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“動きの量”だけでは見えない多動性 ―自閉スペクトラム症マーモセットで多動の不規則性とストレス指標との関連を確認―

プレスリリース
神経研究所

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2026年2月6日 
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
国立大学法人 大阪大学
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“動きの量”だけでは見えない多動性
―自閉スペクトラム症マーモセットで多動の不規則性とストレス指標との関連を確認―


 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所微細構造研究部 一戸紀孝部長、中村月香リサーチフェロー、名古屋大学大学院情報学研究科 川合伸幸教授、大阪大学大学院基礎工学研究科 中村亨教授らの研究グループは、自閉スペクトラム症において落ち着きのなさ(多動性)を単なる「動いた量」だけで評価するのではなく、動きの不規則性や時間構造として定量化することを目指し、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を示すモデル動物(コモンマーモセット)で解析を行いました。その結果、休息が途切れやすく多動に加えて「動き方が不規則で予測しにくい」という特徴が認められ、さらにこうした不規則な活動パターンが、ストレスに関わるホルモンであるコルチゾール値と関連する可能性も示されました。本研究により、活動の総量だけでは捉えにくかった多動性の側面を「いつ・どの場面で・どのように動いているか」という時間構造として客観的に評価できる可能性が示されました。これは、「多動がある/ない」という単純な二分を超え、個人差や状況依存性を前提とした理解につながるものです。将来的には、スマートウォッチ等の日常的デバイスによる計測と組み合わせることで、多動性を定量的に評価する指標の開発や、年齢や状況に応じた個別支援・介入効果の評価に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2026年1月16日に英国の精神医学雑誌「Translational Psychiatry」誌にオンライン先行公開されました。

研究成果のポイント

●自閉スペクトラム症(ASD;※1)モデル動物であるコモンマーモセット(※2)において、単純な「動いた量」を測定するだけでなく、“動き方の乱れ”や“予想しにくさ”、休息がどれだけ続きどのように途切れて再開するかといった“休息のつながり方”まで定量化し、多動性の新しい見え方を提示しました。
●ASDモデルの成体(2歳以上のマーモセット)では、1日の総活動量は差がなくても朝と夕方に活動が上がる特定の時間帯があり、さらにストレス指標(コルチゾール)と活動量が連動する傾向を確認しました。
●ASDモデルの幼齢個体(3ヶ月齢のマーモセット)では、見知らぬ相手がいる社会的な場面において、移動回数が増える(落ち着きにくい)一方で、社会的関心の指標は低下しました。この結果は、多動性の表れ方が年齢や状況によって異なり得ることを示唆しています。
●ウェアラブル計測と高度な解析を組み合わせて多動の特徴を捉え、個人差や状況差を前提とした支援や介入効果の評価に応用可能な指標となる可能性を示しました。
図1.多動性を「活動量」ではなく「時間構造」として捉える概念図
図1.多動性を「活動量」ではなく「時間構造」として捉える概念図
対照群とASDモデル群では、1日の総活動量が同程度であっても、活動の規則性(サンプルエントロピー)や休息の持続時間の分布(パワーロー解析)に違いがみられる。本図は行動の良し悪しを示すものではなく、活動パターンの時間的特徴の違いを示した概念図である。
 

研究の背景

 自閉スペクトラム症(ASD;※1)では、落ち着きのなさ(多動)がしばしば見られ、日常生活や学習、対人関係に影響することがあります。一方で、多動はASDの診断基準の中心特性ではなく、注意欠如・多動症(ADHD)などが併存する場合もあるため、「誰に」「どんな場面で」「どのような形で」現れるのかを整理するのは容易ではありません。これまでの多動の評価は、保護者や教員などによる観察・評定に依存することが多く、個人差や場面差を客観的に捉えることが課題とされてきました。さらに、多動や反復的な動きは、周囲からは問題行動として見えやすい一方で、当事者にとっては不安や緊張を和らげる自己調整の手段として機能している可能性も指摘されています。このような背景から、「どれだけ動いたか」だけでなく、「いつ・どのように動いているか」といった活動の時間的な特徴に着目した評価の必要性が指摘されています。
 近年は、スマートウォッチなどのウェアラブル機器を用いて、日常に近い環境で行動を連続的に記録し、どれくらい動いたかだけでなく「動き方の特徴」まで把握しようとする研究が進んでいます。さらに、多動はストレス反応とも関係しうるため、行動データとストレス指標を合わせて評価することが重要です。小型霊長類であるコモンマーモセット(※2)は、昼行性で生活リズムがヒトに近く、社会行動も豊かであることから、ASD研究の橋渡しモデルとして注目されています。本研究ではこのマーモセットを用い、活動パターンとストレス指標を同時に解析することで、多動の捉え方をより具体化することを目指しました。

