アルツハイマー病脳老人斑の蓄積を始める
新たなAβ分子種「peak 1 Aβ」を同定
〜老人斑蓄積を抑制する新たな認知症治療法開発に期待〜
新たなAβ分子種「peak 1 Aβ」を同定
〜老人斑蓄積を抑制する新たな認知症治療法開発に期待〜
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所疾病研究第四部の橋本唯史部長、内上寛一リサーチフェロー、岩坪威神経研究所所長らの研究グループは、東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野の箱崎眞結研究員(研究当時)、仲泰史研究員(研究当時)、人体病理学・病理診断学分野、神経内科学分野、新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野、マサチューセッツ総合病院Alzheimer’s Disease Research Unitとの共同研究により、アルツハイマー病1)剖検脳およびアルツハイマー病モデルマウス脳から、老人斑2)の蓄積を引き起こす新たなアミロイドβ(Aβ)3) 分子種を発見し、アルツハイマー病モデルマウス4)を用いてこれを実証しました。
研究グループは、アルツハイマー病患者剖検脳と高齢アルツハイマー病モデルマウス脳に共通して、分子量が150kDa以上のAβ分子種を見出し、「peak 1 Aβ」と命名しました。peak 1 Aβはアルツハイマー病モデルマウス脳でAβの蓄積が始まる時期から出現し、peak 1 Aβを若齢のアルツハイマー病モデルマウス脳海馬に投与すると、2カ月後からAβの蓄積を誘導することを明らかにしました。これらの結果から、アルツハイマー病脳では、peak 1 Aβを「種(蓄積核)」として老人斑が形成・拡大する可能性が示されました。
本研究成果は、アルツハイマー病における老人斑蓄積の分子機序理解を前進させるとともに、老人斑蓄積を抑制する新たな認知症治療・予防法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月20日午前0時5分(日本時間)に国際学術誌「Brain Communications」に掲載されました。
研究グループは、アルツハイマー病患者剖検脳と高齢アルツハイマー病モデルマウス脳に共通して、分子量が150kDa以上のAβ分子種を見出し、「peak 1 Aβ」と命名しました。peak 1 Aβはアルツハイマー病モデルマウス脳でAβの蓄積が始まる時期から出現し、peak 1 Aβを若齢のアルツハイマー病モデルマウス脳海馬に投与すると、2カ月後からAβの蓄積を誘導することを明らかにしました。これらの結果から、アルツハイマー病脳では、peak 1 Aβを「種(蓄積核)」として老人斑が形成・拡大する可能性が示されました。
本研究成果は、アルツハイマー病における老人斑蓄積の分子機序理解を前進させるとともに、老人斑蓄積を抑制する新たな認知症治療・予防法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月20日午前0時5分(日本時間)に国際学術誌「Brain Communications」に掲載されました。
研究の背景
アルツハイマー病患者脳では、Aβが線維化して老人斑として蓄積することが、疾患発症の重要な病因と考えられています。Aβは神経細胞において前駆体タンパク質から切り出される40〜42アミノ酸からなるタンパク質断片で、神経細胞から放出された後は速やかに代謝されます。そのため、脳内でAβがどのようにして老人斑として蓄積を開始するのか、その詳細な機構は明らかになっていませんでした。
近年、Aβは2〜3分子集まったAβオリゴマーや、数十個以上のAβが集合した100 kDa以上の中間凝集体(プロトフィブリル)など、さまざまな重合体分子種を形成し、線維形成や毒性に関与することが明らかになってきました。しかし、これまでに脳内で老人斑蓄積に関わるAβ分子種は明らかではありませんでした。そこで本研究グループは、アルツハイマー病患者脳およびアルツハイマー病モデルマウス脳に出現するAβ分子種を解析し、その老人斑形成能を検証しました。
近年、Aβは2〜3分子集まったAβオリゴマーや、数十個以上のAβが集合した100 kDa以上の中間凝集体(プロトフィブリル)など、さまざまな重合体分子種を形成し、線維形成や毒性に関与することが明らかになってきました。しかし、これまでに脳内で老人斑蓄積に関わるAβ分子種は明らかではありませんでした。そこで本研究グループは、アルツハイマー病患者脳およびアルツハイマー病モデルマウス脳に出現するAβ分子種を解析し、その老人斑形成能を検証しました。
研究の概要
本研究グループはまず、高齢のアルツハイマー病モデルマウス脳からトリス緩衝液可溶性画分を抽出し、ゲルろ過クロマトグラフィー5)を用いて分子量ごとに分離・解析しました。その結果、Aβは150kDa以上、50〜70kDa、10〜20kDaの3つのピークに分離されることを見いだしました。そこで、それぞれのAβ画分を若齢アルツハイマー病モデルマウスの海馬に接種したところ、150kDa以上のAβを接種した群でのみ、4カ月後にAβ蓄積が誘導されました (図)。本研究ではこの150kDa以上のAβ分子種を「peak 1 Aβ」と命名しました。さらに、アルツハイマー病モデルマウス脳におけるpeak 1 Aβの出現時期をさまざまな月齢で解析したところ、Aβ蓄積が始まる11カ月齢頃から出現し、その量はAβ蓄積の進行に伴って増加することが分かりました。
