希少疾患であるSENDA/BPANの診断として小児期のMRI画像が有効であることを世界で初めて明らかに

希少疾患であるSENDA/BPANの診断として小児期のMRI画像が有効であることを世界で初めて明らかに

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2018年5月30日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(広報係)

希少疾患であるSENDA/BPANの診断として
小児期のMRI画像が有効であることを世界で初めて明らかに

 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)病院(院長:村田美穂)小児神経診療部 佐々木征行部長および石山昭彦医長、放射線診療部 佐藤典子部長、神経研究所(所長:和田圭司)疾病研究第一部 西野一三部長らのグループは、脳内の鉄沈着異常症であるNBIA (Neurodegeneration with brain iron accumulation)の一型のSENDA (Static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood) / BPAN (β-propeller protein–associated neurodegeneration)における小児期の頭部MRI画像の特徴として、淡蒼球、黒質の対称性の腫大、高信号が一過性に出現することを世界で初めて見いだしました。
 具体的には、幼児期における発熱時の痙攣の際に撮像した頭部MRI画像で、T1強調画像で等信号、T2強調画像で高信号を呈する、淡蒼球、黒質の対称性の信号異常と腫大を一過性に認める3例がありました。当初、痙攣重積や群発を認め、MRI画像に異常所見なども認めたことから、急性脳症や先天代謝異常症も疑いました。そのため次世代シークエンスによる遺伝子解析を行ったところ、それらの患児に中枢神経、特に淡蒼球、黒質に異常な鉄沈着をきたす神経変性疾患NBIAの一型であるSENDA/BPANの原因遺伝子WDR45変異があることを同定しました。本疾患がNBIAの一型であることから、さらにMRIで定量的な磁化率の解析である定量的磁化率マッピングQSM (Quantitative susceptibility mapping )解析を行ったところ、淡蒼球、黒質への鉄沈着が確認され、SENDA/BPANの診断に矛盾がないことを証明したのです。
 SENDA/BPANは、NBIAの一型で、近年、新たに提唱されてきた疾患です。とくに成人期になると、20~30歳代でジストニア、パーキンソニズムが発症し、頭部MRI画像においても淡蒼球、黒質に鉄沈着を反映した所見(T1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号)を呈してくることが知られています。これまでは、小児期においては非進行性の精神運動発達遅滞を認めるのみで、臨床症状や検査所見では特徴的な所見を示さないとされてきました。しかし、今回、本研究グループは、淡蒼球、黒質の一過性のT2強調画像での高信号が、SENDA/BPANの小児期の特徴的画像所見であることを見いだし、この所見をみた際には、脳内の鉄沈着異常症であるSENDA/BPANを鑑別として考える必要性があることを新たに示しました。この画像所見は本疾患をみる機会のある小児神経領域のみならず、急性脳症を診療する機会のある一般小児科領域においても有用性の高い知見であると考えられます。
本研究成果は、日本時間2018年4月25日に科学雑誌「Neurology」オンライン版に掲載されました。
■研究の背景・経緯
 NBIAとは中枢神経における鉄沈着が生理的範囲を超えて沈着してくる疾患群で、幾つかの病型が知られています。SENDA/BPANはNBIAの一型で、近年(2010年前後)、新たに提唱されてきた病型です。小児期から精神運動発達遅滞が認められるものの、数十年間は非進行性に経過するため、小児期では脳性麻痺や原因不明の発達障害と診断されている例も多いと言われています。一方、成人期では、20~30歳代になるとジストニア、パーキンソニズムが発症し、頭部MRI画像においても淡蒼球、黒質に鉄沈着を反映した所見を呈してくることも知られています。しかしながら、これまで小児期では、非進行性で特徴的な臨床症状はなく、検査所見においても頭部MRI画像を含め特徴的な所見を示さない、とされてきました。
 SENDA/BPANについては、2013年にオートファジーの調整因子であるWDR45の遺伝子変異があることが見いだされ、オートファジーの異常により神経変性が生じてくることが明らかになってきました。しかしながら、小児期の非進行期の病態や臨床的特徴については未解明な部分が多いのが現状でした。
■研究の内容
 そこで、本研究グループは、当院小児神経科に通院中の患児で、幼児期に発熱に伴い時に痙攣重積、痙攣群発をきたした3例患児において、痙攣後に頭部MRI画像を撮像しました。すると、淡蒼球、黒質の対称性の腫大、高信号を一過性に認めました(参考図)。頭部MRI画像のほか、ウイルス検査、細菌培養検査、乳酸、ピルビン酸や代謝異常といった種々の検査を行いましたが、いずれの検査においても異常所見を認めなかったことから、神経疾患の可能性を疑い、次世代シークエンス解析を行うこととなりました。その結果、中枢神経とくに淡蒼球、黒質に異常な鉄沈着をきたす神経変性疾患NBIAの一型であるSENDA/BPANの原因遺伝子WDR45変異を同定したのです。本疾患がNBIAの一型であることから、さらにMRIで定量的な磁化率の解析である定量的磁化率マッピングQuantitative susceptibility mapping (QSM)解析を行ったところ、淡蒼球、黒質への鉄沈着が確認され、SENDA/BPANの診断に矛盾ないことを証明しました。
 これらのことより、SENDA/BPANの小児期の特徴的なMRI画像所見として、発熱に伴う痙攣重積・群発後に一過性の淡蒼球、黒質に高信号があることが明らかになりました。小児期には、普段はMRI画像で確認できるような淡蒼球、黒質の所見が確認できないものの、発熱時の痙攣重積・群発時には不耐が生じ浮腫像を呈したことが示唆され、本例の病態に関連している可能性が示されました。
■今後の展望
 SENDA/BPANは、小児期は非進行性の経過を示すものと理解されていました。これまで小児期に特徴的な所見はないと気付かれなかった可能性がある中で、今回、一過性の淡蒼球、黒質の高信号は本疾患の病態が小児期から存在する可能性があることを明らかにしました。小児期の診断の新たな一助になりえることに加え、SENDA/BPANの新たな病態解明につながることが期待されます。
■用語の説明
・NBIA (Neurodegeneration with brain iron accumulation):
 中枢神経における鉄沈着が生理的範囲を大幅に超えて起こる疾患で、基底核への鉄沈着を特徴とする疾患群。発症年齢や臨床症状や病型により症状は異なるが、乳児期から成人期発症までにおいて、ジストニア、パーキンソンニズム、錐体路兆候を認め、認知機能低下や精神症状を認めることもある。病型によっては、小児慢性特定疾患、難病指定を受けている疾患もある。
・SENDA (Static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood), BPAN (β-propeller protein–associated neurodegeneration):
 NBIAの一型で淡蒼球、黒質に鉄沈着をきたす疾患。SENDA、BPANは疾患概念としては別々に提唱されたものではあるが、いずれの病型からも原因遺伝子としてWDR45変異が同定された。SENDA, BPANは近年では同一の病態を示しているものと考えられてきている。小児期から精神運動発達遅滞が認められるものの、数十年間は非進行性に経過する。小児期に特徴的な臨床所見や検査所見は認めない。成人期になり20歳代から30歳代になると、ジストニア、パーキンソニズムが発症し、神経症状が急速に進行する。
・WDR45:
 オートファジーに必須である出芽酵母Atg18のヒトにおけるホモログのひとつWIPI4をコードする。SENDA/BPANの責任遺伝子として2013年に報告された。
・QSM (Quantitative susceptibility mapping):
 脳MRI信号から得られた位相情報をもとに磁化率を定量的に求めてマップ化する手法。
■参考図と解説

