デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬(NS-065/NCNP-01、ビルトラルセン)の製造販売承認について

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令和2年3月27日
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
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デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬(NS-065/NCNP-01、ビルトラルセン)の製造販売承認について



 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(小平市理事長:水澤英洋、以下、NCNP)は、2020年3月25日に、日本新薬株式会社(本社:京都市、社長:前川重信、以下、日本新薬)と共同で見出したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)※1の治療薬(NS-065/NCNP-01、ビルトラルセン※2)について、日本新薬が厚生労働省から製造販売の承認を受けたことをお知らせします。

 NS-065/NCNP-01は、NCNPと日本新薬の共同研究を通して創製されたエクソン・スキップ作用※3を有する核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子※4のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有するDMD患者に対する治療薬として開発されました。
 NCNPは、日本医療研究開発機構(AMED)研究費、厚生労働科学研究費等の公的支援を受け、基礎研究から臨床応用に至るまでNS-065/NCNP-01の研究開発を継続的に行ってきました。NS-065/NCNP-01を初めてヒトに投与する治験(First in human試験)は、NCNPによる医師主導治験(UMIN: 000010964、ClinicalTrials.gov: NCT02081625として登録)として実施されました。DMDのように患者数が少ない希少疾患においては、被験者の集積の困難さにより治験実施に長期間を要しますが、本医師主導治験においては、NCNPが構築した神経・筋疾患のナショナルレジストリー(Remudy)※5を用いて、効率的に被験者を集積することができました。以上の結果等を踏まえて、共同開発先である日本新薬による企業治験が実施され、今般、医師主導治験※6及び日本新薬が実施した治験の成績に基づき、厚生労働省からNS-065/NCNP-01の製造販売の承認を受けました。
 DMDに対して現在本邦で行われている標準治療法は、進行を遅らせるステロイド剤以外では、脊椎変形に対する手術治療、理学療法、呼吸補助及び心不全対策等の対症療法のみです。NS-065/NCNP-01は日本で初めて実用化されるエクソン・スキップ治療薬であり、エクソン53スキッピングの治療対象になるDMD患者のジストロフィン産生を回復させることにより、疾患の進行を抑制するとともに疾患の状態を改善することが期待されます。
 NS-065/NCNP-01の開発は、世界に先駆けて日本で進められており、厚生労働省の先駆け審査指定制度※7及び「エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているデュシェンヌ型筋ジストロフィー」を対象にした希少疾病用医薬品※8の指定を受けています。また、今般の承認は、条件付き早期承認制度※9の適用を受けたものであり、今後、製造販売後に、日本新薬が実施するDMD患者を対象にした第Ⅲ相試験※10及びレジストリーを用いた製造販売後調査※11により、更なる有効性及び安全性の検証を行っていくことになります。NCNPは、開発に引き続き、Remudy等のレジストリーを用いてNS-065/NCNP-01の製造販売後の安全性及び有効性の評価にも貢献していきます。
 順調に本治療薬の開発を進められましたのは、ひとえにご協力を頂きました患者の皆さまとそのご家族のご協力のお陰です。この場を借りて深く御礼を申し上げます。

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■助成金
NS-065/NCNP-01の開発は、以下の助成を受けています。
・日本医療研究開発機構(AMED)研究費
  平成27-28年度臨床研究・治験推進研究事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン53スキップ治療薬による早期探索的臨床試験」
  平成27年度障害者対策総合研究開発事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の臨床開発に資するバイオマーカーの探索」
  平成28年度難治性疾患実用化研究事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の臨床開発に資するバイオマーカーの探索」
・厚生労働科学研究費
  平成24-26年度医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
  平成23-25年度障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)
  平成26年度障害者対策総合研究開発事業(神経・筋疾患分野)
・国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費


■用語説明
※1 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
 DMDは男児に発症するもっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の骨組みを作るタンパク質の遺伝子変異により、正常なジストロフィンが作られなくなることで、重篤な筋力低下を示します。現在、その進行を遅らせるステロイド剤以外に有力な治療法は存在しません。

※2 NS-065/NCNP-01(ビルトラルセン)
 モルフォリノ化合物で合成されたアンチセンスと呼ばれる核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有する、DMD患者を対象に開発されました。核酸医薬品は遺伝子の構成成分である核酸と類似した構造を持ち、特定の遺伝子配列を標的として、その遺伝子から作られるタンパク質の産生を調節することで作用します。核酸医薬品により従来の低分子医薬品では難しかった疾患の治療が可能になると期待されています。