次に、peak 1 AβがAβ蓄積を誘導するために必要な条件を検討しました。まず、抗Aβ抗体を用いてpeak 1 Aβ中のAβの免疫除去実験6)を行ったところ、Aβ蓄積を誘導する能力が失われました。また、ギ酸を用いてpeak 1 Aβの高次構造7)を破壊したところ、やはりAβ蓄積を誘導する能力は消失しました。これらの結果から、peak 1 Aβに含まれるAβの高次構造が、Aβ蓄積を引き起こすために重要であることが示されました。
最後に、アルツハイマー病患者脳中のpeak 1 Aβについて検討しました。6例のアルツハイマー病患者剖検脳からトリス緩衝液可溶性画分を抽出し、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分離・解析したところ、150kDa以上のpeak 1 Aβが存在することを確認しました。そこで、患者脳由来のpeak 1 Aβを若齢アルツハイマー病モデルマウスの海馬に接種したところ、4カ月後Aβ蓄積が誘導されました。これらの結果から、peak 1 Aβはアルツハイマー病患者脳において老人斑蓄積の「種(蓄積核)」として機能している可能性が示されました。
研究の意義・今後の展望
本研究では、アルツハイマー病患者脳および高齢のアルツハイマー病モデルマウス脳に共通して存在し、脳内でAβ蓄積を誘導する新たなAβ分子種「peak 1 Aβ」を明らかにしました。この発見により、これまで十分に解明されていなかったアルツハイマー病脳老人斑の形成開始機序や、脳内で拡大する仕組みの解明に向けた重要な手がかりが得られました。近年開発されたアルツハイマー病抗Aβ抗体療法8)は、すでに蓄積した老人斑の除去を目的としています。本研究で同定したpeak 1 Aβは老人斑形成の「種(蓄積核)」として機能する可能性が示されたことから、老人斑形成そのものを抑制する新たなアルツハイマー病治療法や予防法の標的となることが期待されます。さらに、peak 1 Aβを接種することでマウス脳にAβ蓄積を再現した本研究成果は、新たなアルツハイマー病モデルや創薬研究のための研究基盤としても活用されることが期待されます。
用語の説明
1) アルツハイマー病:高齢者認知症の大多数を占める進行性の神経変性疾患。脳内にアミロイドβ(Aβ)が老人斑として蓄積し、その後タウタンパク質が神経原線維変化を形成することで神経細胞が障害され、記憶障害などの認知症が引き起こされると考えられています。2) 老人斑:アルツハイマー病を特徴付ける病理構造物。Aβからなるアミロイド線維がニューロピルに蓄積したもので、アルツハイマー病発症の約20年前から蓄積が始まります。
3) アミロイドβ:神経細胞に存在するアミロイド前駆体タンパク質 (APP)から、二回の切断によって切り出される40〜42アミノ酸からなるタンパク質断片です。通常は脳内で速やかに代謝されますが、アルツハイマー病では線維化して老人斑として蓄積します。
4) アルツハイマー病モデルマウス:ヒトのアルツハイマー病病因遺伝子を導入することで、加齢と共に脳内にAβが蓄積するように作成された実験用マウスです。
5) ゲルろ過クロマトグラフィー:ふるいの原理を応用して、タンパク質などを分子の大きさの違いによって分離する分析方法です。大きな分子ほど先に、小さな分子ほど後から流れ出てきます。
6) 免疫除去実験:抗体を利用して、目的のタンパク質を選択的に取り除く実験手法です。本研究では、抗Aβ抗体を用いてpeak 1 Aβ中のAβを除去しました。
7) 高次構造:タンパク質が折り畳まれたり、タンパク質同士が会合したりすることで形成される三次元構造のことです。
8) 抗Aβ抗体療法:抗Aβ抗体を投与することで、脳内に蓄積した老人斑の除去を促すアルツハイマー病の疾患修飾療法です。近年、レカネマブ (商品名:レケンビⓇ)やドナネマブ (商品名:ケサンラⓇ)などが承認され、臨床で使用されています。
原著論文情報
・論文名:Soluble high-molecular-weight amyloid-β species derived from amyloid-β-laden brains induce cerebral β-amyloidosis・著者:Mayu Kashiwagi-Hakozaki, Hirokazu Uchigami, Yasushi Naka, Asuka Kokawa, Tatsuo Mano, Junki Cho, Kaoru Yamada, Akinori Miyashita, Norikazu Hara, Takeshi Ikeuchi, Alberto Serrano-Pozo, Matthew P Frosch, Bradley T Hyman, Tatsushi Toda, Masashi Fukayama, Tetsuo Ushiku, Tomoko Wakabayashi, Takeshi Iwatsubo, Tadafumi Hashimoto
・掲載誌:Brain Communications
・DOI:10.1093/braincomms/fcag188
研究経費
本研究結果は、主に以下の研究費の支援を受けて行われました。日本学術振興会・科学研究費助成事業:基盤研究(A) 20H00525 / 基盤研究(B) 17H04193 / 特別研究員奨励費19J12600
日本医療研究開発機構: 脳とこころの研究推進プログラム(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)19dm0207073/ 脳神経科学統合プログラム24wn0625001
新潟大学脳研究所共同利用・共同研究:22012
>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php
>疾病研究第四部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r4/




