進んでいます。当センターでも免疫研究部での発見に基づき、新たな経口剤が臨床治験中であり、二次進行型の病態に強く関連する疾患マーカーの臨床応用を検討中です。 近い将来、患者さん個人個人の特徴に応じた特異的で副作用の少ないオーダーメイド治療が可能となると思われます。

NCNP病院の診療科・専門疾病センター