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自閉症モデルマーモセットの脳においてシナプス形態変化の特徴を見出し、 さらにその特徴がオキシトシン投与で緩和することを発見 ―自閉症におけるシナプス機能変化の理解に貢献―

プレスリリース
神経研究所

2024年6月11日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
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自閉症モデルマーモセットの脳においてシナプス形態変化の特徴を見出し、
さらにその特徴がオキシトシン投与で緩和することを発見
―自閉症におけるシナプス機能変化の理解に貢献―


 
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所 微細構造研究部の野口潤室長、磯田李紗研究補助員、渡邉惠室長、一戸紀孝部長ら、および理化学研究所 脳神経科学研究センター、自治医科大学他のグループは、自閉症モデルマーモセット脳でシナプス動態変化を見出し、さらにオキシトシン投与でその変化が緩和することを見出しました。

研究成果は国際科学雑誌「Communications Biology」オンライン版に2024年5月27日(日本時間)に掲載されました。

ポイント

  • NCNPが開発した自閉症モデルマーモセットの神経細胞のつなぎ目(シナプス)を解析した。
  • 2光子顕微鏡という特殊な顕微鏡によって、生きた動物のシナプス形態を可視化した。
  • 対照群と比較して、モデル群のシナプスの生成・消去は亢進しており、近接(クラスター)したシナプス後部の生成とその後の維持も亢進していることを見出した。
  • オキシトシン投与によって、モデル群ではクラスター化したシナプス後部の生成が抑制された。
 

研究背景

 自閉スペクトラム症(自閉症)は社会的コミュニケーション障害、限局された興味や行動、感覚の変化などを特徴とする発達障害です。自閉症は頻度の高い発達障害で、米国において小児の36人に1人(米国疾病予防管理センター報告: 2023年)、本邦でも3%前後の有病率と報告されています。この数字は増加傾向にあり、今後ますます社会的な対応が必要に
なると予想されます。
 自閉症には特定の遺伝子の発現量あるいは遺伝子発現産物の機能的な変容が深く関係していると考えられています。自閉症に関連する遺伝子には、神経細胞のつなぎ目であるシナプスの構成に関わるものが多く含まれています。シナプスは記憶・学習などを担う部位として知られています。また、シナプス密度の増加やシナプス可塑性の変化、シナプスの不安定性が自閉症モデル動物で報告されるなど、自閉症とシナプス機能の変化は関係が深いと考えられます。自閉症に特有のシナプス機能の変化を見極め、それを軽減することで自閉症の行動的特徴も軽減される可能性があります。ヒトに近い霊長類である「マーモセット」の自閉症モデルを用いてシナプスのはたらきを調べることで、ヒトの病態の解明につながる知見が得られると期待されています。

研究概要・内容

われわれは2021年にヒトの自閉症と病態が近い自閉症モデルマーモセット(新世界ザル)(※1)を開発し、成果を発表しました(Watanabe et al. (2021) Nat. Commun.)。今回の研究では、このバルプロ酸(VPA)曝露自閉症モデルマーモセットを用いて、大脳皮質8野の神経細胞樹状突起および周囲の軸索の構造的ダイナミクスを2光子顕微鏡を用いて調べました。モデルマーモセットでは、シナプス後部を形成する樹状突起スパインの新規生成と消去が増加し(図1)、近接(クラスター化)した樹状突起スパイン生成が、対照サルと比較して生じやすく、また継続して生存しやすいことが確認されました(図2)。同側の軸索の前シナプスブトンも対照サルと比較して高い頻度で生成・消去を示し、投射特異的な可塑性の変化が示唆されました(図3)。鼻腔内オキシトシン投与は、モデル群においてクラスター化スパイン生成を抑制しました(図4)。オキシトシン投与は用量を最適化することや、過剰なシナプスの生成・消去を抑制する手段と組み合わせることで、自閉症に特徴的なシナプス機能が改善する可能性が示唆されました。


図1 生きたマーモセットの大脳皮質樹状突起の2光子顕微鏡による観察
a 2光子顕微鏡による脳内の神経細胞の麻酔下での観察(上段)と実験のタイムスケジュール(下段)。
b 大脳皮質神経細胞樹状突起の生体2光子顕微鏡画像。
c 自閉症モデルマーモセット(VPA曝露マーモセット)において、シナプス後部(スパイン)の生成・消去は対照サル(UE; 非曝露マーモセット)と比較して亢進していた。
d 継続したスパイン形態観察結果の分類の模式図。
e 新規に生成されたスパインが生存する(キャリーオーバー)割合。


図2 近接(3ミクロン以内; クラスター化)したスパイン生成
a 樹状突起スパインのクラスター化解析の模式図。
b クラスター化したスパインの生成率のVPA曝露動物における亢進。
c 新規生成スパイン間距離の累積度数分布。
d ランダムなスパイン配置による偶然的なクラスター率の分布を10,000回のシミュレーションによって求めた(e, fの灰色の線でつながれた点)。
e, f シミュレーションによる分布と実際のクラスター率とを比較した結果、VPA曝露動物において、クラスター化したスパイン生成亢進の有意な傾向(バイアス)が示された。一方、UE動物ではシミュレーションの分布のちょうど中央付近に実際の観察結果の値があり、そのバイアスが少ないことが示された。
g クラスター化して生成したスパインはVPA曝露動物において継続して生存しやすい傾向があった。


