第10回「てんかん」という言葉について改めて考える

第10回
「てんかん」という言葉について改めて考える

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僕は子どもの頃から文学が好きなので、今回は「てんかん」という言葉に関して僕が日々のてんかん診療の中で感じていることを書かせていただこうと思います。

脳卒中とか胃潰瘍といった具体的な病気に比べて、てんかんという言葉を聞いてもどんなものかイメージしにくいと思います。「泡を吹いて倒れる病気」と漠然と思っている人が多いかもしれません。僕が初めて「てんかん」という言葉に出会ったのは、高校3年生の時に読み始めた大江健三郎の『燃え上がる緑の木』という小説でした。大江健三郎先生の息子さんがてんかんを持っていて、大江健三郎の小説にはよくてんかんが登場します。この小説の中では「てんかん」を「転換」のメタファーとして用いていて、当時の自分は全く理解できなかったのを覚えています。他に文学の世界ではドストエフスキーがてんかんを持っていたことが有名です。また、3月26日はパープルデーというてんかん啓発キャンペーンの日ですが、僕が好きな源氏物語の作者・紫式部も、“紫”=パープルでてんかんとつながりがあると言ってもいいのでは? と勝手ながら思っています。

「てんかん」は平仮名で書かれることが多いですが、漢字では「癲癇」と書きます。中国語から来た言葉で、かなり古くから中国にも癲癇という言葉があり、病気と認識されていたことがわかります。英語では「Epilepsy」ですが、Epiは「上・天」を意味する言葉で、天から突然降ってくるように発作が起きるイメージから発生した言葉のようです。Epilepsyはギリシャ時代からある言葉とされています。

「てんかん」という言葉ですが、特定の病気を指す言葉ではなく、「脳の細胞が突然、異常に興奮してしまう。それが誘引なく不定期に起きる。」という現象を指す言葉です。このてんかんという現象によって起きる発作が「てんかん発作」です。てんかんという現象が共通していますが、なぜてんかんが起きるのか(=原因となっている病気)や、それによって引き起こされる発作の症状は多様で、患者さんの数だけあります。発作の症状を大きく分けたものが国際抗てんかん連盟の「発作型分類」で、まず「全般発作」と「焦点発作」に分かれ、さらにその中でたくさんの種類に分けられています。

「てんかん」という言葉だけに引っ張られすぎず、患者さんそれぞれのてんかんの「原因」とてんかんの「発作型」を、正しく理解していくことが重要です。

文責:飯島圭哉(脳神経外科)