新型コロナウイルス感染症感染拡大下における 発達障害児の生活の質低下に関連する精神状態を特定

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2021年10月26日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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新型コロナウイルス感染症感染拡大下における
発達障害児の生活の質低下に関連する精神状態を特定

 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部上田理誉研究生、岡田俊部長らの研究グループは、社会福祉法人日本心身障害児協会島田療育センターはちおうじ小沢浩所長らと協力し、新型コロナウイルス感染症の流行拡大下において、発達障害がある子どもの生活の質(QOL)*1について検討し、特に睡眠スケジュールの悪化が抑うつ傾向と深く関わっていることを明らかにしました。
 発達障害の子どもたちは、新型コロナウイルス感染症流行拡大当初より、定型発達の子どもと比較して、災害時に精神的・身体的な困難を経験する可能性が高いことが指摘されていました。発達障害の子どもたちの特性上、周囲の予測できない変化や日常生活の変化に適応することが困難な場合があるためです。実際に、新型コロナウイルス感染症拡大以前と比較し、生活習慣、抑うつや不安、攻撃的行動の悪化が報告されています。
 本研究では、子どものQOLが、睡眠スケジュールの変化によってどのような影響を受けたのか、子どものQOLの低下が子ども自身の心理状態にどのような影響を与えたのかについて、子ども自身の自己評価により検討しました。その結果、子どものQOL低下には、抑うつ傾向の悪化が深く関わっていること、とりわけ睡眠スケジュールの悪化した子どもでは顕著であることが明らかになりました。
 本研究成果は、2021年10月18日「Frontiers in Psychiatry」オンライン版に掲載されました。

研究の背景

 知的・発達障害研究部では新型コロナウイルス感染症感染拡大初期より、発達障害の子どもとその親のメンタルヘルス悪化を懸念し、大きな関心を寄せてまいりました。
 上田らは、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言下に実施した、発達障害の学齢期の子どもの親による親と子どものQOL調査で、子どもの睡眠スケジュールの変化が、子どもと親のQOL低下と関連していることを2021年2月に報告しています(上田ら.Scientific Report 2021. DOI: 10.1038/s41598-021-82743-x)。しかし、過去の研究で、親の代理評価はしばしば子どもの自己評価の結果と乖離することが問題点として指摘されていました。
 そこで、本研究では、子ども自身の自己評価により子どものQOLが、睡眠スケジュールの変化によってどのような影響を受けたのか、また、睡眠パターンが変化した子どもと変化しなかった子どものQOLの低下を予測する心理状態について検討しました。

研究の概要

 2020年5月(新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言下)に、8歳から17歳までの学齢期の発達障害の子ども86名(平均年齢11.7歳,男子70名,女子16名,平均知能指数83.6)が研究に参加しました。子どもたちは、現在のQOL、抑うつ、不安について質問紙による自己評価を行いました。また、現在の一時的な気分を表すVAS(Visual Analog Scale)について、0(今まで感じた中で最悪)-100(今まで感じた中で最高)の数値を用いて回答しました。両親は、現在の子どもたちの不適応行動や睡眠パターンの変化に関するアンケートに答えました。まず、睡眠の変化がQOL、現在の一時的な気分、不適応行動に影響を与えているかどうかについて統計学的に検討しました。また、睡眠スケジュールが変化した群と変化しなかった群のQOL低下に有意に影響する心因的要因を特定しました。
 参加者の46.5%に睡眠スケジュールの変化(入眠時間、起床時間の遅れ)が認められました。これらの変化はQOLの低下だけでなく、内在化症状(抑うつや不安)とも関連していました。睡眠スケジュールが変化した子どものQOL低下は、抑うつ状態の増悪によって予測されやすいことがわかりました。睡眠パターンが変化しなかった子どものQOLの低下は、抑うつ状態の悪化だけでなく、VASで評価される現在の一時的な気分の悪化でも予測されやすいことがわかりました。
 睡眠スケジュールの悪化した子どものQOL低下には、抑うつ傾向の悪化のみが深く関わっています。一方で、生活スケジュールが安定している子どものQOLは現在の一時的な気分にも影響されているため、QOLを維持するためには、充実した生活を送る必要があります。学齢期の子どもの支援者は子どもの睡眠スケジュールと抑うつ傾向の関係について理解し、対応していく必要があります。

今後の展望

 新型コロナウイルス感染症は変異株の出現により長期化し、発達障害の子どもたちとその親のメンタルヘルスの状況も変化しています。この変化についてもフォローアップし、社会に還元してゆきたいと考えており、2021年5月にも再調査を行い、現在、結果を取りまとめております。

用語の説明

*1生活の質
世界保健機関は「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況ついての認識」と定義しています。これは、人の身体的・精神的自立のレベル、社会関係、信念、環境などの重要な側面との関わりという複雑なあり方を取り入れた広範囲な概念です。

原著論文情報

・論文名:Psychological Status Associated With Low Quality of Life in School-Age Children With Neurodevelopmental Disorders During COVID-19 Stay-At-Home Period
・著者:上田理誉、岡田俊、北洋輔、小沢愉理、井之上寿美、塩田睦記、河野芳美、河野由佳、中村由紀子、雨宮馨、伊藤藍、杉浦信子、松岡雄一郎、海賀千波、久保田雅也、小沢浩
・掲載誌: Frontiers in Psychiatry
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2021.676493
・DOI: 10.3389/fpsyt.2021.676493

研究経費

 本研究結果は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的発達障害研究部
岡田 俊
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
Email: tokada(a)ncnp.go.jp

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター総務課 広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1 
TEL:042-341-2711(代表) FAX:042-344-6745
E-mail: ncnp-kouhou(a)ncnp.go.jp

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