遺伝性神経・筋疾患の治療法開発を目的とした エクソン・スキップのデータベースおよび機械学習モデルに基づいた予測システムを世界で初めて開発・公開しました (https://eskip-finder.org)

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2021年6月9日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
国立研究開発法人 理化学研究所
アルバータ大学
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遺伝性神経・筋疾患の治療法開発を目的とした
エクソン・スキップのデータベースおよび機械学習モデルに基づいた予測システムを世界で初めて開発・公開しました
(https://eskip-finder.org)

【研究成果のポイント】
eSkip-Finderは、遺伝性神経・筋疾患などに対するエクソン・スキップ治療法開発を目的に、エクソン・スキップ薬の配列と効果などに関する情報を収集した、世界最大のデータベースです。

eSkip-Finderは、機械学習によるエクソン・スキップ予測機能を世界で初めて提供することで、エクソン・スキップ薬候補の迅速な設計も可能となります。

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所の青木吉嗣部長(遺伝子疾患治療研究部)、理化学研究所計算科学研究センターの千葉峻太朗研究員、奥野恭史部門長、アルバータ大学の横田俊文教授らの国際共同研究チームは、誰でも情報にアクセスできる世界最大の(メッセンジャーRNA調整型)アンチセンス核酸医薬のデータベースであるeSkip-Finderをインターネットで公開しました。eSkip-Finder は、機械学習によるエクソン・スキップ効率の予測機能を搭載した世界初のウェブツールです。本研究では、理化学研究所の共同利用計算機システムである、「スーパーコンピュータHOKUSAI BigWaterfall」を使用しました。

 本研究成果は日本時間2021年6月9日午前9時5分(報道解禁日時:協定世界時間6月9日午前0時5分)に、英国の学術雑誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。

背景

 エクソン・スキップは、アンチセンス核酸医薬をメッセンジャーRNAに作用させ、遺伝子変異により失われるはずのタンパク質を回復させる画期的な治療法です。エクソン・スキップ治療は、患者さんの遺伝子変異パターンに応じてアンチセンス核酸医薬の配列をデザインすることで、様々な遺伝子変異パターンを持つDMDや神経・筋難病に対しても応用可能であるため、新しい創薬モダリティとして注目されています。

 2020年3月、NCNPは国内製薬企業と共同で、指定難病のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんの8%程度を治療対象とする、国産初の核酸医薬品であるエクソン53スキップ薬(ビルトラルセン)の開発に成功しました(早期条件付き承認)。次の課題は、DMDの様々な遺伝子変異パターンあるいはDMD以外の神経・筋難病を対象に、アンチセンス核酸医薬を開発することです。しかしながら、治療効果が期待できるアンチセンス核酸の塩基配列デザインの予測は非常に難しいとの問題がありました。理由は、核酸合成に用いる化合物の種類や、アンチセンス核酸の長さや設計部位等の複数のパラメータが関係するため、実現は困難でした。

概要

 研究グループはDMDを含めた複数の神経・筋難病などを対象に、公知の実験データをマニュアルキュレーションによって収集し、世界最大のアンチセンス核酸データベースであるeSkip-Finderを構築し、インターネット上で公開しました。さらに、研究グループは、治療薬の材料として用いられるモルフォリノ核酸または2’Oメチル核酸化合物からなる、アンチセンス核酸医薬の塩基配列情報から、エクソン・スキップ効率を予測する機械学習モデルを構築してeSkip-Finderに搭載し、世界で初めて公開しました。

今後の展望

 本研究により、DMDに加えて、複数の神経・筋難病を対象に、治療効果が期待できるアンチセンス核酸医薬の塩基配列を迅速にデザインすることが可能になります。神経・筋難病の克服を目指した先端プレシジョン医療研究が加速することが期待されます。


用語の説明

1. 難病とデュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)
難病法で定められた指定難病は333種類あり、治療法開発が喫緊の課題です。中でも、DMDは、男児に発症する、最も頻度の高い筋ジストロフィーで、DMD遺伝子の変異により、筋肉の細胞膜を保護するジストロフィンが作れなくなり、徐々に全身の筋萎縮が進行します。

2. エクソン・スキップ治療
アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸(DNAの様なもの)を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸読み取り枠のずれを修正(これをイン・フレーム化といいます)する治療法です。正常なジストロフィン・タンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィン・タンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できます。

3. 核酸医薬品
遺伝子の構成成分であるDNA核酸と似た構造を持ち、疾患の責任遺伝子を標的とする薬剤です。その遺伝子から作られるタンパク質の産生を止める、又は調節することで効果を発揮します。従来の低分子医薬品では難しかった様々な疾患の治療が可能になると期待されており、特異性が高く安全性の面にも優れることから、次世代の医薬品として注目されます。

4. マニュアルキュレーション
人手で情報やコンテンツを収集・整理し、それによって新たな価値や意味を付与して共有することです。

5. 機械学習
機械学習とは、コンピューターが膨大なデータを学習し、アルゴリズムに基づいて情報を分析する手法です。

原著論文情報

・論文名:eSkip-Finder: a machine learning-based web application and database to identify the optimal sequences of antisense oligonucleotides for exon skipping
・著者:S. Chiba, K. Lim, N. Sheri, S. Anwar, E. Erkut, M.N.A. Shah, T. Aslesh, S. Woo, O. Sheikh, R. Maruyama, H. Takano, K. Kunitake, B. Duddy, Y. Okuno, Y. Aoki, T. Yokota.
・掲載誌: Nucleic Acids Research 2021
・doi:
・URL: https://eskip-finder.org

研究経費

本研究結果は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費2-6、Muscular Dystrophy Canada、Friends of Garrett Cumming Research Fund, the HM Toupin Neurological Science Research Fund、Canadian Institutes of Health Research、Alberta Innovates: Health Solutions、Jesse’s Journey, and the Women and Children’s Health Research Instituteの支援を受けて行われました。

関連リンク

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所 遺伝子疾患治療研究部
青木吉嗣
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
電話 042-346-1720
Email: tsugu56(a)ncnp.go.jp

国立研究開発法人理化学研究所
計算科学研究センター
千葉峻太朗
〒230-0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町1-7-22
Email: shuntaro.chiba(a)riken.jp

アルバータ大学(カナダ・アルバータ州)
Department of Medical Genetics, Faculty of Medicine and Dentistry
横田俊文
Email: toshifumi.yokota(a)ualberta.ca

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター総務課 広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1 
TEL:042-341-2711(代表) FAX:042-344-6745
E-mail: ncnp-kouhou(a)ncnp.go.jp

国立研究開発法人理化学研究所広報室
〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1
E-mail: ex-press(a)riken.jp

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