※3 エクソン・スキップ作用
 アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸の読み取り枠のずれを修正する治療法です。正常なジストロフィンタンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できます。この治療の対象になるエクソンは、患者の変異形式に応じて異なり、NS-065/NCNP-01は、エクソン53を対象にしています。

※4 ジストロフィン遺伝子
 ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィン・タンパク質)の遺伝子のことです。

※5 神経・筋疾患のナショナルレジストリーRemudy(Registry of Muscular Dystrophy)
 希少疾患の治療法開発や創薬には、正確な疫学情報と臨床試験の参加者を速やかに集める仕組みが必要です。その仕組みとして、NCNPは、2009年に神経・筋疾患を対象とするナショナルレジストリー「Remudy」を開始しました。Remudyは患者と製薬関連企業・研究者との橋渡しをする登録システムであり、円滑な臨床試験の実施を可能にするとともに、患者へタイムリーに研究や臨床試験に関する情報を提供しています。

※6 医師主導治験
 治験は「新薬の申請資料作成のための臨床試験」と定義されますが、治験には製薬企業が医療機関に依頼する治験と、医師自らが企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験の二種類があり、後者を医師主導治験と呼びます。たとえば、採算性やリスク面から製薬企業が治験を行わない場合や、先端医療などの新規の治療法であるために効果が未知であることから企業が治験実施に消極的な場合等に、医師主導治験が実施されることがあります。

※7 先駆け審査指定制度
 有効な治療法がなく命に関わる疾患に対し、世界に先駆けて革新的医薬品等を日本発で早期に実用化すべく、国内での開発を促進する制度です。本制度の目的は、薬事承認に関する相談・審査で優先的な取扱いをすることで、日本における承認審査の期間を短縮することです。

※8 希少疾病用医薬品の指定制度
 従来、難病、エイズ等を対象とする医薬品や医療機器は、医療上の必要性が高いにも関わらず、患者数が少ないことにより、本邦では十分にその研究開発が進んでいない状況にありました。こうした状況を踏まえ、これらの試験研究を促進するための特別の支援措置として希少疾病用医薬品等の指定制度が創設されました。対象となる患者数が本邦において5万人未満であること、医療上特にその必要性が高い等の条件に合致する医薬品等について、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定するものであり、助成金の交付、厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)及び医薬基盤・健康・栄養研究所による指導・助言、優先的な審査等の支援措置を受けることができます。

※9 条件付き早期承認制度
 重篤な疾患であって有効な治療法が乏しく患者数が少ない疾患等を対象とする医薬品について、検証的臨床試験以外の臨床試験等で一定程度の有効性及び安全性を確認し、更に、製造販売後に有効性・安全性の再確認等のために必要な調査を実施する等の承認条件を付与した上で、当該医薬品を承認する制度です。当該医薬品について、我が国での治験実施が困難である(あるいは治験の実施にかなりの長時間を要すると認められる)、医療上の有用性が高いと認められる等の条件を満たした場合に適用されます。本制度が適用された医薬品の承認条件については、基本的には再審査時に確認されることになります。

※10 第Ⅲ相試験
 一般的に、医薬品開発においては、通常3つのステップ(相)を踏んで治験が進められます。初めに、少人数の健康成人や患者において、ごく少量から少しずつ医薬品の安全性を確認する第Ⅰ相試験が実施されます。次に、医薬品が効果を示すと予想される比較的少人数の患者において有効性及び安全性、投与方法等について検討する第Ⅱ相試験が実施されます。続いて、最終的に、多数の患者において医薬品の有効性及び安全性、投与方法を確認するのが第Ⅲ相試験です。

※11 製造販売後調査
 第Ⅲ相試験が実施され、医薬品が世の中に出た後も、様々な医療機関で多くの患者に使われることによって、開発段階では発見できなかった副作用や適正な使い方につながる情報が得られることがあります。通常、医薬品の販売後には、発売後の安全性や使用方法を確認するための製造販売後調査が実施され、そこで得られた情報を元に、より安全な医薬品の使い方等が検討されます。

【お問い合わせ先】

≪研究に関すること≫
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 理事
武田 伸一(たけだ しんいち)
TEL: 042-346-3595
e-mail: baba(a)ncnp.go.jp

≪報道に関すること≫
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
住所:〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
TEL : 042-341-2711 (代表) / FAX: 042-344-6745
E-mail: ncnp-kouhou(a)ncnp.go.jp

≪AMED事業に関すること≫
日本医療研究開発機構 (AMED)
戦略推進部脳と心の研究課
E-mail:brain-d(a)amed.go.jp

戦略推進部難病研究課
E-mail:nambyo-info(a)amed.go.jp

臨床研究・治験基盤事業部臨床研究課
E-mail:rinsho-crt(a)amed.go.jp