DMDモデルマウス―「mdxマウス」「mdx52マウス」
核酸医薬はその標的とする臓器に適切にデリバリーされる必要があり、様々な化学修飾やアデノ随伴ウイルスベクターによるドラッグデリバリーシステム(drug delivery system:DDS)の開発が進められています。 これらのDDSの評価は、従来の方法では各臓器を採取し、それらを生化学的に解析するという手法が取られていました。 この手法は、同一個体での経時的な観察ができないばかりか、手技が煩雑であるためスループットが低いという問題点がありました。 我々はエキソン・スキップを誘導する核酸医薬のDDSを効率的に評価するため、核酸医薬によってmdx型エクソン23のスキッピングが誘導された場合にのみEGFP蛍光を検出するようなレポーターマウスを開発しました。 このレポーターマウスを評価に用いることによってより効率的かつ経時的に核酸医薬のデリバリーとエキソン・スキップの評価を行うことが可能になりました。
筋ジストロフィーモデルイヌ―「CXMDJ」
筋ジストロフィー犬(筋ジス犬)はDMDの責任遺伝子であるジストロフィン遺伝子に変異があり、全身骨格筋の筋萎縮、関節拘縮、脊柱背彎、および嚥下障害などの臨床症状を示します。 そのため、筋ジス犬はDMDの病態研究や治療研究に用いられています。 また近年、中枢神経系におけるジストロフィンタンパク質の機能が注目されており、我々はイヌ用行動評価系を立ち上げ、筋ジス犬を対象とした行動表現型の解析を行っています。 これにより、脳におけるジストロフィンの機能を解明し、中枢神経症状の新たな治療法の開発を目指しています。
CXMDJ由来筋細胞株の樹立
エクソンスキッピング研究では高効率な効果を目指した新しいオリゴ核酸やその誘導体を設計しますが、実際の効果や安全性の検証に重要なのが培養細胞を用いたスクリーニングです。 これを効率良く、しかも安定的に行うため、私たちはイヌの筋細胞株を樹立しました。 これらは筋ジス犬(CXMDJ)と正常犬から採取した筋芽細胞にサイクリン依存性キナーゼ4(Cdk4)とテロメラーゼ逆転写酵素を導入して作製され、優れた増殖性を示すと同時に再現性良く筋分化を誘導することができます。 これらの細胞株を用いて解析したところマルチ・エクソン・スキップでは合成核酸に細胞膜透過性ペプチドを結合させる方法で著しい効果が得られることが明らかとなりました (Tone Y et al., Nucleic Acid Ther. 2021)。
筋ジストロフィーモデルマイクロミニブタ
ブタは解剖学的・生理学的に多くの点でヒトに類似しており、遺伝子操作を行えることから疾患モデル動物としての応用が注目されますが、その大きさ故に使い難いという欠点がありました。 そこで当研究部では静岡県畜産技術研究所と九州大学と共に世界最小の実験用ブタであるマイクロミニピッグを用いたDMDモデルを開発しました。 このブタは全長型ジストロフィンを欠失し、骨格筋と心筋に組織学的異常を示すだけでなく明瞭な臨床症状を示します。 イヌの施設でも飼育できることからより多くの研究者が利用できる有用なDMDモデル動物になると期待されます。