脊髄小脳変性症の新しい発症メカニズムを特定
―原因遺伝子「SNUPN」の発見―
―原因遺伝子「SNUPN」の発見―
本研究グループは、脊髄小脳変性症患者の変異解析、変異遺伝子産物の生化学的特性解析、疾患のモデルマウスの作製とマウス発生期の小脳の遺伝子発現解析とRNAスプライシング解析によって、この疾患がたった1つの遺伝子の機能不全により、小脳プルキンエ細胞において広範な遺伝子のRNAスプライシング1)異常を来し、その結果、小脳萎縮、運動失調が引き起こされることを明らかにしました。
今回の成果は、SNUPN遺伝子変異が引き起こす病態機序の詳細を明らかにしただけでなく、他の原因による脊髄小脳変性症の発症機構の理解にもつながるものであると考えています。
本研究成果は日本時間2026年 2月18日 22時(英国時間:2月18日13時)に、英国の神経医学系学術雑誌「Brain」に掲載されました。
研究の背景
脊髄小脳変性症は、その約半数が「遺伝子の異常」が原因とされていますが、中でも潜性変異2)により発症するものは、脳の小脳部分や脊髄の神経が発生期に異常を来します。DNA修復、ミトコンドリア恒常性、シグナル伝達、オートファジーなど多岐にわたる多数の原因遺伝子が同定されています。RNAスプライシングとは 遺伝子(DNA)の設計図をもとに、タンパク質という部品を作る途中の「RNA」というメモから、不要な部分を切り取り、必要な部分だけをつなぎ合わせる作業です。例えるなら、必要な情報だけを編集し、最終的な指示書を作る工程です。脊髄小脳変性症患者では、このRNAスプライシングに関わる遺伝子がうまく働かなくなることが、病気の原因の中心にあるのではないかと考えられています。しかし、そのような遺伝子変化によって、どのくらいの数の遺伝子にRNAスプライシング異常が引き起こされるのか、また、どの遺伝子のRNAスプライシング異常が直接この病気に関わるのかについては解明されていませんでした。本研究グループは、脊髄小脳変性症患者の遺伝子変異解析から始め、モデル動物を作製して遺伝子変異が引き起こす下流現象を追跡することで、本疾患の病態機序に迫れると考え、研究を開始しました。
研究の概要
次世代シーケンサー解析により、脊髄小脳変性症を呈する2家系にSNUPN遺伝子の潜性変異を見出しました。SNUPN遺伝子がコードするタンパク質は、RNAスプライシングに関わる因子を核内に輸送するために働き、核と細胞質とを往復しています。この遺伝子の変異がいかに脊髄小脳変性症を引き起こすのかを解明することを目指し、具体的には以下の結果を得ました。1.細胞実験にて変異型SNUPNタンパク質の細胞質―核間移行障害を示しました。
2.患者変異をノックイン(KI)したマウスを作出しました。このKIマウスは、小脳性運動失調を示し、解剖学的には小脳萎縮を呈しました。(図1A)
3.生後すぐの小脳プルキンエ細胞(PC)3)は樹状突起の形成異常を示し、さらに、この樹状突起の異常は細胞骨格の未発達によるものでした。(図1B-C)。
4.KIマウスのプルキンエ細胞でスプライシング因子の核への輸送が低下していました。
5.発生期のKIマウスの小脳プルキンエ細胞において、130以上の遺伝子にRNAスプライシングの異常を見出しました(図1D)。また、この異常により樹状突起形成が未発達となることを示しました。
6.さらに、樹状突起未発達のプルキンエ細胞からの細胞増殖因子の分泌が低下し、顆粒前駆細胞の増殖低下が引き起こされた結果、小脳萎縮となるものと結論づけました(図2)。
今後の展望
今回の研究で作製したSNUPN遺伝子変異マウスモデルで見出した小脳萎縮の分子機序をさらに詳しく調べていくことで、より詳細な分子病態の理解と有効な治療法の開発につなげることが期待されます。さらにヒトにおける詳細な発症メカニズムの解明、新たな治療法・診断法の研究・開発が進展すると考えられます。用語の説明
1)RNAスプライシング:生物の細胞が、遺伝子の情報(DNA)をもとに、タンパク質を作るための設計図(RNA)を編集する作業。これにより、1つの遺伝子から複数のmRNAが生成される。2)潜性変異:親から子へ遺伝子が引き継がれるとき、ヒトの場合には母方と父方のそれぞれから1つずつ、対になる遺伝子を受け継ぐ。病気の原因となる遺伝子が常染色体の上にあり、一対の遺伝子両方に変異があると発病する場合を潜性変異と呼ぶ。この変異により、遺伝子産物であるタンパク質の欠損や機能低下を引き起こす場合が多い。
3)小脳プルキンエ細胞:ヒトの脳の中で2番目に大きい神経細胞であり、小脳皮質内で最も早く分化する。おびただしい数の分枝をもつ大きな樹状突起が特徴的である。
原著論文情報
・論文名:SNUPN variants cause spinocerebellar atrophy by disrupting global splicing in cerebellar Purkinje cells・著者:Mariko Okubo, Megumu Ogawa, Nobuyuki Eura, Yukiko U. Inoue, Ken-ichi Dewa, Tomoo Owa, Satoshi Miyashita, Terumi Murakami, Hisayoshi Nakamura, Shinichiro Hayashi, Ikuya Nonaka, Katsuhisa Ogata, Mikio Hoshino, Takayoshi Inoue, Ichizo Nishino, and Satoru Noguchi
・掲載誌:Brain
・DOI/http://academic.oup.com/brain/article-lookup/doi/10.1093/brain/awaf348
研究経費
本研究結果は、以下の日本医療研究開発機構「難治性疾患実用化研究事業」、{創薬基盤推進研究事業}および国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。>神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php
>疾病研究第一部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r1/
>疾病研究第六部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r6/
>病態生化学研究部
https://byosei-neuroscience-institute.ncnp.go.jp/