図3 軸索上のシナプス(ブトン)の形態的ダイナミクスの検討
a 実験の模式図。
b 生きたマーモセットの神経細胞軸索の2光子顕微鏡画像。赤色の軸索は脳の同側(近距離)から投射された。一方、緑色の軸索は脳の反対側(遠距離)から投射された。
c 軸索の拡大画像。軸索上のふくらみ(ブトン; シナプス前部に相当)の生成と消滅をタイムラプス観察した。
d ブトンの生成率は同側軸索においてUE動物とVPA曝露動物で有意な差があった。一方、反対側軸索では有意な差異が見られなかった。


図4 オキシトシンの鼻腔投与によるクラスター化スパイン生成の変化。
a 実験の模式図。
b-d スパイン生成全体(b)、クラスター化スパイン生成(c)、非クラスター化スパイン生成(d)のオキシトシン投与による変化。VPA曝露動物においてクラスター化スパイン生成がオキシトシン投与後減少する傾向にあった。
e-j 図2と同様に、偶然的なクラスター率と実際のクラスター率とを比較した。スパイン生成のクラスター化バイアス(h)は、VPA曝露動物においてオキシトシン投与によって抑制された(i, j)。一方、UE動物においてはこれと反対方向の変化であり、オキシトシン投与
前のVPA曝露動物とUE動物のシナプスの状態が異なることが示唆された。
k 実際の測定値のP値。


図5 今回の結果から示唆される神経回路の模式図
丸印は神経細胞を示し、神経細胞同士を結ぶ線は軸索を示す。VPA曝露動物においては同側軸索において、キャリーオーバーするシナプスが多いことによって、近距離の神経細胞間の神経回路が過剰に適応する可能性がある。スパインのクラスター化した生成は運動学習の後などに生じたとする報告があるが、近距離の神経回路の行き過ぎた最適化は神経回路全体の最適化を必ずしも意味しないかもしれない。

社会的意義・今後の展望

ASDモデルマーモセットで観察された樹状突起スパインと軸索ブトンの生成・消去の亢進あるいは樹状突起スパインのクラスター化した生成は、局所的な神経回路の構築に関連していると想定されます。オキシトシン投与は自閉症の神経回路においてクラスター化の亢進を緩和する可能性があります。今後、スパイン生成・消去亢進の抑制が期待できる手段を開発して併用するなどで、オキシトシン経路はより有効なASDの治療ターゲットとなると期待されます。

用語説明

(※1) 自閉症モデルマーモセット
南米原産の小型のサル(200-300g)で、両親が協力して子育てをする社会性に優れた霊長類です。また、アイコンタクトや、多様な鳴き声を用いてコミュニケーションをするというヒトと類似した社会行動特性を持ちます。また脳の形態・機能がヒトと似ていて発達した大脳皮質を持ちます。自閉症モデルマーモセットは妊娠早期の母マーモセットに遺伝子発現を変化させるバルプロ酸を投与して作成されました。


(※2) 樹状突起スパイン
大脳皮質等の神経細胞樹状突起において、興奮性シナプスを形成する1ミクロン程度のトゲ状の構造です。数多くのタンパク質が集積することによって、シナプス可塑性といった神経活動に必須の機能を担います。(脳科学辞典 樹状突起スパイン; DOI:10.14931/bsd.8025)
(※3) 2光子顕微鏡
超短パルスレーザーという特殊なレーザーを用いた走査型レーザー顕微鏡です。焦点付近の限られた部分のみの蛍光色素を生体透過性の高い赤外線で励起するために、生体深部の微細構造の観察に適しています。(脳科学辞典 2光子顕微鏡; DOI:10.14931/bsd.8019)

論文情報

タイトル:Altered projection-specific synaptic remodeling and its modification byoxytocin in an idiopathic autism marmoset model
著者名:Jun Noguchi, Satoshi Watanabe, Tomofumi Oga, Risa Isoda, Keiko Nakagaki, Kazuhisa Sakai, Kayo Sumida, Kohei Hoshino, Koichi Saito, Izuru Miyawaki, Eriko Sugano, Hiroshi Tomita, Hiroaki Mizukami, Akiya Watakabe, Tetsuo Yamamori, Noritaka Ichinohe
掲載誌:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-024-06345-9

研究グループ

  • 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部 野口潤、渡邉惠、小賀智文、磯田李紗、中垣慶子、境和久、一戸紀孝
  • 理化学研究所 脳神経科学研究センター 渡我部昭哉、山森哲雄
  • 自治医科大学 分子病態治療研究センター 水上浩明
  • 岩手大学 理工学部 冨田浩史、菅野江里子
  • 住友化学(株) 住田佳代、斎藤幸一
  • 住友ファーマ(株) 星野耕平、宮脇出

研究支援

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって行われました。
日本学術振興会(JSPS)科学研究費基金・基盤研究(C)(一般)「自閉スペクトラム症モデル動物シナプスの2光子顕微鏡を用いた病態の研究」
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費 「(3-5)神経変性・発達障害の病因・病態・治療法開発研究」、「(2-7)発達障害の治療法の確立をめざすトランスレーショナルリサーチ」
日本医療研究開発機構(AMED)「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明(革新脳)」の「脳科学研究に最適な実験動物としてのコモンマーモセット:繁殖・飼育・供給方法に関する研究」

関連リンク


プレスリリース(2021/09/16)世界初 自閉スペクトラム症モデルマーモセットの開発に成功 -治療薬開発のイノベーションに期待-
https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20210916p.html

神経研究所
https://www.ncnp.go.jp/neuroscience/index.php

微細構造研究部
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_mic/index.html

お問い合わせ

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部
野口潤/一戸紀孝
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E-mail: jnoguchi(a) ncnp.go.jp / nichino(a)ncnp.go.jp

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