研究の内容

 本研究は、ヒトに近い昼行性小型霊長類であるコモンマーモセット(※2)の妊娠期バルプロ酸(VPA)曝露モデル(※3)を用いて、日常環境に近い条件で多動特性の内容を分解し定量化しました。2歳以上の成体に首輪型の超小型活動量計を装着し、平均約22日連続で日常的な活動を記録しました。解析では、時間帯ごとの活動変化に加え、休息がどれだけ続くか、そしてサンプルエントロピー(動きの予測しにくさ;※4)を算出しました。その結果、1日の平均活動量は対照群と比較して大きく変わらない一方で、ASDモデル群では午前8〜10時および午後7〜8時に活動が高く、日中の活動はより不規則でした。またASDモデル群は休息が長続きしにくく、起床時の唾液コルチゾール(ストレス関連ホルモン)が高い個体ほど平均活動量が高いことが示されました。不規則性や休息の短さもコルチゾールと正に相関する傾向がみられ、日常活動がストレス反応と関与している可能性が示唆されます。これらの結果は、観察される多動様行動が、単なる活動量の増加としてではなく、ストレス反応や自己調節のあり方と関係して現れている可能性を示唆しています。

 ASDが最もよく診断される2~3歳の時期にあわせて、マーモセットの幼若期(15〜19週齢)の社会的場面を3チャンバー試験(※5)で評価したところ、対照群では見知らぬ相手側に長く滞在したのに対し、ASDモデル群はその傾向が弱く、区画間の移動回数(落ち着きにくさ)が増加しました。また移動が多いほど相手側にいる時間が短い負の相関も確認され、社会状況での「落ち着きにくさ」と社会的選好の低下が併存しうることが示されました。

本研究成果の意義

 本研究は、従来の単純な群比較では見えにくい微細な活動パターンを抽出し、多動を「量」ではなく「時間帯・不規則性・休息の質」として評価する枠組みを提示しました。年齢や場面で表れ方が変わるASDの特性を前提とし、ウェアラブル計測と高度な活動解析を組み合わせたことで、ASDにおける最適な個別支援・介入評価の高度化に貢献すると期待されます。

論文情報

掲載誌:Translational Psychiatry
タイトル:Hyperactivity is linked to elevated cortisol levels: comprehensive behavioral analysis in the prenatal valproic acid-induced marmoset model of autism
著者名:Madoka Nakamura, Toru Nakamura, Akiko Nakagami, Keiko Nakagaki, Nobuyuki Kawai, Noritaka Ichinohe
DOI: https://www.nature.com/articles/s41398-025-03798-2

研究支援

 本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費 「発達障害の治療法の確立をめざすトランスレーショナルリサーチ」(課題番号2-7)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(課題番号:JP24600020, JP15K01791, 16H02058, 19K22870, 21H04421, 21K18552)、日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:22dm0207066h0004)の支援により実施されました。

用語説明

(※1) 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)
発達の特性の一つで、対人コミュニケーションや社会的やりとりの難しさ、興味・行動の偏りやこだわりなどが主な特徴です。特性の現れ方や程度には個人差があり、同じ診断名でも困りごとや得意なことは人によって大きく異なるとされています。

(※2)コモンマーモセット
南米原産の小型のサル(300g程度)で、両親が協力して子育てをする社会性に優れた霊長類です。また、アイコンタクトや多様な鳴き声を用いてコミュニケーションをするというヒトと類似した社会行動特性を持ちます。また脳の形態・機能がヒトと似ていて発達した大脳皮質を持ちます。

(※3)妊娠期バルプロ酸(VPA)曝露モデル
妊娠中の母体に、てんかんの治療薬であるバルプロ酸(VPA)を投与し、生まれた子どもに見られる行動特性や脳の特徴を調べることで、ASDに関連すると考えられる変化を研究するための動物モデルです。VPAを妊娠期に服用することによって胎児の発達に影響しうることが以前より知られており、このモデル動物では社会的な行動の変化や感覚・情動調節の違いなどが報告されています。

(※4)サンプルエントロピー(Sample Entropy)
時間の流れに沿って記録したデータ(活動量の変化など)が、どれくらい規則的か/不規則かを数値で表す指標です。値が高いほど、同じようなパターンが繰り返されにくく、動き方が「ばらついていて予測しにくい」ことを意味します。本研究では、単に「どれくらい動いたか」だけでなく、動きの“乱れ”の程度を捉えるために用いました。

(※5)3チャンバー試験(Three-chamber test)
動物の社会的な関心(他者に近づく・一緒にいたがる傾向)を調べるための行動試験です。装置は3つの区画(チャンバー)に分かれており、一般的には片側に見知らぬ相手(または相手が入ったケージ)を置き、もう片側は空(または物体)にします。被験個体を中央から自由に移動させ、どの区画にどれだけ滞在したかや区画間を行き来した回数を記録することで、社会的選好や落ち着きのなさの指標を評価します。
 
>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php

>微細構造研究部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_mic/

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国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部 
部長 一戸紀孝
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