チック症・トゥレット症
チックとは
チックは、思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声です。まばたきや咳払いなどの運動チックや咳払いや鼻すすりなどの音声チックが一時的に現れることは多くの子どもにあることです。多くの場合には、そのまま軽快します。
しかし、症状が治まったチックが再び出現し、強まったり、より複雑な動きや発声がみられたり、ということを繰り返しながら、多彩な運動チック、音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになることもあります。その場合にはトゥレット症とよばれます。
トゥレット症は、典型的には、4〜6才に症状が出現し、症状は10〜12歳ぐらいに一番強くなり、成人になると改善するという経過をとりますが、成人期になっても強い症状が持続していたり、成人期になってからの方が悪化するという場合もあり、経過は多様です。
トゥレット症の症状の現れ方は、そのときどきの緊張度によって異なるため、ストレスや厳しい子育てによる心理的な原因で現れると「誤解」されることがあります。トゥレット症は、体質的な疾患で、脳の働き方の違いによって起こるものです。トゥレット症は、人口1000人あたり3〜8人に認められ、男性のほうが女性より2〜4倍多く見られます。
トゥレット症の症状
トゥレット症の運動チックでは、首を激しく振る、顔や顎を叩く、座っているときや歩いているときに飛び上がる、腕を自分の体幹に叩きつける、歩いているときにしゃがむ、地面を強く踏みつける、おなかに力をいれる、「うっ」という発声だけでなく、甲高い声や大きなうなり声、単語をいうなどの複雑な発声を伴うこともあります。また、触ってはいけないと思うとそのものを触ってしまう、壊してしまう、自分が決めた回数だけ行動を繰り返さなければならない、ぴったりした感じがするまで音を出したり座り直したり、持ち直したりするといったような強迫的行動を伴うこともあります。
トゥレット症は、体質的なチックで、その症状を抑制することはごく短時間しかできません。チックが起こる前には、喉が締め付けられるような感じ、体にエネルギーがこみ上げる感じ、体の一部にむずむずとした感じが起こったり、体の特定の場所に力を入れたり、自分に痛みを与えずにはいられないような衝動を感じたりすることがあります。
トゥレット症の症状が年齢によって変化することはすでに述べましたが、それぞれの1年のなかでも1ヶ月〜数ヶ月という単位で時期によって症状に波があります。また、1日のなかでも緊張しているときや緊張がほぐれたとき、疲れが現れたときには症状が強まるなど、症状の現れ方に違いがあります。
トゥレット症の治療
チックが現れそうな衝動が起こったときにチックと拮抗するような動き、すなわち、チックの動作と反対であったり、チックの動作とは同時には行えないような動きをする行動療法(ハビットリバーサル)や薬物療法が実施されます。トゥレット症に有効性が認められた薬(承認薬)は日本にはありませんが、アリピプラゾールやリスペリドンなどの統合失調症の薬が有効であることが知られています。そのほかにも、漢方薬、クロナゼパム(抗てんかん薬)、αアゴニストと呼ばれるタイプの高血圧治療薬が用いられることがありますが、統合失調症の薬に比べると効果は弱いものです。
成人期になってからも重篤な症状が持続し、重篤な身体損傷を伴うこともあります。複数の統合失調症治療薬による薬物療法を実施しても、効果が限定的あるか副作用のために治療を継続できず、運動チック、音声チックともに重篤な症状が持続する場合には脳深部刺激療法(DBS)が実施されることがあります。