20180530図1.PNG

上図:幼児期に発熱に伴い時に痙攣重積、痙攣群発をきたした患児の痙攣後時の頭部MRI画像
(A,B) 痙攣重積の時に撮像した頭部MRIのT2強調画像。淡蒼球(A), 黒質(B)に腫大と高信号を認めた(淡蒼球、黒質とも矢印の箇所)。2か月後の撮像で、同部位の高信号は消失していた(図示なし)。(C,D)同例のQSM解析。淡蒼球(C),黒質(D)に著明な高信号を認める(淡蒼球、黒質とも矢印の箇所)。これは定量解析でも同年齢と比し著明高値を示した。

【原著論文情報】
<論文名>
Transient swelling in the globus pallidus and substantia nigra in childhood suggests SENDA/BPAN
<著者>
Akihiko Ishiyama, Yukio Kimura, Aritoshi Iida, Yoshihiko Saito, Yusaku Miyamoto, Mari Okada, Noriko Sato, Ichizo Nishino, Masayuki Sasaki.
<掲載誌>
Neurology. 2018 Apr 25. pii: 10.1212/WNL.0000000000005564.
doi: 10.1212/WNL.0000000000005564. [Epub ahead of print]
URL: http://n.neurology.org/content/90/21/974

【助成金】
本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費、日本医療研究開発機構(AMED)研究費の支援を受けて行われました。
■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】
石山 昭彦(いしやま あきひこ)
国立精神・神経医療研究センター 病院
小児神経診療部 第一小児神経科医長
〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel: 042-341-2711(代表)
Email:ishiyama@ncnp.go.jp
【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人
国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
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